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一件落着?

 屋敷が静まり返った夜。

 ベランダの扉が静かに開いた。

 夜風が不気味に部屋を吹き抜ける。

 音を立てずに近付いてくる侵入者に息を潜めた。

 侵入者の手が伸びた瞬間!


 ここだ!!


 被っていた布団を侵入者に浴びせるも冷静に布団を片手で弾いてきた。

 だけどこれで終わりと思うなよ!

 侵入者の顔が布団から出た一瞬を狙って私は持っていた瓶のレバーを押した。

 すると赤い霧状の物が侵入者の顔目がけて噴霧された。


「うっ!!」


 予想外の抵抗にたまらず侵入者は後ろに飛び退いた。

 そりゃそうだ!これは唐辛子爆弾を改良したその名も『唐辛子スプレー』なのだ!

 ただしワンプッシュ一名様に限る。


「あんたが来るのは分かっていたのよ!暗殺者、テネーブル!」


 月の光に晒された暗殺者の姿は私より少し年上の青年だ。

 涙をポロポロ流す姿になんだか私がいじめているような気分になった…相手は私を殺そうとしているのに…。


「姉上!?」


 廊下でルディが私の部屋の扉を叩いている。

 え!?なんでルディが私の部屋の前にいるの!?


「早く逃げなさい!」

「なに?」

「どうせあんたを捕まえたってすぐに牢からいなくなるのでしょ。だったら雇い主にでも伝言を頼んだ方がよっぽど有意義だわ」


 全てを見破られたことに動揺したのか一瞬表情が揺らいだ。

 私からしたらルディより分かりやすくて助かるわ。


「雇い主に伝えなさい。無駄な抵抗は止めろ。死にたくなければ大人しくしていろってね」


 なんか私、刑事みたい。

 暗殺者は口元を緩めるとベランダから出て行った。

 外の義理弟にはなんて説明しようかな…と考えがまとまらないうちに激しい音と共に扉が変な角度に揺れた。

 え?ええええええ…!?扉突き破ったの!?


「何があったのですか?」


 部屋の状況を見てルディの眉間にわずかな皺が寄った。


「えっと…害虫は撃退したから大丈夫!!」


 ルディに散々注意したのに私が人を虫扱いしちゃった。


「害虫はベランダから逃げたのですね」


 え?私、人って言ってませんけど?

 ルディは無表情のままベランダへと向かった。


「ルディ?相手は虫だよ?」

「ええ。デカい害虫のようですね」


 それだけ言うとルディはベランダから飛び降り走り出した。

 まさか追いかける気!?

 不味いって!下手するとルディと暗殺者と依頼主の鉢合わせじゃん!!

 慌てて馬小屋に向かうと馬にまたがり走り出した。

 向かう先はもちろん…エドワール侯爵邸である。


 そう。今回の暗殺はエドワール侯爵を捕らえた逆恨みによるエドワール侯爵令嬢の起こした事件なのだ。

 原作の方では警備の厳しい王宮にも難なく侵入した暗殺者がヒロインの危機に駆け付けた王太子に捕縛されるのだ。

 しかし牢に捕らえたはずの暗殺者は翌日には姿を消していた。

 実はこの暗殺者、後にヒロインを好きになってヒロインを陰ながら守る守護者として登場させる予定だったのだが…。

 話が面倒…複雑になりそうな予感に再登場させることを断念したキャラなのだ。

 名前まで考えたのに…。

 こんなことなら私の名前を考えておくんだった。



 侯爵邸に到着すると屋敷の中から女性の悲鳴が。


「ちょぉっと待ったぁぁぁぁ!!」


 慌てて玄関を開けるも現場の状況に思考が停止した。

 ルディが剣を振り上げているのは予想通りとして…。

 なんでそれが抱き合いながら座り込んでいるエドワール侯爵令嬢と夫人に向けられているの?


「なんでルディが二人に剣を向けているの?暗殺者は?」


 右を見ても左を見てもテネーブルの姿は見当たらず。


「お帰り頂きました」


 ルディは剣を鞘にしまいながら飄々と答えた。

 お帰り頂いたって相手は王宮に易々と侵入できる実力者ですよ!?


「それよりも姉上こそ到着が早くないですか?」


 震えながら座り込んでいる二人の動きを警戒しながら顔だけ私に向けた。

 よくぞ聞いてくれました。


「聞いて驚かないでよ。私…乗馬が出来るの!」


 ドヤァ!

 …。

 反応せいや!!


「姉上。乗馬より先に令嬢として習得すべき技術が他にあるのではないですか?」


 うぐっ!

 だって令嬢に必要なスキルってどれもルディから生き延びるには不必要なものばかりなんだもん。


「乗馬だって貴族の嗜みだから!」

「…それもそうですね」


 ルディの驚く顔が見れると思ったのに…この無表情を崩すのは至難の業だ。

 項垂れているとバタバタと数人の兵士が屋敷の中に入ってきた。


「エドワール侯爵令嬢がクラヴリー公爵令嬢の暗殺を企んだと通報を受けたのですが?」


 隊長と思われる人物が王宮の騎士服姿のルディに敬礼しながら尋ねた。

 ルディが座り込んで震えている二人に視線を向けると兵士達は二人を捕らえて連れ出した。

 通りすがりにエドワール侯爵令嬢が私を睨んだが直ぐに青ざめて震えながら視線を逸らした。

 私、何もしていないけど?

 屋敷の中に視線を向けると先程まで立っていたルディがいなくなっていた。

 あれ?どこ行った?

 キョロキョロと辺りを見回すと背後に人の気配が。

 驚いて飛び退くと無表情のルディが立っていた。

 え?なんで背後にいるの?知らない間に背後に立たれると怖いんですけど。


「通報したのは姉上ですか?」

「そんな暇なかったし?」


 ルディでも私でも無いってことは通報したのは…テネーブル?

 どちらにせよ捕らえなければならなかったから時間短縮出来て良かったけど。

 これでエドワール侯爵家が起こす事件は解決したかな。

 原作といい今回といい捨て駒にしてしまって申し訳ない気持ちはあるけれど犯罪は犯罪だし罪はしっかり償ってもらおう。

 せめて夫人と娘だけは処刑にならないように働きかけてみるか。



 翌日の新聞はエドワール侯爵家没落のニュースが一面を飾った。

 結局これは原作通りに進んでしまったのか。

 お茶を一口含みながら新聞の続きに目を通してお茶を噴き出した。

 そこに書かれていたのは『エドワール侯爵と結託した裏取引商人達に悲劇。突然の円形脱毛症発症。監獄での心労が原因か?』。

 これ絶対心労が原因じゃないでしょ!

 バレたらどうすんのよバカルディ!!



 事件が解決してから数日後。

 ルディウス・フォン・ランドール伯爵の誕生が世間を騒がせた。

 これによりルディはこの家を出てランドール伯爵として新しい屋敷に住む事になった。

 クラヴリー公爵家を離れたことで少なくともルディがクラヴリー公爵家に縛られることはなくなった。

 これにて一件落着。


 …とはいかなかった。

 それはルディが伯爵家の当主になって二日後のことだった。

 就寝している私を呼ぶ声がして目を覚ますと屋敷にいないはずのルディが間近にいて驚いた。

 声を上げそうになる私の口を手で塞ぐと小声で話し始めた。


「姉上。迎えに来ました。一緒にここを出ましょう」


 出るってどうして?

 せっかくクラヴリー公爵家から解放されたのに私を連れて行ったら意味がないでしょ。

 首を傾げる私の口から手を離すとそのまま私の手を握りしめた。


「公爵は姉上を殿下と結婚させるつもりです。俺が送った求婚書も完全に無視されています。このままでは姉上は王太子妃にさせられてしまいます」

「ちょっと待って。求婚書ってどういうこと?ルディが私に結婚を申し込んでるって事?」

「姉上…いえ。レア。俺は…」


 部屋の扉が叩かれると公爵の声が聞こえてきた。


「レリア。ここを開けなさい」


 扉に視線を向けた一瞬の隙にルディは姿を消していた。

 混乱する頭のまま部屋の扉を開けると公爵がベランダの窓を注視した。


「どうやらネズミが入り込んでいたようだな」


 ルディがいたことに気付いた!?

 公爵は無言のまま俯く私を一瞥するとそのまま出て行った。

 求婚書って一体どういうこと?

 公爵が王太子と私を結婚させるとか…。

 原作者である私の知らないところでみんな色々何かやってくれちゃってるみたいだけど、黙ってやられる私じゃないんだから!

 こうなったら何が起きているのか徹底的に調べてやる!


 それにしてもこの親子。無表情に続き、人を別の生き物に譬える点でもそっくりだよ。





いつも読んで頂きありがとうございます。

今回はこれで一部終了ということで次の問題に入る前に『いいね』ランキングでも発表したいと思います。


1位 『傷』:すり寄せか?すり寄せが良かったのか!?

2位 『無様なハンカチ』:暖炉についていっぱい学びました。作者はルディが汗を拭ってくれたところに萌えました。


最下位  『危機に頼るのは』:何となく予想はしていました。ルディが怖すぎた?

ブービー 『復讐はほどほどに』:え!?これダメ!?読者の気持ちが分からない!作者迷走中。


結果にこんな心境でした。

この後起こる鬱展開に不安募り中。早くルディ視点まで辿り着きたい作者なのでありました。


24日くらいまでは甘さ控えめのつまらない展開が続くかもしれませんが、お付き合い頂けると幸いです。

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