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【書籍化記念】賭け事の代償(前編)

 パチ…パチ…パチ…。

 …どうみても私の方が優勢よね?

 パチ…パチ…パチ…。

 チラリと前に座る対戦者を盗み見た。

 …なのにどうしてこんなにも余裕そうなの?

 パチ…パチ…パチ…。

 数は圧倒的なのに…。

 パチ…パチ…パチ…。

 いや!相手は初めてだと言っていたし、これなら…勝てるかも!!

 パチ…パチ…パチ…。

 ん?

 パチ…パチ…パチ…。

 え!?

 パチ…パチ…パチ…。

 なんで!?

 気付けば目の前の盤面は…白一色!!


「なかなか奥が深いゲームでしたね」


 オセロでも勝てないのか!?


 ここまでのあらゆるゲームの戦績1勝53連敗中。

 強敵に1勝しているから凄いって?

 あまりにも見事な負けっぷりに対戦相手がワザと負けてくれたのだ。

 しかし勝負事に手を抜かれるのはバカにされたのと同義!

 『今度手を抜いたらもう一緒に寝ないからね!!』と怒った結果がこれだ。

 この世界には無いオセロまで特注で作って挑んだというのに…。

 もうこうなったら麻雀や花札でも作るか?

 いや…この世界にはないUNOも作ってルール説明しただけで、簡単に私に勝った男だ。

 どのゲームも勝てる気がしない…。

 この男に勝って、悔しがる顔が見たいのに!


 執務のため、一度書斎に戻ったルディがいない間に一人作戦会議を開くも良い案が浮かばず。

 ルディは原作でも数少ない名前持ちのハイスペック男。この男に勝つとなると至難の業。

 そんな男に勝てる者などなかなかいな…いや…いた。

 …にやり。

 私が思い出したのは、原作で唯一ルディが勝てなかった男。

 この男なら、私の望みを叶えてくれるかもしれない!

 一縷の望みをかけ、私はその男宛の手紙をしたためた。



 手紙を持ってスキップしながら向かったのは侯爵家の書斎。

 扉を叩くとルディの返事があり、扉を開けた。


「レア?どうされたのですか?」


 ルディはテネーブルとの仕事の話を中断し、私に駆け寄ろうとした。


「あ、ごめん。ルディに用はないんだ。テネーブルに話があるの」


 硬直するルディと、意外な指名に「俺?」と自分自身を指差しながら再度確認するテネーブル。

 そのテネーブルにちょいちょいと手招きした。


「せめて侯爵様がいないところで呼んでくれよ…。頭部にナイフが飛んできそうなくらい、背後の殺気が怖えから…」


 ルディを見ると無表情だが心なしか寂しそう。

 手を振ると、小さく可愛く振り返してくれた。


「大丈夫そうだよ?」

「そりゃあ夫人はな…」


 ぶちぶち文句を言うテネーブルを連れて中庭に移動した。



 人の気配がないことをテネーブルに確認してもらい、したためた手紙を取り出すと、宛名を見てテネーブルが嫌そうに顔を歪めた。


「なんか企んでんなら止めた方がいいと思うけど…。侯爵様に知られたら大変なことになるぞ」

「私の代わりを呼ぶだけだから大丈夫だよ。それよりこの二人の熱い戦いを見てみたくない?」


 これにはテネーブルも少し興味があるのか、黙ったまま渋い顔で手紙の宛名に目を落とした。


「心配しなくてもあなたはその手紙を届けてくれればいいの!責任は全て私が取るから!」


 自信満々に胸を張ると、テネーブルは溜息を吐きながら頭を掻いた。


「侯爵様の指示で会いに行く予定はあるから届けてやるけど…本当にいいんだな?何が起きても俺は知らねえぞ」

「心配しなくていいから!とにかく頼んだわよ!」


 テネーブルの胸に手紙を押し付けると、お客を迎える準備のため気合を入れて屋敷に戻った。



 翌日の夕方。


「…レア。これはどういうことですか?」


 仕事から戻ったルディの眉間にわずかな皺が寄っている。


「どうもこうも見ての通りだけど?殿下。ようこそおいで下さいました」


 ルディの後ろに立つ王太子が、いつもの爽やかな笑みを浮かべながら私に小さく手を振った。


「今日は食事に招待してくれてありがとう」

「いえ。夫がいつもお世話になっておりますから」


 若干不機嫌なルディの腕を引き隣に立たせると、ルディは「夫…」と隣で感慨深そうに小さく呟いている。

 そんなルディを放置して王太子を席に案内すると食事を始めた。

 だが、私の目的はのんびり食事会ではない!

 デザートを食べながら、私は王太子に提案した。


「殿下。お時間がありましたら食後に少し遊んでいかれませんか?」


 ルディも王太子も手を止めた。


「最近ルディと色々勝負をしているのですが、とても強くて。私の夫に勝てる人などこの世界にいないのではないかと思っていたところなのです」

「それは…興味深いね。是非、勝負してみたいものだ」

「いいでしょう受けて立ちますよ」


 私の言葉に二人の男が闘志を燃やした。


「では殿下は私の代わりに戦って下さるということで、よろしいですね?」

「私は構わないよ。その場合はもちろん夫人は私を応援してくれるのだろ?」


 結果的にはそうなるのかな?


「…なるほど…。分かりました」


 王太子の応援をしてもよいのか考えていると、ルディが呟いた。


「ただし…」


 ルディが一拍置いて私達を見据えた。


「もし俺が勝った場合、お二人には一日、俺の指示に従ってもらうという条件を付けさせて下さい」

「いいだろう。もし私達が勝った場合はルディウスが一日、私達の指示に従うのだろう?」

「…いいでしょう」


 ルディの出した条件に嫌な記憶が蘇った。

 もし負けたらあの地獄が待っているのか…?

 そう…あれは二人で遊べるように改変した大富豪をした時だ。

 初めてするというルディに勝てるかもしれないと思った私は、負けた方が一日勝った方の言う事を聞くという条件を出した。

 その条件がルディを覚醒させてしまった。

 本気を出したルディの前に無残な大貧民となり、その後、丸一日寝室に籠る羽目に…あの時はさすがに死ぬかと思った…。

 あれ以来恐怖で賭けは止めたのだが…。

 静かに闘志を燃やしているような二人を窺い見た。

 一人は不敵に笑う王太子。それとは対称的に…無表情過ぎて怖いんですけど!!

 ルディがチラリとこちらを見ながら目を細めた。

 その目に数ヶ月前まで恐怖していた感覚が過った。

 こ…これは、『来る終末の日』に恐怖していたあの時の感覚に似ている!

 唐辛子スプレー持参しておいた方がいいかな?


「あ~あ…。あれは相当怒っているかな?」


 背後から聞こえてきた声に肩が跳ね、振り返ると苦笑いを浮かべるテネーブルが立っていた。


「だから忠告してやったのに」

「だってただの遊びだよ?そんなに怒ることじゃないでしょ?」

「愛しい奥さんが他の男の味方をするんだぞ?遊びとはいえいい気はしないだろ」


 チラリとルディを窺うも、もう私の方は見ていなかった。

 ルディの気分を害するつもりはなかったけど、これで離婚とかになったら…いや、その前に殺される確率の方が高そうだ。


「…いざとなったら…逃げる!」

「…あの侯爵様が逃がしてくれるとは思えねえけど…」

「どうしてそう否定的な事ばっかり言うのよ!!」


 半べそをかきながらテネーブルに怒ると、さすがに言い過ぎたと思ったのかテネーブルは慌てながら訂正した。


「大丈夫だって。侯爵様なら大好きな夫人に酷い事したりするはずないって…たぶん…」

「そこは確信持って言ってよ!!」


 もしこれで王太子が負けて『存在が不快なので死んでください』とか言われたらどうしよう!!

 本当に勝てるよね!?

 




読んで頂きありがとうございます。

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