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全ては君を守るために(ルディウス視点)

 王宮からの帰り、王太子に散々こき使われて夜中になっていた。

 今日はレアの寝顔しか見られないと溜息を吐いているとわずかに屋敷の方から嫌な気配が漂ってきた。

 馬車から下りた俺が真っ先に駆け付けたのはレアの部屋だった。


 暗殺者を追いかけて馬を走らせ辿り着いたのはエドワール侯爵邸。

 侯爵を追い込んだ俺への仕打ちにレアを狙ったのか?

 どちらにせよレアの命を奪おうとした罪は償ってもらう。


 屋敷の中に入ると暗殺者がエドワール侯爵の妻と娘に刃を向けていた。

 俺がそれを止めに入ると暗殺者は驚いて飛び退いた。


「ルディウス様!」


 喜びの声を上げる令嬢を無視した。


「おいおい。その娘が依頼者なのにあんたはそいつを助けるのか?」

「私が暗殺を依頼したなんて嘘です!」


 令嬢の言葉が全てを物語っている。


「勘違いするな。俺はレアの命を奪おうとする奴等全員を俺の手で始末したいだけだ」


 俺が怒気を孕んだ声で静かに口を開くとその場の全員が体を震わせた。


「俺は嬢ちゃんの伝言を伝えにきただけだ。もう嬢ちゃんには関わらねえよ」


 そういうと暗殺者は姿を消した。


「ル…ルディウス様…?私は本当に何もして…」


 俺に手を伸ばす令嬢を見下ろすと令嬢は瞬時に手を引っ込めて震えながら母親に抱きついた。

 あいつを暗殺者だと知っていた時点でこいつは黒だ。

 誰にも知られずここで死ね。

 …という執行はレアの登場で阻まれた。

 なんでレアはこうも余計な技術ばかり身に付けるのだろうか?



 爵位の授与は一切の障害なく行われた。

 王太子はクラヴリー公爵が反対するのではと心配していたが、俺は絶対に反対しないと分かっていた。

 なぜなら公爵は俺に跡を継がせる気がないからだ。

 理由は簡単だ。

 王位継承権を持つ俺が跡を継げば自分の代よりクラヴリー公爵家の威光が上がる。

 しかも今の俺は王宮騎士であり、不本意だが王太子に連れ回されているお陰で王太子のお気に入りと言われている。

 そんな俺に嫉妬しているのだろう。

 相手より下に見られたくないとは、ちっぽけな人間の考えそうなことだ。

 だが邪魔をしてこないのは俺にとっては都合がいい。

 あとはこの結婚申請書にレアの署名さえ書いてもらえば。

 待ちに待った日はもう間もなくやってくる。



 結婚申請書があればレアの署名を貰うだけで結婚は出来るが、これはあくまでも緊急措置。

 最低限の手順の途中で問題が発生した場合に有効なのだ。

 だから俺は不本意だが公爵にレアとの婚約の申込書を送った。

 予想通り何度送っても返事が来ることはなかった。

 こうなったら強硬手段に出るしかないと動き出した。


 その結果、絶望が待ち受けているとも知らずに…。



 レアに振られてから俺は伯爵邸に引きこもり酒を呷っていた。

 内心レアはもしかしたら俺を異性として意識してくれているのではと期待していた分、精神的打撃が大きかった。

 でも結局レアは俺を義理弟としてしか見てくれていない。

 自分の署名が書かれている『結婚申請書』を取り出した。

 レアを攫って無理に署名してもらうことも出来た。

 だけど嫌がるレアに強要はしたくない。

 クシャリと用紙を握り潰した。

 結婚出来なくてもいい。弟としてでもいい。それでも…傍にいて欲しい。

 レアへの想いが止まらずまた酒を呷った。

 酔いたいのに酔えない。その証拠に俺は近くにあった短刀を天井に投げつけた。


「危ねえな。話をする前に殺す気か?」


 軽い調子で天井から降りてきたのは以前レアを狙った暗殺者だ。

 死んでもらっても良かったがこいつなら防ぐと分かっていた。


「なんの用だ」


 俺はグラスに新しい酒を注いだ。


「この状況を嬢ちゃんが見たら泣くぞ」


 黙れとばかりに注いだばかりの酒を呷った。

 暗殺者はやれやれと溜息を吐きながら俺の前に新聞を広げた。


「関わらないって約束したんだが、嬢ちゃんから関わってきたから依頼を受けていいか許可を貰いにきた」


 新聞に目を落とすとそこには俺の母が亡くなった時の記事が一面に載っていた。


「この記事を書いた奴を探して欲しいって依頼だ」


 母が亡くなった時、新聞には目を通していた。

 だが母の死に興味の無かった俺は事故死として片付けられた記事を疑いもしなかった。

 まさかレアはこの事故は故意だと疑っているのか?

 そうなると犯人は俺の身近な人間ということになる。

 もしかしてレアは俺を関わらせないために突き放そうとした?

 俺と目を合わせずに立ち去ったレアの姿を思い出した。

 レアなら本当に義理弟としてしか見ていないなら俺の目を見てはっきりと断る。

 なんで気付かなかったんだ!

 拳を強く握ると新聞がクシャリと歪んだ。


「お前が望む物はなんだ?」


 面白そうに暗殺者は笑った。


「殺しの免罪符って言ったら?」

「お前が欲しいだけくれてやる。その代わりレアの望みを全て叶えること。そしてどんな些細な事でも必ず毎日俺に報告に来ること。それが条件だ」

「面白れぇ。交渉成立だな。その新聞はくれてやる。じっくり読んで酔いでも覚ませ」


 それだけ言うと音も立てずに姿を消した。

 新聞に目を通すと事故を疑うような文言が書かれていた。

 そういえばあの日、届いた手紙を読んだ母の顔が少し強張っていたような気がする。

 手紙を燃やしたあとすぐに出かけて行ったがあれが罠だったとしたら…。

 こちらでも調べてみる必要がありそうだ。



 翌日から俺は母が出かけた理由を調べ始めた。

 当時母に仕えていた使用人は全員解雇もしくは退職しており居場所が分かったのは一人だけだった。

 しかもその元使用人がいた場所は公爵夫人の使用人だったとは思えないようなみすぼらしい家だった。


「まさか…ルディウス様!?」


 当時は若くふくよかだったその使用人も今では老けてやせ細り見る影もない。

 元王族であり公爵夫人でもあった母を死なせてしまった使用人達の末路を語っているようだ。


「母が亡くなった日の件で聞きたいことがある」


 俺があの朝に届いた手紙について尋ねると元使用人の顔が険しくなった。


「あれは絶対にあの女の仕業です!あの女が手紙を送ってきたせいで…!」

「あの女とは?」

「現公爵夫人です」


 最悪だ。

 これが事実ならレアは王族殺しの娘にされてしまう。


「手紙の内容に心当たりは?」

「あの時の手紙はすぐに燃やされたので内容はわかりませんが、いつも送られてくる内容は旦那様と夜を過ごしたとか旦那様は奥様のことを嫌っているなどの嫌がらせのようなものでした。いつもは奥様も気にも留めないご様子でしたが、あの日だけは違いました」


 使用人の話が本当なら、あの母が見過ごせない程の何かがあの手紙には書かれていたということだ。



 屋敷に戻ると暗殺者が窓から侵入してきた。


「不審者で殺されても責任は取れないぞ」

「大丈夫大丈夫。この屋敷で伯爵様ほど怖い奴はいないから」


 今度窓から侵入したら攻撃してやろうか?

 そんな俺の心の内を無視して報告を始めた。

 聞けば聞くほど事態は最悪な方向に傾いている。


「それよりもちょっと報告しづらい展開になったんだけど…」

「一言一句余すところなく報告しろ」

「だよなぁ。あー…墓を掘り起こすことになった。俺の提案じゃないからな!嬢ちゃんが言い出したことだからな!」


 俺に攻撃されると思ったのか暗殺者が慌てて弁明し始めた。

 心配しなくてもそんな奇想天外なことを言い出すのはレアくらいだと分かっている。


「…悪くない案だ」

「へ?」


 レアの提案だし。

 俺は袋に入った金を暗殺者の前に出した。


「これだけあれば短時間で掘り起こせるだろ」

「…これ、余ったら貰ってもいいのか?」

「好きにしろ」


 袋の中を確認した暗殺者が嬉しそうに金貨を指で弾いた。


「ああ、それとさぁ。嬢ちゃんは父親の墓だけを調べるみたいだけど、何も分かんなかったらあんたの母親の墓も調べるよう提案してみるつもりだけど、いいよな?」


 あまりレアに遺体のような気味の悪い物を見せたくはないが一人だと無茶しそうだし。


「公爵に見つからないようにだけ気を付けろよ」

「そこは任せろ。安全に抜け出せる抜け道をしっかり用意してあるから」


 レアを不安にさせたくなくて咄嗟に嘘をついたが、おそらく公爵はレアの動向を監視している。

 最悪の事態を想定して俺は俺にしか出来ない方法でレアを守ってみせる。

 暗殺者が姿を消すと同時に俺は部屋を出た。




「こんな遅くに王宮にいるなんて珍しいな。お前じゃなかったら追い出してるよ」


 ソファーに掛けるように促され腰掛けた。


「今日、公爵が私に会いに来たのと何か関係があるのかな?」


 公爵が王太子に会いに来るとしたら一つだ。

 レアを婚約者にする提案だろう。

 俺が公爵家を離れた途端これだ。


「ルディウスの気持ちも知っているし、私はどうしたらいいかな?」

「…殿下。王族殺しは一家処刑。もし俺がその家族の一人と結婚した場合、その家族は免除して頂くことが出来るのですよね?」


 王太子は少し考える素振りをみせるも答えは分かっている。


「可能ではあるがその殺しを知らなかった場合に限るな」


 レアの事だ。無理に『結婚申請書』に署名をさせてもきっと知らなかったとは嘘を吐かないだろう。


「自分の家族を告発した場合はどうなりますか?」


 レアなら真相に辿り着いた時、黙っていることはしない。

 必ずなんらかの形で世間に伝えようとするはず。


「…過去にあった例では家族を陥れるため告発した人物はいたが、例外なく処刑されている。ここで例外を作ると同じように陥れようと画策する奴が現れかねないからな」


 他にレアを助ける方法はないのか?

 拳を強く握り俯く俺に王太子は話を続けた。


「だが王族も例外を認めなければいけない場合もある。それは大勢の民が異を唱えた時だ」


 まさか王太子に感謝する日が来ることになるとは。


「結婚式はご招待させて頂きますよ」

「私との婚約話が出ていることを忘れるなよ」

「ご心配には及びません。きっと署名はしてもらえないでしょうから」


 俺の確信めいた言葉に王太子は苦笑いを浮かべたのだった。





次でルディウス視点が終わります。

次の次の回で『いいね』ランキング発表しようと思っていますので、今のうちに気に入った話に『いいね』頂けると今の段階でのランキングが変動するかもです。

ちなみに今の一位は前回とは変わりました。二位は同票で二つあります。って感じです。

変動するのかそのままか作者も発表が楽しみです。


読んで頂きありがとうございます。

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