恋バナとやらをしましょう。(1)
ジークフリートと一瞬気まづくなりかけたものの、私が入れた紅茶のおかげもあり、深い亀裂が入らなくて済んだ。
私はというと、王妃教育を進めながら、貴族の令嬢たちとの交流を深めている。
今日はツェツィーリアの実家であるハインツェ邸で、お茶会が開催される。男子禁制の女の花園で、可愛らしい声が至る所で咲いている。
ツェツィーリア以外は特に親しいわけではないし、未来の王太子妃ということもあり、令嬢達から遠巻きに見られている。
「……美味しそう…」
そんな私は、そんなことは気にも止めず、色々なお茶菓子に目移りしている。ハインツェ伯爵は国内だけでなく、国外にも精通している。それもあってか、国内にはない国外の珍しい美味しいお茶菓子を取り寄せることは容易いらしい。今度、ツェツィーリアを通して特別に取り寄せてもらおうか。
普段見かけないようなお菓子をお皿に取ると、近くのベンチへと腰掛ける。
流行の形に、流行のドレスを着た令嬢達は楽しそうに笑っている。
「……ん」
今更だが、私は未来の王太子妃だが友人がほぼいない。
ルートヴィヒは婚約者なので、友人とは違う。ツェツィーリアは唯一の女の友人だ。ジークフリートは友人であり、良き理解者である。
こう考えると…私の友人は二人しかいないのでは…?
「…マズい」
これは非常にまずいのでは?
楽しいお茶会のはずが、私だけが何故かピンチになっている。
「お口に合いませんでしたか?」
「……へ?」
令嬢達の中心にいたはずのツェツィーリアは、いつの間にか私の傍に来ていて悲しそうな表情をする。
「あ、えっと…言い訳をさせてください…ツェツィ」
額に玉のような汗をかきながら彼女と向かい合う。
「友人がツェツィと…もう一人しかいないのは…マズイのでは?と思っていたのが、口から…出たみたいなんです」
数十秒の沈黙がすごく辛い。
目線を逸らしたいが、ここで逸らすと嘘をついていると思われてしまうのは勘弁だ。
「そうなのですね。私…勘違いをしていたみたいで」
「いえ。私が誤解を招くような言い方をしたのが悪いのです」
こういう言い方は悪いかもしれないが、私はツェツィーリアが心配だ。悪人に騙されないように私が守ってやらなければならない。
「ではメル…今日はお友達を作りましょう」
彼女はめいいっぱい可愛らしい笑顔を振りまくと私の腕を取る。そして、そのまま令嬢達がいる場所へと連れて行く。
「皆さん、楽しんでいますか?」
本日のホストであるツェツィーリアが先に声をかける。彼女達は一瞬目を見開いて驚いた表情を見せるも、元通りの表情に戻る。流石は鍛え抜かれているだけある。
「はい、ツェツィーリア様のおかげで」
「それは良かったです。皆さんご存知でしょうか、こちらルートヴィヒ王太子殿下の婚約者である、メルクーア・シュテルンベルガー様です」
「初めまして、こんにちは。メルクーア・シュテルンベルガーです」
私は王太子妃教育で鍛え抜かれたお辞儀を行う。
すると周りは感嘆の声を上げた。目の前にいる令嬢たちは、頬を染めてぼんやりとしている。その中で真っ先に我に返った人が、こちらへお辞儀を返す。
「初めまして、こんにちは。メルクーア様、私はリタ・ローゼンハインと申します」
愛らしい見た目の彼女は、ローゼンハインと名乗った。
ローゼンハインは伯爵家の一つだ。彼女の濃い茶色の髪は、ローゼンハイン伯の遺伝子を色濃く受け継いでいる。以前、伯爵と話す機会があったのだが、柔和な雰囲気は親子で一緒らしい。
「伯爵とは一度お会いしたことはあるのですが、その時にリタ様のことをお話しされていましたよ」
「……まぁ…お父様はなんと?」
「頭が良くて可愛い最愛の娘がいる…と」
伯爵が言った言葉をそのまま伝えると、リタは顔を赤くする。可愛らしいとは彼女のためにある言葉だろう。私はそんな姿を見て胸が鳴る。
「リタ様、ぜひ…私も会話に入れていていただけませんか?」
少し困ったように言えば、リタは首を振って頷く。
「ぜひ。先程も、皆でメルクーア様とお話したいと会話していたところなんです」
リタは後ろに控えている令嬢達に同意を求めるように話しかける。嘘でもいい。仲間に入れてもらえるのなら、願ったり叶ったりだ。
私はツェツィーリアに手を引かれながら彼女達の中に入った。