真相を探れ
ルディが…私を…愛…愛!!?
「え?え?一体いつから??」
「それよりも今は俺と一緒にここを離れて伯爵邸に行きましょう」
もし今、ルディと一緒に行ったら王太子と婚約させようとしている公爵が誘拐だと騒ぎ出すかもしれない。
そうしたらルディは捕まってしまう。
それにもし父とルディの母の事故が殺人事件だったとしたら…。
「ルディ…ごめん。一緒には行けない」
私の肩を掴むルディの胸を押し返した。
「なぜですか?俺があなたを守りますから」
必死なルディの姿に思わず甘えたくなって思いとどまった。
「ごめん、ルディ。…私はあなたのお姉ちゃんでしかないの。一緒に行ってもあなたの想いには応えられない」
肩を掴んでいたルディの手が力なく落ちた。
ごめんね、ルディ。
泣くな!泣いてたまるか!
涙を堪えながら大通りの方へ向かうと私を探していた騎士達に捕まった。
「どちらに行かれていたのですか?すぐに屋敷にお戻り下さい」
人の気も知らないで!
私が睨むと騎士達は身を怯ませた。
言われなくても帰ってやるわよ!
ドカドカと馬車に乗り込むとすぐに出発した。
馬車に揺られながら外の景色に視線を合わせるも目に映るのは先程のルディの必死な姿だった。
ルディが私を愛する女性と言ってくれた時、私、嬉しかった。
王太子の時は秒で断ろうと決めたのに。
だって優しさで選ぶなら断然王太子でしょ。
ルディなんか無表情だし、怖いし、何考えているかわからないし、いつ殺られるか恐怖だし…でも私のドレスを真剣に悩んでくれたり、私のために癖のあるダンスを習得してくれたり、無様なハンカチも燃やさずにいてくれた。
そして誰よりも一番に駆け付けていつも私を守ってくれた。
次から次へと溢れ出る涙に声を殺して泣いた。
私もルディと一緒に行きたかった。
今までのようにルディの傍でバカみたいに他愛のない話をして、その隣では無表情なのに最後まで黙って話に付き合ってくれるルディがいて。
ただそんな何気ない日々をルディと過ごしたかった…。
屋敷に戻ると自室に直行しうつ伏せでベッドにダイブした。
ルディはいつから私を好きになってくれていたんだろう?
子供の頃は私がルディの後をついて歩いていることが多かったけど、気が付いたらいつの間にかルディが傍にいる生活が当たり前になっていた。
今も『姉上』と呼びながら入口から入ってきそうな…。
物音一つしない静かな部屋の入口は固く閉ざされたまま動くことはなかった。
ああ、そうか。ルディはもう…いないんだ。
私の傍にいてくれることはもうないんだ。
再び涙が零れ落ち枕に顔を埋めた。
こんなに辛い想いをするなんて…どれもこれも全て…。
クラヴリー公爵のせいじゃねえか!!
真相を暴いた時、お前が犯人だったら絶対にとっ捕まえてやるからな!!
昨日の悲しみを払拭するように意気込んでやってきたのは新聞社。
中に入って早々、入口で立ち尽くすことに。
どこの世界も新聞記者って忙しそうだな…。
バタバタと走り回りながらそこら中で紙が舞っている。
しかもこの世界、活版印刷だから大変そうだ。
パソコンとプリンターくらいある設定にしておいてあげれば良かったかな。
そして誰も私の存在に気付いてくれない。
「あの…」
バタバタと目の前を走る記者に声をかけようとするも通り過ぎるのが速すぎてスルー。
ふっ…。
通り過ぎようとする若手記者をガシリと鷲掴んだ。
「ねえ。ちょっと、ジェロームって奴に会いたいんだけど」
掴みながら凄むと怯えたように震え上がった。
まるで蛇に睨まれたリスのようだ。
「へ…編集長は忙しくてお会いになれないかも…」
「クラヴリー公爵令嬢が来たと伝えなさい」
「は…はい!」
若手記者は逃げるように去って行った。
本当に呼んで来てくれるかな?
もし呼んで来なかったら…。
バキボキと指を鳴らしているとボサボサ頭の皺くちゃの服を着た男が姿を見せた。
連日徹夜してますって感じだな。
「お嬢様が何の用だ?」
イライラしているのか態度が悪い。
「初めまして。レリア・アメール・クラヴリーと申します。8年前の転落死の記事を書いたのはあなたですよね」
「…そうだが?」
「父の…伯爵の転落死の事故について少しお話し聞かせてもらえませんか?」
恐らく公爵夫人の転落事故死のことを考えていたのだろう。
父の転落死の話に少し考える仕草を見せるも、思い出したのか少しだけ顔色を変えた。
「内容は記事に書いてあった通りだ」
平静を装っているように見えるも明らかに動揺の色が見える。
こちらは無表情ルディの顔色を窺って生きてきたんだ。
素人の顔色くらい簡単に読み取れるわ。
「しかし記事には『足を滑らせて』とありましたが目撃者は一体どなたですか?山賊さんに追われている真っ最中だったのですよね?それともあなたが想像して書いたのかしら?」
さすがのジェロームも真っ青な顔で俯いた。
やはり父の記事には何か裏がありそうだ。
「俺も若かったから間違った情報を載せたのかもしれないな。もういいだろ!こっちは忙しいんだ!」
慌てて切り上げようとするジェロームに最後の質問を投げかけた。
「フィルマンって方はこちらに?」
「あいつの話はするな!」
そのまま走るように立ち去って行ってしまった。
何?どういうこと?
呆然とする私の横をこっそりと通り過ぎようとする若手記者の肩を再び鷲掴むと若手記者の体が跳ね上がった。
「ちょっと、フィルマンを呼んでくれない?」
「そそそ…そのような方は我が社にはおりませんが…」
「8年前、ここで勤めていたはずだけど?」
「3年前に入社しましたが聞いたことの無い名前です…」
退職したのか?
いやジェロームの様子を見る限りそんな雰囲気でもなかった。
考え込んでいるうちに若手記者にも逃げられていた。
これはフィルマンを探すしかなさそうね。
新聞社から公爵邸に戻るとすぐに公爵の書斎に呼び出された。
「新聞社に行ってきたそうだな」
情報が早いな。
監視は私から離れてはいたが、ずっと跡を付けてきていたから帰ったばかりの私の情報を公爵に話してはいないはず。
となると公爵に伝えたのはジェローム?
「お義父様が私と王太子殿下との婚約を考えていることを聞き、このままでは王太子妃になっても恥をかくだけだと思い、世間の事を知るために伺ったのです」
公爵は口に手を当てて黙って私の話を聞いていた。
ジェロームが全てを話していたとしたらバレバレの嘘になるけど、少なくともジェロームと繋がっていることを知られたくない公爵としてはこの話が嘘だとは追求できないだろう。
「お話しはそれだけでしょうか?勉強の続きをしたいのでこれで失礼致します」
長居は無用とばかりにドアノブに手をかけると背後から公爵の無感情な声がかけられた。
「先日、この部屋に何者かが忍び込んだようだが何か心当たりは?」
バ…バレてる。
ダラダラと嫌な汗が流れ出る。
ここは必殺!
「何も知りませんが?」
すっとぼけを決め込んだ。
公爵はしばらく黙って私を見つめていたが時間の無駄だと判断したのか退室するよう手で払われた。
書斎から出てようやく息を吐いた。
やっぱり公爵は迫力が違う。
まるで蛇に睨まれたリス…『プルプル怖いです…』。
いや…ハブに睨まれたマングース…『こっちだって負けねえからな!殺られる前に殺ってやる!キシャー!!』。
うん。こっちだな。
でも公爵と対峙して分かったことがある。
同じ無表情でもルディが私に向ける視線や空気は心地良かったということが…。
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