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真相は墓の中

「死者の声でも聞くってか?」


 私の発言にテネーブルが小馬鹿にしたように笑ったが実は…。


「大正解!」

「え!?今度は霊媒師を探してこいとか嫌だぞ」

「違うわよ。遺体を調べるのよ」


 私の発言を聞いたフィルマンが慌てて会話に割って入ってきた。


「ちょっと待て!遺体を調べるなんて聞いた事ないぞ!?」


 そりゃあこの世界には検死なんてありませんからね。


「でも遺体が一番答えを持っていると思うんだよね。テネーブルならどういう状態で亡くなったかくらいは分かるでしょ?」

「お前、8年も経ってるんだぞ?そのままの状態で身体が残っていると思うのか?」


 言われてみれば確かに…。


「だが、調べて損はないかもな。少なくとも転落した状況はわかるかもしれない」

「本当に調べるのか!?死者への冒涜行為だぞ!」

「でもさ、遺体だって殺されたかもしれないのに事故で片付けられるなんて無念じゃない?」


 私とテネーブルの言葉に常識人フィルマンは信じられないといった顔だ。

 私だって掘り起こさなくて済むならそれに越したことはない。


「あなただってやられっぱなしは嫌でしょ?公爵に一泡吹かせたいなら私に協力する方が得策よ」

「あんたわかっているのか?もしこれが殺人ならあんたは…」

「この事故を調べようと思った時から覚悟はしていたから」


 自己満足でしかないが、優しかった父を思うと償わずにはいられない。


 この国には無実でも処刑にされてしまう場合がある。それが王族殺し。

 王族殺しは一家処刑。残された家族が王族に対して反旗を翻さないための措置だ。

 これをすることにより残された一族にも反乱を起こしたら一族を皆殺しにするという脅しにもなっている。

 ルディの母親は結婚したとはいえ、元王族。

 もし殺しであれば今回の措置が執行される可能性は十分ある。

 ルディが王位継承権を持っているのがなによりの証。

 ただルディは爵位を別の姓で継承したことから公爵家を継ぐ意志が無いとみなされ、今回の刑は免れるはず。

 だがクラヴリー公爵の姓を持つ私は…。


 自分が書いた責任は自分で取る…とはいえ、告発したら楽に処刑してもらえないかだけ提案してみようとは思っているけど。

 こうして父の遺体を調べるべく動き出したのだった。



 さすがは暗殺者。仕事が早いな。

 決行日の夜中。掘り起こすつもりで意気込んで汚れてもいい恰好で来たのに…現場に到着した時には墓は掘り起こされた後だった。


「仕事、早くない?」

「仕事は迅速・正確・丁寧にだ」


 その仕事が暗殺でなければ称賛するところだが…。


「さてと。早速拝ませてもらいますか。あんたは見ない方がいいと思うぞ」

「私の事は気にしなくていいわよ」

「見れないようなら目を逸らせよ」


 それはあなたの隣で震えている常識人に言ってあげて下さい。

 テネーブルは朽ちた棺の蓋を開けた。

 8年ぶりに見た父は父の原型を留めておらず、ほとんど白骨化していた。

 その姿に生前の父の姿を思い出し涙が出そうになるのを堪えた。

 そんな私や吐きそうになっているフィルマンの心情などお構いなしにテネーブルは遺体をくまなく調べた。


「あーこれは…頭から落ちてるな」


 テネーブルの言葉に様々な心情を抱えていた各々はテネーブルに注視した。


「飛び降りると色んな箇所が折れたりするのはもちろんなんだが、足から落ちた場合と頭から落ちた場合では折れる部位や損傷の度合いが微妙に変わってくるんだ」

「頭から落ちたということは追われて足を滑らせたというのは嘘になるわね」

「それだけじゃねえ。生きるために逃げているのにわざわざ頭から崖に飛び込むバカはいねえ。俺が知る限りこの死に方は馬車の転落死に多い」


 なんでそんなことを知っているんだとはツッコまないぞ。


「なんでわかるんだ?」


 そこ!ツッコむな!


「たくさん死体を見てきているからな」


 驚く顔のフィルマンと歯を出してニカリと笑うテネーブル。

 そういえばフィルマンってテネーブルが暗殺者だって気付いてない?


「それより間違いなく頭からの転落死なのね?」

「ああ。見てみろ。頭蓋骨が粉々で…」

「いえ…その細かい説明は結構です」


 遺体を動かしながら説明しようとするテネーブルを制した。


「それ以外の異常はないの?」

「即死だったってことくらいかな」

「そう…」


 苦しまずに亡くなっただけでも良かったのかもしれない。

 …でも待って!

 父が即死ならなぜ公爵の杖に血が付いていたの!?


「調べてみるか?」


 私の心の声を読んだのかテネーブルは父の棺を元に戻しながら聞いてきた。


「…でも相手は王族だし…」

「あー…それについては問題ない」

「問題ないって問題大ありでしょ」

「いや…その…許可貰ってるから」

「許可?誰から?」

「その…王族から?」


 王族ってまさか王太子!?

 そういえば原作ではテネーブルと王太子は刃を交えている。

 もしかして何かのきっかけで王太子と知り合った?

 でもそうだとしたら王太子はこの事件のことを知っているということになる。


「その王族にこの事件のことを報告したの?」


 気まずそうに視線を逸らすテネーブルに確信した。

 王太子も叔母の死を疑っていたんだ。

 それならむしろ好都合。


「許可があるのなら調べてみましょう」


 こうして後日、今度は前公爵夫人の遺体を調べることになった。



 決行の日がやってきて、今回もテネーブルが用意した抜け道からこっそり屋敷を抜け出した。

 墓地に到着すると前回同様すでに棺は掘り起こされていた。

 仕事が早すぎるでしょ…。


「先に調べておいたんだが、面白いもんが見つかったぞ」

「面白いもん?」

「右の腹部に細い刃物で刺されたような穴があった」


 右の腹部って白骨化していたらわからないんじゃ!?

 遺体を覗き込むと父とは違い綺麗な状態が保たれている。

 どういうこと!?


「さすが王族様。防腐処理が施されているんだよ。しかもかなり丁寧に」

「防腐処理がされたのならその時に切った切り傷じゃないの」

「これは違う。死んだ後の傷じゃない。生きている時に刺された傷だ。間違いない。この傷の形状からいってもこれは…」

「その通りだよ」


 誰もいないはずの暗闇から声が聞こえて振り返ると公爵家の騎士を従えたクラヴリー公爵が杖から剣を抜きこちらに向けていた。


「なぜお義父様がここに…?」


 驚く私を余所に騎士達は私達を囲むとテネーブルとフィルマンを捕らえた。


「まさかこんなことまでする娘だったとは。浅はかな母親と同じだな」


 浅はかと言われるよりあの母親と同類にされることの方がショックなのはなぜだろう。


「お前は真実を知ってどうするつもりだったんだ?」

「あなたを処刑台に送ってやるのよ!」

「ならあの二人を殺してお前も殺すしかないな」


 公爵が手を挙げると騎士達が剣をテネーブルとフィルマンに向けて振り上げた。


「待って!」


 あの二人は私に付き合ってくれただけだ。

 これ以上自分のせいで誰かを死なせたくない。


「あなたの望みは何なの?」


 公爵が静かに手を下ろすと騎士達も剣を下ろした。


「私の人形になる王太子妃だ」

「思ったより平凡な望みなのね。権力が欲しいならルディを大事にすれば良かったんじゃない」

「あいつは駄目だ」


 そう答える公爵の顔がわずかに歪んだ。


「お前もあいつを手懐けたなどと勘違いしているといつか喉を掻き切られるぞ」


 シャレにならんことを言うな。

 それにしても公爵は以前からルディを危険視していたのか?

 いつか自分を殺すかも…と。


「お喋りはここまでだ。私に従うか、ここで死ぬか好きな方を選べ」


 公爵は私の喉元に杖に仕込まれていた剣を突き付けると、合図とばかりに後ろの騎士達も一斉にテネーブルとフィルマンに剣先を向けた。

 その緊張を打ち破ったのは他でもないテネーブルだった。


「あー俺、死にたくないからあんたには悪いけどそのおっさんに従ってくんない?」


 味方からの裏切りに公爵の口角がわずかに上がった。

 どちらにせよ二人を殺す選択肢はなかったのだからここは従うしかない。


「わかったわよ。従えばいいんでしょ」

「味方に助けられたな。いや。裏切られたと言った方が正しいか?」


 公爵は満足そうに剣を仕舞いながら騎士達に指示を出すと二人は連行された。

 通りすがりにテネーブルがお気楽な調子で私に笑いかけてきた。


「牢の中は暇だから前にあんたが教えてくれた手品でもして遊んでいようかな」





読んで頂きありがとうございます。

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