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復讐はほどほどに

 ルディはゆっくり侯爵に歩み寄ると侯爵の手前に落ちている銃に剣を突き刺した。


「エドワール侯爵。観念して投降しろ」


 凄い迫力…。

 こっちにまで伝わってきて体の震えが止まらない。

 見下ろされている侯爵なんかちびっちゃうかも。


「くっ…くそ!!」


 エドワール侯爵は恐怖と悔しさで顔を歪ませた。

 その姿を見てもルディはただただ無表情・無感情で見下ろしている。

 この子…怖い…。

 私が殺される時もこんな感じなの?


 いい加減この空気に耐えられなくなってきたところで複数の足音が近付いてきた。

 まさか敵の増援!?

 しかし最初に姿を見せたのは…。


「ルディウス!お前速すぎるから!」


 え?なんで王太子まで来てるの??

 王太子も後ろの騎士達も汗だくの息切れ状態。

 ルディが現れた時、息なんか切らしてなかったよね?

 ルディの超人ぶりに再び震え上がった。

 この子の戦闘力ってどこまで上がっているの?

 目に付ける戦闘力を測れる機械が欲しい。

 ボンッって爆発するかもしれないけど…。


「良かった。レリア嬢、無事だったんだね」


 息を整えた王太子が微笑みながら私に歩み寄った。

 なんて素敵な笑顔。まさに地獄に仏とはこのことを言うのか。

 王太子の優しさに緊張の糸が緩みそうになっていた私の糸が再び張りつめた。


「殿下はそこに落ちているゴミ虫の対応をお願いします」


 また人を虫扱いしてるし!?しかも落ちたゴミまで追加されてる!?

 せめて堕ちた罪人って呼んであげて!!

 王太子は苦笑いを浮かべながら侯爵の元へと去って行ってしまった。

 私の仏がぁ!!行かないでぇ!!

 心の声が動きに現れていたのか去り行く王太子に手を伸ばすとルディが振り返った。

 咄嗟に手を引き平静を装うもルディの物言わぬ無表情が私の心を見透かしていそうで…怖い。

 でもそもそも怒られる理由が分からない!

 怒っているのかどうかも無表情過ぎて分からないが…。

 ルディの顔色を窺っていると、着けていたマントを私にかけてくれた。


「失礼します」


 マントから漂う良い匂いに安らぎを感じていると、ルディは私の背中と足に手を回し私を持ち上げた。

 人生初のお姫様抱っこに興奮するより恐怖した。

 まさか崖下に投げ落とす気じゃないよね!?

 しかしルディは崖に背を向けると山を下り始めた。

 このまま山を下りる気ですか!?


「ルディ…重くない?」

「鍛えていますから」


 鍛えていなかったら重いってことね。


「山下りるくらいなら歩けるよ?」


 確かに靴擦れやら疲労やらで足が痛いのは認めるけど、もうひと踏ん張りだと思えば耐えられない痛さではない。


「俺との約束を破ったのですから黙って俺に従ってください」


 約束を破った覚えはないけど?

 結局崖から飛び降りてもいないし、ちゃんと前もってルディに手紙で伝えておいたし。

 もしかして手紙が渡っていなかった?


「手紙読んでない?」

「読みましたよ。あれを相談だと思っているのでしたら大間違いです。あれは事後報告というものです」


 私だって小屋だけ見つけて帰るつもりだったから、まさかこんな大事になるとは思っていなかったよ。


「そんなに俺は頼りないですか?」


 ルディの言葉に首を傾げた。


「ルディが頼りない?むしろ侯爵の証拠と動機をルディなら絶対に掴んでくれるって信じていたから私も自分が出来ることをしようって動いたんだよ」


 そうだ。ルディがいなければきっとエドワール侯爵を捕らえることは出来なかっただろう。

 だって私だけの証言では潰されるのがおちだろうし、小屋を私に発見された時点で武器も全て移動しただろう。

 もしくは口封じに消されていたか…ご自慢の銃で。

 それを考えたら私、ルディに助けられっぱなしだな。


「ルディ、ありがとう。ルディが助けてくれなかったら私、死んでたわ」


 冗談交じりで笑いかけるとルディが唇を噛んだ。


「結局、俺は間に合いませんでした…」


 え?もしかして私、死んでる?

 ここにいる私は幽霊?


「姉上の大事な髪を守れなかった…」


 髪?え?髪!?


「いやいやいや。髪くらいまた生えてくるし!?」

「どこのどいつですか?姉上の髪を切った奴は」

「それ聞いてどうするの…?」

「一人くらいいなくなっても問題ありませんから」


 なんでこの子、私の髪くらいで物騒なこと考えてるの!?


「これ!自分で切ったの!走りにくかったから!!」

「ではそんなことをさせた奴等全員ですね」

「怒ってくれるのはとても嬉しいんだけど、それで人消されちゃったらお姉ちゃん悲しいかな~…」


 ルディがここまで姉想いな子だったのには感激だが、簡単に人を消そうとする発想は止めて欲しい。

 でもこんなに怒ってくれているのになんでルディは私を家族じゃないなんて言うんだろう?


「分かりました。では奴等の髪も姉上と同じようにむしるだけにしておきましょう」


 私の髪、むしられてないよね?

 え?まさか引っ張られた時にむしられた!?

 頭を触りながら禿げた箇所がないか念入りに確認していると初めて見せたルディの怖い笑みに硬直した。


「裁判が見物ですね。今から楽しみです」


 きっと裁判では禿げ散らかしの悪党達が大集合するんだろうな…。

 それにしてもなんでこんなに髪に対してこだわっているんだろう?

 やっぱりあれか?

 妥協しない男は助けるのも完璧じゃないと気が済まないとかいうやつなのだろうか?



 帰り道。馬車に揺られているうちにいつの間にか眠ってしまった。

 足に痛みを感じて身じろぐとルディの気遣う声が聞こえてきた。

 こんな優しい声音も出せるんだ。

 ああそうか。これは夢だからか。いつか本当に聞いてみたいな。

 薄っすらと目を開けるとルディの端正な顔が近くにあり額に柔らかい何かが触れた。


「おやすみなさい。俺のレア」


 …。

 え!?

 ガバリと起き上がるもそこにルディの姿はなかった。

 でも確かに額には濡れた何かが触れた感触が残っている。

 それに『レア』は私の愛称だ。

 今のは夢?現実?

 …あれか。今日のルディが怖すぎて愛されたい欲求が強く出過ぎた結果かもしれない。

 どんだけ欲求不満なんだ私は。



 翌日。目を覚ますと外は眩しいくらい晴れていた。

 寝過ぎでしょ。

 しかもいつ自分のベッドに戻ったんだろう?

 欲求不満な夢を見た後にはもうベッドにいたけど。

 立ち上がろうと足を動かして悶絶した。


 何この痛みは!?


 これ絶対傷の痛みだけじゃないから!

 どう動いても襲ってくる痛みに転げ回っていると悲鳴を聞いたルディが入室してきた。


「ルディ!私の足がおかしいの!?足付いてる!?」


 無表情のルディに泣きながらしがみついた。


「足の傷は数日で治ります」

「絶対これ傷の痛みじゃない!だって中が痛いんだもん!」

「足首が腫れていたのでそれが原因かと」


 足首の腫れ?

 そういえば髪を引っ張られた時、体が変な方向に動いたような。

 これは黙っておいた方が良さそうだ。

 昨日のルディの様子だと禿げ散らかしの刑で済む話じゃなくなりそうだから。


「そちらも数日で治ります」


 つまりただの捻挫ってことね。

 安心したら先程までの恐怖は何処へやら、もう一眠りしようとベッドに横になるとルディに抱きかかえられた。


「ちょ…ちょっと、ルディ!?」


 使用人達も見てるし!


「昨日は応急的に足の処置をしましたが、綺麗に洗い流した方がいいと思うので寝る前に湯浴みをして下さい」

「え?この足、ルディがしてくれたの?」

「はい」


 てっきり使用人がしてくれたのかと思ってた。

 じゃあ昨日あの夢で足が痛かったのは…。

 ルディを見上げるも安定の無表情にあれは夢だったと確信した。

 だって現実だとしたらさすがにここまで無表情ではいられないでしょ。

 しかも『俺のレア』って言ったんだよ。このルディから想像出来ない。

 浴室の椅子に私を座らせるとルディは私の短くなった髪を一房持ち上げた。


「湯浴みが終わったら髪を整えましょう。俺が綺麗にしてあげます」


 え?ルディが切るの?

 首ちょん切られたりしないよね?

 若干の不安を残しつつルディは退室した。


 でもこれでルディの爵位は貰ったも同然ね。

 王太子と親密になれなかったヒロインは王宮に住めなくはなったけど…。

 あれ?そういえば王宮でも何か問題があったような…?

 そう、あれは確かヒロインが王宮に住み始めて間もなく…あっ!!

 ガバリと立ち上がった瞬間、激痛が全身を駆け巡った。


「いっっっったぁぁぁぁいぃぃぃぃ!!」

「姉上?どうされたのですか?」


 浴室の扉を叩くルディに声にならない声を発しながら大丈夫とジェスチャーで伝えるも伝わらず。

 手伝ってくれていた使用人がルディに事情を説明しに行ってくれた。


 間違いない!原作通りなら数日後…暗殺者がやってくる!!





読んで頂きありがとうございます。

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