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諜報員の仕事(テネーブル視点)

「どうして…どうして見つかったんだ!?」


 少ない髪を振り乱しながら必死で逃げる小太りの男。

 その男の上に容赦なく飛び乗った。


「うぎゃ!!」


 蛙が潰れたような男の声に思わず吹き出した。


「うぎゃって何だよ。逃げるおたくが悪いんだろ?」


 地面に伏している男の上で胡坐をかきながら肘を突き、顎を手に乗せた。


「あんまり手間取らせんなよ。早く捕まった方が身のためだぞ」


 こんなことを言って素直に聞く悪党はいない。

 聞くような相手なら逃げ出していないだろうし。

 だが俺は本気でこの悪党を心配して進言してやったのだ。

 なぜなら…。


「苦しんで死ぬか、苦しまずに死ぬか…選べ」


 一択しかねえ!しかも生存の余地なし!

 音も無く現れた俺の雇い主がスラリと剣を抜き男の鼻先に突きつけた。

 今日は特にご機嫌斜めだな。

 隠し切れない殺気に悪党は俺の体が揺れるくらい震え上がった。


 この悪党が早く投降してくれていればこんな事態にはならなかったのに…。


 ――――――――――――――――――――


「は?」

「だから、不正していた伯爵が逃げ出したんだよ」

「…はあ」


 それをなんで俺に言うんだ?


「まだ逃げたばかりだからそんなに遠くにはいっていないと思うが、国境を超えると厄介だ。今日中に捕らえてくれ。()()()()()()


 最後の強調がこれから起こることを予見しているようだ。


「今日って…休暇中っすよ?」


 『誰が』とは言わないが、目の前の男はそんなこと百も承知だと言わんばかりににこやかな笑みを浮かべた。


「だからお前を呼び出したんだろ」


 俺は正直この目の前の男が苦手だ。

 雇い主は無表情だがまだ話が分かるところもあり、可愛げもある。

 だがこの目の前の男はにこやかな顔とは裏腹に、知らない間に人を操り自分の駒にしてしまうような奴だ。

 雇い主だって下手をすればもう駒に…。


「こういう時のためにお前の罪を免除してやったんだ。しっかり働いてもらおうか」


 駒にされていたのは俺の方だった!!



 断るという選択肢はなく、やってきたのは雇い主の屋敷だった。


「今度の夜会のドレス、またお揃いにしたいな」

「いいですね。前よりもっとお揃いにして見せつけてやりましょう」


 庭では休暇中の『誰か』さんが大好きな奥さんとお茶を楽しんでいた。


「早速お店に連絡を…ってあれ?テネーブル?」


 俺の存在に気付いた夫人が小首を傾げて俺を見た。

 雇い主は恐らくもっと早い段階で俺に気付いていただろうが完全無視を決め込んでいる。

 俺だって好きで来てんじゃねえよ。


「どうしたの?」


 夫人だけが頼りだと心の中で呟きながら恐怖の一言を発した。


「侯爵様、仕事っす…」

「え?仕事?今日って休みじゃ…」

「休みです」


 夫人が言い終わる前に即答した。


「でも、今、仕事って…?」

「休みです」


 今度は俺の顔を睨みながら言ってきた。しかもちょっと低い声で。

 その圧が強すぎて俺は侯爵様から視線を逸らした。

 俺だって捕らえる権利があれば夫人との楽しい時間を邪魔してまであんたに頼らず捕らえに行ってるよ!

 だけど逃げた相手は伯爵位。

 侯爵のあんたが動いてくれないと捕らえられないんだよ!


「ルディ。事情は分からないけど仕事なら行かないと。私とのお茶はいつでも出来るじゃない」


 それだけが楽しみで頑張ってるんだよ、侯爵様は。

 笑顔で手を振り送り出す夫人に対して侯爵様は見捨てられた子犬のようにその姿を見つめながらも、背中からは邪魔をした俺に対しての殺気が漂っている。


「俺、先に行くから…」


 侯爵様が暴走する前にさっさと捕らえてとっとと帰ってもらおうと決意したのだった。


 ――――――――――――――――――――


 剣を振り下ろす侯爵の剣を短刀で防いだ。


「おい!さっさと捕らえられ…」


 短刀で防ぎながら悪党伯爵の方を見ると伯爵は泣きながら「私を捕まえてくれ!!」と騎士に懇願していた。

 じゃあこの侯爵の剣の怒りは…。


「そんなに死にたいなら死なせてやる」


 死にたくねえ!


「こんなことしている暇があったら早く夫人のところに帰ってやれよ!あとは俺が処理しておくから!」


 伯爵を捕らえてしまえば用はない。

 究極の切り札を出すと侯爵は途端に殺気を引っ込めて剣を鞘にしまい、いそいそと帰って行った。

 ほんと奥さん大好きだよな、あの人。

 夫人を守るためならどんな奴にも立ち向かう。

 だからあの腹黒も侯爵様だけは駒に出来ていないのだろう。

 たった一人を守るための強さか。

 そんなところに惚れこんで侯爵家お抱えの諜報員になったんだけどな。


 それにしても俺しか侯爵様を止められねえからって無茶頼みやがって。

 まあ駄賃貰ってる俺が言えた義理じゃないけど。

 さて、侯爵様を帰しちまったから代わりに後処理でもしておきますか。

 残業代はもちろん腹黒に請求してやる。


 王太子からもらった金貨を指で弾いたのだった。





いつも読んで頂きありがとうございます。

今回は話が短めだったので『いいね』ランキングを載せようと思います。

最終話だけは圧勝なので抜かしました。


第一位 平穏な日々の為に(侯爵家使用人視点):二人のその後が人気で良かったです。

第二位 ここは天国ですか:作者もこの話大好きです

第三位 読めない義理弟:まさかここでランクイン!?今までランク外だったのに予想外の展開!


今回はルディ甘めストーリーが上位を占めていてホッとしています。

迷走していましたが、やっぱり二人の甘めストーリーの方が皆さんお好きかな?という結論に達しました。

クリスマスくらいに二人の甘々後日談ストーリーを投稿出来たらいいなと思う作者なのでした。


読んで頂きありがとうございます。

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