表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/86

甘えてみましょう。

ツェツィーリアに甘えてみて下さい。と言われてから、チャンスがあれば何度か挑戦してみたのだが、どれも不発に終わった。物が欲しいと言ってねだるのも違うし…だからといって他の甘える方法も分からない。

ジークフリートに甘えるって何だと思う?と聞いても、興味がないのか”分からない”と一言だけ返ってきた。そこから彼は膨れっ面になっていたが、年頃の男の子は分からない。ルートヴィヒが達観し過ぎている気がしている気がする。

それは、置いておいて。

今日はこの国を祝う建国祭の二日目だ。

一日目は挨拶やら何やらで忙しなく動くことになり、ゆっくりと過ごすことが出来なかった。

二日目以降は、全員が楽しめるようにと、王の計らいにより貴族間の集まりはなくなったのである。

この建国祭は、この国の象徴であるヒマワリの色や、ヒマワリ本体を身につけ参加するものである。そのため、ルートヴィヒも私も、黄色やオレンジ色を基調にした衣装を身に纏い、城下町で祭を楽しんでいる。

彼はこの国の王太子で、私も王太子妃になる予定なので、護衛が隠れている。完全なお忍びではないけれど…それでも二人で城下町に出かけるのは楽しい。


「ルートヴィヒ様、次はあちらに行きませんか?」


噴水の近くで休憩した後、城下町で流行っているという噂のパフェのお店を見つけた。つい最近、休暇を得ていたメイドが”美味しかったんです”と頬を染めながら言っており、興味が湧いていたのだ。


「うん、行こうか。ほら、メルクーア嬢…離れないで」


ルートヴィヒが自身の手を出す。私は、その手と彼の顔を交互に見ると、おずおずとその手を取る。遠慮がちに手を握る私とは対称的に、しっかりと握る彼の顔は眩しい。今にも私が焦げてしまいそうだ。


「…あの…ルートヴィヒ様…手が」


力強く握られた私の掌からは、じんわりと汗が流れている。


「手がどうかしたのかい?」

「汗を…かいてしまっていまして…嫌じゃないですか?」


汗をかくことが恥ずかしくなって、彼から顔を背けてしまう。

だって…急に手を繋ぐんだもん。心の準備なんてありやしない。


「嫌じゃないよ。僕はメルクーア嬢とこうして手を繋げて嬉しいけど…嫌だった?」

「い、嫌じゃありません。ただ…少し照れてしまいましただけなのです」


最初は自分が思っている以上に大きな声が、そしてその自分の声に驚いて小声で彼に伝える。

今日は開放感があるからか、周りは喧騒としており私一人の大声では注目を浴びない。


「照れていたんだ…メルクーア嬢は可愛いね」

「な?か、え?」


ルートヴィヒの形のいい唇から紡がれた言葉に、上手く言葉が出てこなくて詰まってしまう。


「か…可愛い?」

「うん、可愛いよ。僕はそういうメルクーア嬢が好きだな」


建国祭という祭りで開放感があるからか、普段とは違う彼にドギマギしてしまう。

こうして彼の言葉に一喜一憂している私は、側から見て大丈夫だろうか。


「……からかってます?」


素直にありがとうございます。と受け入れることが出来ない私は、少しだけ頬を膨らませて彼を見る。こういうことをすれば、彼の好感度が下がると分かっていても、メルクーア自体の性格が邪魔をする。

これでは、私はツンデレですと言っているようなものだ。


「僕はからかわないよ?それは、君が一番知っているだろう?」

「…分かっていますけど。いつもはそんなことは言わないじゃないですか」


彼のいつもとは違う行動、言動に振り回されている気がする。さっきから楽しそうに笑っているから、私の反応を見て楽しんでいるんだろう。


「今日はほら…街一帯が楽しそうだろう?だから、僕も楽しもうと思って」

「……では、私も楽しみます」


私が笑顔でそう返すと、彼は嬉しそうに微笑んだ。


◇◆◇◆◇◆


行きたいと言っていたパフェを食べた後は、露店に出かけた。

店主が作ったというヘアアクセサリーの中に、オレンジ色の花があしらわれた物があり、ソレに目がいった。


「メルクーア様、こんにちは。どうですか?この店の中でも人気の物ですよ」

「こんにちは。確かに…人気が出るのもわかります。可愛いですもんね」


自信満々に伝える店主は可愛らしい。

私より三・四歳程年上であろう彼女は、こんがりと焼けた肌にそばかすがまばらに散っている。前世の私も彼女のような健康的な肌だったと懐かしむ。


「お姉さんの手作りなんですか?」

「え?どうして分かったんですか?」


それは…一つ一つ少しだけ違うからだ。手作りだと全てが同じものにならない。ただ、ほぼ見た目が同じに見えるもので、彼女の器用さが出ている。


「何となく、そうなのかなって…すごいですね」


私が手作りのお店からなかなか離れず、感動している間ルートヴィヒも隣で商品を眺めている。


「メルクーア嬢に似合いそうだね。こちらを一つ」

「は、はいっ。かしこまりました」


初めて声を出した彼に、私は驚いて隣を見上げた。店主のお姉さんはあたふたと慌てる。ただ、落とさないように丁寧に取り扱うと、手を出したルートヴィヒに渡した。

彼はお礼を言って受け取ると、流れるように私の髪にヘアクセをつける。あまりにも自然すぎて、私がぼんやりとしている間に事が済んでしまった。

隣にいるルートヴィヒは満足そうだ。そして、楽しそうでもある。それを見て私も笑ってしまう。


「似合っているよ、メルクーア嬢」

「……ありがとうございます」


私のやりとりを見ていた店主は、頬を染めている。何だか恥ずかしい。


「…少し離れませんか?」


彼が屈んだタイミングで耳元で提案すると、彼がまた手を差し出す。今度は迷わずにその手を取ると、彼は木陰に私をエスコートしてくれる。

ちょうどいい具合に涼しい場所にあるベンチで、触れるか触れないかの距離で腰をかけて休憩する。


「…ルートヴィヒ様」

「なんだい?メルクーア嬢」


お互い目を合わさず、隣に座ったまま話を始める。目が合わないからか、彼の表情は全く読めない。


「私が甘えるのってどう思いますか?」

「ん?メルクーア嬢が僕にか…」


彼が思案する。少しの沈黙に私は喉を鳴らす。


「…僕は嬉しいよ」


柔らかな声に思わず安堵する。

ツェツィーリアが言っていた通りらしい。私はここで自信が付いて、とあることを甘えてみようと思った。


「…ルートヴィヒ様」


私は彼を見つめるように半身を取る。


「なんだい?メルクーア嬢」

「…二人きりの時は…ルーイ様とお呼びしても?」

「……あぁ勿論。僕もメルクーアと呼んでもいいかな?」


恥ずかしいから二人きりと付け足す。だが、それすらも了承してくれるルートヴィヒ。


「はい、ぜひお呼びください」


私は距離が近くなったことに喜ぶ。

彼は私の髪を一房取ると、それに口付ける。


「ル、ルートヴィヒ様っっ?!」

「ルーイ。じゃないのかい?メルクーア」

「ル、ルーイ様」


十一歳の色気どうなってるの?

私の心臓がバクバクと鳴っている。なんか今すごく恋してるって感じがする。


「何だい?」

「…なんでもないです」


私が彼の色気に爆発寸前になっていると、彼は楽しそうに笑う。

……甘えてみるっていいかもしれない。

そう思える大切な思い出になった。

きっと彼とは良い関係を結べるだろう。

ここまで呼んでいただきありがとうございます。


面白い、続きが読みたいと思っていただけたら評価お願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ