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使用人達の春

 仕事をサボってまで私と甘い時間を過ごそうとしていたルディを無理矢理仕事に追いやり一息吐いた。

 ルディがあそこまで私を想ってくれていたなんて全然気付かなかった。

 いや、気付けるわけがない。だってずっと無表情だし。

 でも考えてみれば兆候がなかったこともないかも…。

 ルディが自分から他の令嬢と話している姿を見たことないし、なんだかんだ言っても私のくだらない遊びにも付き合ってくれていたし、よく考えたらいつも近くにいたよね。

 ん?一体ルディはいつから私の事が好きだったんだ?

 にやけそうになる顔を引き締めた。

 帰って来てから聞いてみよ。



 それよりあの後事件はどうなったんだろう。


「あの…新聞を読みたいのですが…」


 近くで仕事をしていた使用人に声をかけると慌てたように姿勢を正した。


「ただいまお持ちします!」


 物凄いスピードで足早に去って行った。

 しばらく待っていると先程の使用人が執事と一緒に足早に戻って来た。


「お待たせ致しました。本日の新聞にございます。他に読みたい新聞がありましたらすぐにご用意しますので仰ってください」


 なんでこんなに平身低頭なの!?


「あ…ありがとうございます。…そんなに気を遣われなくても大丈夫ですよ。私、居候の身ですし…」

「居候などとんでもない事でございます。お嬢様は将来の伯爵夫人。我々にとっては伯爵様同様、主でございますから」


 後ろにいる使用人も大きく何度も頷いている。

 なんでもう伯爵夫人扱い!?

 まだ『結婚申請書』なる物にサインすらしていないのに!


「あの…まだ結婚はしていないので伯爵夫人になれるかどうかは…」


 執事と使用人が焦りの表情を浮かべた。


「そんなことを仰らないで下さい!お嬢様以外ランドール伯爵様の奥方になれるお方はおりませんから!」


 なんでこの人達こんなに必死なの!?


「伯爵様に仕えて数週間。今朝、初めてまともに会話することが出来たのです!それもこれも全てお嬢様のお陰です!」


 いや、ちょっと待て。

 今朝の会話って『レアが不自由ないように対応してくれ』『お任せください!』だけじゃなかった!?


「その…ルディとは今までどうやって会話を?」

「『ああ』『任せた』『下がれ』の三語で済んでおりましたので」


 どんな関係よ!

 どうりで今朝の返事に気合入ってたわけだわ!

 ルディ…せめて執事さんとはコミュニケーション取ろうよ。



 庭でお茶をしながら新聞を開いた。

 そこら中で使用人達のチラチラとこちらを窺う視線が…。

 この視線、興味の視線ではなく、私が何かして欲しいと思ったらすぐに駆け付けられるようにスタンバイしているのだ。

 さっきも新聞をゆっくり読める場所がないか尋ねようとしたら5人くらい使用人が走ってきた。

 視線が痛いから部屋に戻ろうかとも思ったが、戻ったら戻ったで使用人さん達が何か不備があったのではと気にするかもしれないと思うと部屋にも戻れない。

 一体使用人にどういう対応をしたらこうなるんだ?



 視線を無視して新聞に集中した。

 新聞には公爵夫妻が投獄の文字が大々的に載っていた。

 そこには私達が突き止めた真実と私も知らなかった母が前公爵夫人を手紙で呼び寄せ父の暴走した馬車と衝突させたことも書かれていた。

 母が聴取で公爵の子供が出来たと嘘の手紙を送ったと自供しているそうだ。

 最後に王宮に私の無罪を嘆願してくれた国民に感謝するフィルマンの言葉で締めくくられていた。


 これで二大貴族が立て続けに没落したことになる。

 この先この国の勢力図は大きく変わっていくのだろう。

 私の小説ではテネーブル暗殺を防いだあとはルディが本格的に動き出す展開になるのだが、そのルディは今…。

 にやけそうになる顔を引き締めた。

 だってみんなが見てるから。

 テネーブルの事も気になるし、新聞のお礼にフィルマンにでも会いに行ってこようかな。

 立ち上がると私の様子を窺っていた使用人達が傍に寄ってきた。

 立ち上がっただけなんですけど…。

 まあいいわ。

 近くにいた使用人に新聞社に行きたい事を告げると顔を輝かせて動き出した。

 これは帰ってきたらルディをお説教だな。



 新聞社に入ると相変わらずそこら中で紙が舞っている。

 今はクラヴリー公爵夫妻の事件で特に忙しい時だろう。

 後日改めて訪問しようか考えていると、前回はスルーしていた若手記者が声をかけてくれた。


「クラヴリー公爵令嬢?…あっ!失礼しました」


 クラヴリーの姓に遠慮したのだろう。


「レリアでいいわよ」

「レリア様、もしかしてフィルマン社長に会いに来られたのですか?」


 フィルマン…社長!?


「フィルマンが社長になったの!?」

「ええ…ランドール伯爵から聞いていませんか?」


 え?ルディが何か仕組んだの??


「ジェロームさんがクラヴリー公爵から賄賂を貰って記事を操作していたこともあって、王宮から二度とこのようなことが無いようランドール伯爵に管理を依頼されたそうです。フィルマン社長は記事の監視役として伯爵から社長に任命されたのですが、そのお陰で我が社は国営新聞として扱われるようになり今一番人気のある新聞社になったんです」


 なんだかんだ言ってもきちんと仕事をしているルディを誇らしく思うと同時に鼻が高い。

 帰ってきたら褒めてあげよう。


「それより聞きましたか!今入手した情報なんですがランドール伯爵が…」

「お客様といつまで立ち話をするつもりだ?」


 奥から現れたパリッとしたスーツを身に着けたダンディなおじさまに首を傾げた。

 誰?


「社長。すみません。気が利きませんでした」


 社長って…フィルマン!?


「お前は仕事に戻れ」


 フィルマンに顎でオフィスを指されるとペコペコと若手記者は頭を下げながら立ち去って行った。


「二日ぶりか、お嬢様」

「あなたフィルマン?随分雰囲気が変わったわね…」

「そりゃああの恰好で仕事は出来ないよ」


 話しながら応接室に移動するとフィルマンはお茶を差し出してくれた。


「それにしても急な出世ね」

「お嬢様の旦那さんのお陰でな」


 ここでもか。

 そんなに私達って他の人から見ると熱愛カップルに見えるのかな?

 当事者だと全然分からないんだけど。

 相手が無表情過ぎて。


「明日の一面を飾りたかったでしょうが、残念ながらまだ結婚はしていません」

「時間の問題だろ」


 ぐうの音も出ない。


「それよりテネーブルはどうなったか知らない?捕まったりしていないよね?」

「脱出した後、すぐに姿をくらましたから俺も知らないんだ。でもあの感じだと多分伯爵様には褒美を貰いに接触するんじゃないか」

「褒美って?」

「俺達に協力してくれていたのは伯爵様の指示だったらしい。まあお陰で相手が証拠を隠滅する前に捕らえられたんだけどな」


 ルディは凄いな。

 それに比べて私はルディに助けられてばかりだ。

 私もルディのために何かしてあげたい。って言うと『結婚申請書に署名して下さい』って言われそうだけど…。



 伯爵邸に戻りルディに何かしてあげられないだろうかと考えていると部屋の扉が叩かれた。


「お嬢様。もうすぐ伯爵様がお戻りになられますがお出迎えはいかがいたしましょうか?」

「一緒に行きます」


 伯爵家の執事と玄関に出るとちょうど馬車が到着したところだった。


「お帰り、ルディ」


 馬車から下りてくるルディを笑顔で迎えるとルディが無言で立ち止まった。

 え?何か変かな?


「レアに出迎えてもらえるなんて幸せです」


 それ、もうちょっと幸せそうな顔して言ってくれないかな?

 無表情なんですけど。


 しかし執事さんには嬉しい変化だったようでハンカチで涙を拭っていた。





読んで頂きありがとうございます。

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