甘い彼
「え!?ルディ侯爵になったの!?」
ルディと夕食を食べているとルディから報告された。
もしかして若手記者が言いかけてた入手した情報ってこれのことだったのかも。
「それ、お祝いしないと!!」
「全然めでたくないのでしなくていいです」
「なんで?だって陞爵したんでしょ?」
「二大貴族が没落して王家を支える爵位持ちが欲しかっただけでしょう。無駄にこき使われるのは目に見えているので全く嬉しくありません」
普通なら嬉しいところもドライだな…。
「でも私はルディが仕事を頑張っているのを新聞社で聞いて嬉しかったよ。褒めてあげたいとも思ったし」
「…それは褒めてもらわないといけませんね。では二人でお祝いしませんか?」
ルディの提案に笑顔で頷いたのだった。
お祝いは二人でゆっくりお酒が飲みたいというルディの希望に合わせてルディの部屋に移動した。
「このお酒美味しい!」
甘いフルーティな味わいのお酒に飲み過ぎてしまいそうだ。
「今後も取り寄せるよう手配しましょう」
お酒のコルクを開けたルディからボトルを取り上げた。
「お兄さん、お注ぎしますよ」
ほれほれとボトルの口を傾けるとルディがグラスを持ち上げた。
「もう酔ったのですか?」
「全然酔ってないよ。まだまだ飲むつもりだし」
ルディのお酒を注ぐと自分のグラスに口付けた。
「あの時はジュースとケーキでお祝いしましたね」
あの時というとルディが王宮騎士になった時のことかな?
そういえば下手くそな刺繍のハンカチもプレゼントしたんだった。
忘れているなら黙って…。
「でも一番嬉しかったのはレアが初めて刺繍してくれたハンカチをお祝いにくれたことですね」
思わずお酒を噴き出した。
「お…覚えていたの?」
「忘れるわけありませんよ。レアから貰った物は全て取って置いてありますから」
まさかあの誕生日にあげたガラクタとかも?
ルディの誕生日は毎年悩んだ。
だって喜んでいるのか怒っているのか悲しんでいるのか笑っているのか全く分からないから!
そういえば今年の誕生日は…ん?
「ル…ルディ…」
「はい?」
「あなた、今、いくつになった?」
「先月17歳になりましたが?」
なんてこった!!
立て続けのゴタゴタでルディの誕生日を忘れるなんて!!
「私、今年ルディの誕生日になにもしてあげてない!!」
血相を変えてルディの胸元を掴む私の手をルディがそっと包み込んだ。
「レア、心配はいりませんよ」
そう言うと部屋の隅に置かれていた高級そうな箱の蓋を開けた。
その箱何かな?って気にはなってた。
ルディが箱から取り出し組み立て始めた。
完成したのは巨大な箱。
箱の中に箱をしまっていたの??
「今年はこの箱の中身を頂きますから」
え?それ今組み立てたところだよね?空箱じゃないの??
空気くれってこと??
ルディの意図がわからず組み立てられた箱の中を見た。
箱はやはり何も入っておらず空っぽである。
「覚えていませんか?12歳の誕生日にくれたレアからの贈り物」
ルディが12歳というとまだルディの驚く顔を見たいと頑張っていた…あっ!!
そう、あれは忘れもしない…忘れてたけど、ルディ12歳の誕生日。
なかなか驚かないルディに人間ビックリ箱で驚かそうと巨大な箱の中で私はスタンバっていた。
だが上蓋がなかなか開かず、眠くなった私は箱の中で寝てしまったのだ。
箱の中に光が差して目が覚めると、無表情のルディが箱の中を覗き込んでいたのだ。
あの時は人類が壁を破壊された時並みの恐怖を味わったよ。
『食われるうぅっ!!』ってね。
まさかその箱まで取ってあるなんて…。
「いつかこの箱の中身を貰える日を楽しみにしていたのです」
今は違う意味で食われそうだ…。
「ルディ…」
「はい」
「この中身は結婚後にあげるっていうのでどうかな?」
「…そうですね」
考え込むように呟くルディに嫌な予感がした。
「では結婚後は思う存分中身を堪能させてもらいましょう」
私、なんかヤバい約束をしちゃったかも…?
光が目に入り目を覚ました。
あれ?私、あの後どうしたんだっけ?
寝返りを打つと…デジャブ?
顔を上げると蝋人形。
うん。たぶん酔ってテーブルに突っ伏した私をルディがベッドまで運んでくれたのだろう。
もう二日連続でルディと寝たら部屋もこのままでいいかもと思ってしまう自分がいるから怖い。
「おはようございます、レア」
朝から眼福。うん。毎朝この顔を拝めるならこのままでもいいや。
「おはよう、ルディ」
挨拶を返すとルディの目元が和らいだ。
「朝も夜もずっとレアの傍にいられるのはいいものですね」
「そ…そう…?」
ルディってこんなに甘い子だったっけ!?
ランドール侯爵邸にある庭園にやってきていた。
今日は仕事が休みらしく…本当に休みかは疑わしいが…ルディに何をしたいか聞かれたのでいつも休みにルディが何をしているのか知りたいと言ったところ連れて来られたのがここだった。
たくさんの花が咲く中で、ルディは見覚えのある花に近付き手入れをし始めた。
「この花、公爵邸でも世話をしていたよね?」
そうこの花は公爵邸の自室のベランダでルディが育てていた花だ。
「よく覚えていましたね。これは爵位を授与された時に公爵邸からこちらに移した物です」
「でも前はもっと違う色じゃなかった?」
ルディは宝物を扱うように花に触れた。
「ええ。この色になるように品種改良を続けていましたから」
品種改良まで出来るの!?
この子天才!?
出来る男は違うな…。
「綺麗な色だね」
「ええ。レアの色ですから」
ルディに言われて花をよく見ると花弁は私の髪の色、付いている花粉は私の瞳の色にそっくりだった。
まさかルディはこの花を私だと思って…ぎゃあああああ!!
「この花はまめに手入れをしてあげないと違う花粉が混ざって色が変わってしまうんです」
そう言いながらルディは素手で一つ一つ大切そうに手入れをしている。
その優しそうな手付きに顔が紅潮した。
「手袋しないと色が付くわよ…」
恥ずかしくて見ていられなくなった私は近くにあった手袋をルディに差し出した。
「ありがとうございます。でもレアの瞳の色に染まるので素手で手入れをしたいのです」
ルディが甘すぎて私の心臓が破裂しそうだ。
「…ルディは私のどこが好きなの?」
照れ隠しのためスコップで土いじりをしながら聞いてみた。
「多すぎるので書面に書き起こした方がいいですか?」
そんなに好きになれる箇所ある?
「ごめん。聞き方間違えた。何がきっかけで好きになってくれたの?」
「9歳の時ですね」
「家族になってすぐの時じゃない!?」
だってあの時は私を階段から突き落とすくらい嫌っていたはず…。
「公爵の犬を追い払った時のことを覚えていますか?」
忘れもしない。唐辛子爆弾を浴びて酷い目に遭ったからね。
「あの時のレアが大きくて」
え?偉そうってこと?
「レアは俺の世界を変えてくれた唯一の人です。小さな体なのに大きな愛で俺を包んでくれて…それがとても居心地が良かった」
ルディは私の愛に気付いてくれていた。
…私はルディの愛に全く気付かなかったけど。
「だからレアは俺の全てなのです」
そう言うと私色の花を一輪摘み私の耳にかけた。
「…ルディって女殺しだよね」
「…誰かさんに気付いて欲しくて努力した結果なんですけどね」
ルディが甘いのは私のせいだったのか!
読んで頂きありがとうございます。