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人攫いにご用心

 翌日。

 洋服店に入ると令嬢達が声を潜めて色めき立っていた。


「ルディウス様よ」

「今日も素敵ね」


 ふっふっふっ…。

 うちの子、カッコいいでしょ。

 ドヤ顔で聞き耳を立てていると上品そうなマダムが声をかけてきた。


「これはこれは。クラヴリー公爵家の御子息様ではありませんか。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「姉上の夜会用の衣装を買いたい」

「かしこまりました。ではこちらへどうぞ」


 ルディとマダムの会話に目が点になった。

 マダムに案内され歩いているルディの袖を引っ張った。


「今日はルディの衣装を買うんじゃなかったの?」

「姉上の衣装が決まらないと合わせられませんから」

「姉の私と衣装なんか合わせたら変な誤解されちゃうよ」

「俺とお揃いは嫌ですか?」


 仲良し姉弟に見えるのは悪いことではないけど、お互いの結婚が遠退くことは間違いない。

 まあ私も今は結婚とか言っている場合でもないし、ルディもヒロインと出会ったらどうなるか分からないからこれでルディの心が少しでも開いてくれるなら。


「ルディが嫌じゃなければ私は嬉しいよ」


 良い男とお揃いなんて優越感に浸れそうだし。


「では試着してみましょう」


 試着室に案内された私は後悔することになる。


 この義理弟…こだわりが半端ない!

 試着したドレスを見て突然オーダーメイドで依頼し始めたのだ。

 マダムが書いたデザイン画にあーだこーだと意見し合ってヒートアップ中。

 私はサイズを測ってくれているお姉さんと置物のように突っ立ってその光景を眺めていた。

 ルディは原作の中でも貴重な名前持ちだから美的センスも完璧な男だというのはわかる。

 だけど私のドレスだよ?姉としてしか登場しない名前もない人間のドレスにそこまでこだわるか?

 だが一切妥協しないのがこのルディウスという男だ。

 妥協するなら暴挙に走る事もなかっただろうし…。



 疲れた私は一足先に店を出て馬車へと向かった。


「…して!!」


 フラフラになりながら馬車に乗り込もうとすると路地裏から誰かの叫び声が聞こえてきた。

 声のする方に向かうと男女の揉めている声が。


「暴れるな!黙ってついてこい!」

「いや!!誰か…!」


 こっそり顔を覗かせると数人の屈強な男達に囲まれ奥へと引きずり込まれていく女性が。

 必死で抵抗するも口を布で塞がれそのまま担ぎあげられた。

 これは人攫い!?

 私は咄嗟に持っていたバッグを担ぎ上げた男目がけて投げつけた。


「その手を離しなさい!この人攫いが!」


 男はバッグが命中した頭をさすりながら振り返った。


「なんだてめえは?」


 仲間と思われる男達も私の方に体を向けた。


「見られたからにはこいつも連れて行くぞ」


 担いでいる男が指示を出すと、周囲にいた男達は私を捕らえようとじりじりとにじり寄ってきた。

 バカな奴らめ。

 ルディの暴挙を止めるため7年の時を費やした防犯グッズの威力を味わうがいい!!

 防犯グッズを取り出そうとして青ざめた。


 バッグ投げちゃったよ!!


 防犯グッズは女性を担いでいる男の足元に無残に散らばっている。

 慌てる私を見た男達はニヤニヤ嫌な笑みを浮かべながら近付いてきた。


 こうなったら最後の手段!


「だれかーーーー!!助けてーーーー!!」


 最大級の叫び声を上げる私に慌てた男達の手が伸びてくるも、風を切る音と共に男達は咄嗟に手を引いた。


「汚い手で触るな」


 私を背に庇い男達に剣を向ける人物に目を見開いた。


「お怪我はありませんか。姉上」

「あ…うん…」


 まさか助けにきてくれたの?

 ルディの威圧に男達は一瞬怯むも数の上で優勢と判断したのか刃物を取り出すと一斉に襲い掛かってきた。


「ルディ!危ない!!」


 叫ぶ私を尻目にルディが剣を振るうと一瞬で男達は地面に伸された。

 え?なにこれ?チート系ファンタジーの世界ですか?

 ジャンルが異世界恋愛だと思っていたのは私だけですか?

 ジャンルが違うなら技名を考えないと。

 『疾風迅雷』ってのはどうだろうか。

 おまけで『六連』とか付けちゃう?

 などと的外れなことを考えている間にルディは女性を担いでいた男も気絶させていた。

 果たしてこの子が暴走した時、私は逃げ切る事が出来るのだろうか…。

 …やはり王太子を手玉に取る作戦を決行した方が良さそうな気がする。


「あ…あの…ありがとうございました」


 ルディに抱き留められた女性は地に足を着けるとお礼を言った。


「礼は姉上に言ってください。姉上を助ける序でに助けただけですから」


 驚きで顎が外れそうなくらい口が開いた。


「なんですか、その顔は…」


 ルディが無表情のまま私の方に振り返った。

 だってこの子が私を優先的に助けるなんて夢にも思ってなかったから。

 明日は血の雨でも降るのだろうか…。


「あの…ありがとうございます」


 女性は私の前に歩み出ると花が咲いたような可愛い笑顔でお礼を言ってくれた。

 緑の瞳に金髪のその女性はまるで天使のような可愛らしさだ。

 毒々しい紫の髪の青紫の瞳の私とは大違い。

 あまりの可愛らしさに見入っていると女性の頬に小さな切り傷を発見した。

 あの野郎!美少女の顔に傷なんか作りやがって!!

 寝転がっている男に殺気を浴びせているとルディが女性にハンカチを差し出した。


「少し血が出ているので、良かったらどうぞ」


 再び顎が外れそうなくらい口を開いた。

 この子、こんなに紳士的だったっけ??


「汚してしまうといけないので…」

「構いません。差し上げます」


 なになにこの二人…ちょっと良い雰囲気じゃないの!!

 小説のネタになりそうなくらいお似合いの二人に、この二人を主役にした物語でも書いて出版しようか検討し始めた。

 …逃走資金を貯めるために。



 結局女性はルディからハンカチを受け取ると何度もお礼を言って帰って行った。


「それにしても可愛い子だったね」


 帰りの馬車の中で先程の女性の姿を思い出していた。

 私もどうせ転生するならモブでいいから彼女になりたかった。

 むしろ彼女の方がいい。

 殺される悩みを抱えなくてもすむから。


「そうですか?」


 素っ気ない返事のルディにニヤニヤと笑みを浮かべた。


「そんな事言って。お似合いでしたよ、お二人さん」

「彼女は俺の好みではありません」

「え?好みの女性なんているの?」

「俺をなんだと思っているのですか」


 ヒロインとはまだ出会ってないよね?

 ヒロイン以外に興味のある女性がいるってこと?

 …まさか王太子とそういう関係とかってことはないよね…。


「ちなみにそれって…女性の話だよね?」


 男同士でも全然いいんだよ。

 性別とか関係なく好きになった人と結ばれるのが一番だから。

 イケメン同士のBLってのもネタとしては有りだし。

 ただ君の場合はヒロイン以外に興味がないと思っているから、執着する相手が変わると私の作戦も変えていかなければいけなくなるという問題が…。


「…姉上は本当に鈍いですね」


 はあ!?

 原作者の私に鈍いとか!

 私の愛に気付かないあんたの方がよっぽど鈍いわ!!

 




読んで頂きありがとうございます。

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