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危機に頼るのは

「百合ならウチでも売ってるけど?」


 町の花屋にやってきた私は百合が咲いていそうな場所を聞きにきたのだが…。


「そうではなくて、山まで百合を取りに行こうと思ったらどこの山がおすすめか聞きたいのです」


 訝しそうに首を傾げていた店主だったがふと何かを思い出したように呟いた。


「そういえば王冠百合と呼ばれる珍しい百合が咲いている山があるって話を聞いたことがあるね」

「王冠百合?ですか?」

「ああ。なんでも標高の高い山の河岸とかに咲いている白い百合だとか」


 それだ!!


「その山がどこかわかりますか!?」


 私は花屋の店主に地図を書いてもらい後日、山に向かうことにした。



 まだ昼前ということもあり心地よい木漏れ日が森を照らしていた。

 いい天気だし、今日は絶好の山登り日和だ!

 ルディとの約束を守るために送ってくれた御者に手紙も渡しておいたし、敵と遭遇した時用に防犯グッズの用意も完璧。

 準備は万端!

 いざ行かん!ポツンと一軒家!



 数時間後…。


「一体ここはどこなのよーーーーー!!」


 太陽が傾くと先程まで心地の良かった木漏れ日が消え、辺りは不気味な暗さが漂い始めていた。

 道らしい道はなくどこを歩いて来たのかも分からない状態だ。

 ヘンゼルとグレーテルのようにパンでも撒いてくれば良かったか?

 でもあれ小鳥に食べられてどちらにしても帰り道が分からなくなるんじゃなかったっけ?

 どちらにせよやってもいないことを振り返ったってしょうがないよね。

 こうやってツッコめる時点でまだ気持ちに余裕がある証拠だ。


 まず、ルディにはこの山に来ていることは御者に託した手紙で伝えてある。

 たとえルディが助けに来てくれなくても御者は私の居場所を知っているのだから帰らなければ公爵家が捜索してくれるだろう…捜索して…くれるよね?

 首を大きく横に振った。

 その二!

 百合の花を取りにくるためヒロインと出会う可能性がある!その時に助けてもらえれば…いつ取りに来るかはわからないけど…。

 再び首を大きく横に振った。

 その三!

 ヒロインだって道に迷ったから小屋を発見したんだ!

 だったらこれは好機!

 ここで動かずしてなんとする!

 気力が戻ってきた私は再び歩みを進めた。…今度は木に目印を付けながら。



 辺りはすっかり暗くなり、フクロウさんの鳴き声が深い森を連想させる。

 そうそう都合よくは見つからないよね…私、ヒロインじゃないし。

 ついに気力も歩く力も尽きその場に座り込み、空を見上げると月が優しい光を放っていた。

 ルディは手紙受け取ってくれたかな?

 何かあれば相談しろって言われたから手紙は残してみたけど。

 最近のルディは以前よりも私を気遣ってくれている感じはする。

 以前なら私が人攫いに攫われそうになっていても見ているだけだったかもしれないし、私を庇って叩かれたりもしなかったと思う。

 ただルディの本心はどうなのかは分からない。

 ヒロインの言っていた言葉も気になるし。

 この事件を解決すればルディの爵位は間違いない。

 家族と離れれば少しは何かが変わるかな。


 よし!もう少し頑張ってみるか!


 手を叩いて立ち上がるとユラリと暗い森には似つかわしくない灯りが目の端に映った。

 あれは…ランプの灯り?

 自分の位置からはかなり遠いがここは暗い森の中。見失うことはまずない。

 もしかして助けに来てくれた?

 それにしては灯りの数がおかしい。

 捜し人の捜索ならば大人数で動くはず。

 それなのにあの灯りは明らかに一つ。

 だとすると…!

 音を立てないように静かに動く灯りの後を追った。



 開けた場所に到着すると灯りは消え、代わりに現れたのは窓から薄っすらと漏れる光。

 探し求めていた小屋が今、目の前に!

 しかもタイミングがいいのか悪いのか、まさに裏取引が行われる現場に鉢合わせた。

 原作で迷子になったヒロインはきっとこの小屋に救われたのだろう。

 だって私も助けではないけどホッとしているから。


 こっそりと窓から中を覗くとフードを外したエドワール侯爵と商人らしき男がテーブルに置かれた大きな木の箱の中身を確認しているところだった。

 箱の形状からも武器が入っていてもおかしくない。

 中の物を持ち上げてくれないかな?

 箱の中身を確認したくて首を伸ばした瞬間だった。

 ゴツン!と何かが壁に当たり私の横で落ちた。

 石?

 落ちた物を確認していると「誰だ!?」と中から男達の騒ぐ声がして慌てて立ち上がった。

 ヤバい!逃げなきゃ!!

 暗い森に向かって走り出す私の後姿を見た男達は慌てて追いかけて来た。

 ここで捕まったら間違いなく殺される!

 捕まってたまるか!!



 全速力で山を駆け下りるも徐々に男達との距離が縮まっていく。

 何とかしないと!

 バッグの中身を探り、防犯グッズを漁った。

 大人数を撃退するには…。

 取り出したブツに一瞬躊躇った。

 これ、失敗すると自爆するからな…。

 走りながら風向きを確認し、相手が風下になるように誘導すると持っていたブツを投げた。


「食らえ!唐辛子爆弾だ!!」


 一番近くまで来ていた男に向かって勢いよく投げつけると卵の殻が割れ、中から真っ赤な粉が風に乗って広範囲に広がった。

 先頭集団は唐辛子爆弾に目と喉をやられてもがいている。

 よしっ!

 ガッツポーズも束の間。

 先頭集団を避けて後ろから次の集団が追いかけてきた。

 唐辛子爆弾はもう品切れです!!

 次のグッズを漁っていると追い付いた男が私の束ねていた髪を引っ張った。


「手間を取らせやがって」


 後ろに引かれて倒れた私を得意気に見つめた後、後ろから追って来る男達に捕まえた報告をしていた。

 簡単に捕まってたまるか!!

 私は防犯グッズの短刀を取り出すと髪を引っ張り切り落とした。

 良かった毎晩しっかり研いどいて!

 ルディには訝しそうに見られていたけどね。

 ニヤニヤしていたし、たぶんイメージ的に鬼婆のように見えていたのかも…。

 突然抵抗が無くなりバランスを崩した男を押し倒すと再び立ち上がり走り出した。


 少し走ると木々の奥に開けた場所が見えてきた。

 もしかして平地に出た!?

 平地に出れば王都に向かう馬車などが走っている。

 助けを求めれば!

 最後の気力を振り絞り開けた場所に出て愕然とした。


「どうやらここまでのようだな」


 息を切らしながら振り返ると同じく息を切らしながら膝に手を付け、汗を拭うエドワール侯爵の姿が。

 威厳ゼロだな…。


「お前はクラヴリー公爵令嬢!?お前がなぜここにいる!?」


 気付くの遅いな。

 黙ったまま後ろに視線を向けた。

 私の後ろは底が見えない崖になっている。

 どちらにしても死ぬならここから落ちてみるか?

 最悪川が流れていれば生きられるかも…無理かな?


「誰の命でここにいる?」


 侯爵は銃口を私に向けた。

 銃の存在は珍しく、この国での製造はまだ行われていないはず。

 それを持っているということは武器の密輸をしていた証拠になる。


「これが何か分からないようだな」


 いえ。知ってます。

 不敵な笑みを浮かべると侯爵は銃を一発、私の足元に打ち放った。


「今、そこの地面に穴が開いただろう。この武器を使えば離れた位置からでも簡単にお前の心臓に穴を開けられるってわけだ」


 ドヤ顔で事細かに説明してくれたけど、全く驚かないから。

 だって銃ってそういう武器だし。

 それとも誰かに自慢したかったのかな?

 いるよね~そういう男子。


 カチャリと再び私に銃口を向けてきた。


「穴を開けられたくなかったら言え!誰の命令だ!」


 侯爵が声を荒げた瞬間、侯爵の後ろでヘラヘラと笑っていた男達がうめき声を上げて倒れだした。


「なんだ!?」


 侯爵が後ろの異変に気付き銃を構えながら周囲を警戒すると突然風が吹き侯爵が叫び声を上げた。

 と同時に私の前に騎士団の紋章がついたマントがはためいた。


「手が…手があぁぁぁ!!」


 地面にうずくまる侯爵の手は真っ赤に染まり、地面にはボタボタと血が流れ落ちている。

 切られたの?

 顔を上げると感情が抜け落ちたような冷淡な顔のルディが侯爵を見つめていた。

 侯爵よりルディの方が怖いんですけど!

 ここから飛び降りた方がまだ色んな意味で生きられる可能性が…。


「姉上。無謀なことはしないと約束しましたよね」

「はいぃ!!」


 崖下を覗き込んでいた私に低く冷たい声がかけられ震え上がりながらビシリと姿勢を正した。

 もしかして怒っていますか!?

 キリスト教ではないけれど両手を強く握りしめ必死で祈った。


 神よ!どうかこの義理弟の怒りを鎮めたまえ!!





サブタイトルとオチを連動させてみました。

気付いたかな?


読んで頂きありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 文章書く人のわりに考えが浅いしバカすぎるw
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