思い出しました。
中途半端で申し訳ないですが、新作です。
よろしければ閲覧お願いします。
七歳の誕生日を迎えたパーティーの数日後、メルクーアは自身の父親に朝から呼びだされた。
メルクーアのメイドと、この家の執事に連れられてきたのは父親の書斎。何か悪いことをしただろうか…と幼い頭の中で必死に思い出す。
内緒でこっそりと甘い物を食べたこと。
庭師が丹精込めて育てた花をうっかりと手折ったこと。
これだけではないので、上げだすとキリが無い。メルクーアは、ゴクリと喉を鳴らしている間に書斎の扉を開いてもらう。
「お、お父様…メルクーアは昨日、こっそりと甘い甘ーい生クリームを、手のひらいっぱい分食べてしまいましたっっ!!」
大声で昨日の罪を懺悔しながら入ると、書斎にあるソファーには金髪の男の子が座っていた。
父は目を見開いて驚き、メイドからは悲鳴が聞こえてくる。金髪の男の子は少しは驚いていたが、ニッコリとした笑顔を貼り付けている。
「えっと…申し訳ございません?」
「メルクーア、その件は後で聞くよ。こちらへおいで」
父親は苦笑しながらメルクーアを招く。それにしっかりと従い彼の前に腰掛ける。
先程悲鳴を上げていたメイドは、今度は静かに紅茶を入れたカップをメルクーアの目の前に置く。
見知らぬ誰かが近くに座っているのに、緊張してソワソワしていると父親から声がかかる。
「メルクーア。こちらは、ルートヴィヒ・ノイエンドルフ様だ」
金髪の男の子を紹介する手の方へ目を向ける。綺麗な紫色の瞳がこちらを見つめる。
「こんにちは、メルクーア嬢。ルートヴィヒ・ノイエンドルフです。この度は、メルクーア嬢と婚約を結ぶためにやって来ました」
彼は少しだけはにかみながら言った。
それを聞いたメルクーアは、カップを傾け紅茶をドバドバと自身のドレスへと零す。熱々のソレに気がつくのは数秒程かかった。
彼は今なんて言った?
メルクーア嬢と、婚約を結ぶ…?
名前は?ルートヴィヒ・ノイエンドルフ?
彼の名前を反芻したところで。メルクーアの頭がズキズキと痛む。
“コレ、王子が本当の愛を見つけるって言うんだよ”
“まじか…婚約者いたのに?”
“そ。本当の愛の相手はメルクーアの家より下の相手なんだって”
“最低じゃん”
“そうだよ。しかも、メルクーアはその相手に嫉妬したとか変な言いがかりをつけられてるの”
“今、流行りの断罪ってやつか…”
見知った人たちが会話をしている。
見知ったと言うか、一人はメルクーア自身だ。いや、これでは語弊があるか。メルクーアの中にいる、合体してしまっている自分自身。メルクーアでありメルクーアでは無い。
“悪役令嬢に転生って本当にあるのかね”
そう友人の一言。
“転生するならメルクーアがいいなぁ…。綺麗だし、気高いし”
なんてことを言った…前世の自分。
メルクーアは頭を抱えたくなったのを既のところで止める。
そして、もう一度ルートヴィヒの方を見る。
「……そ、そうなのですね」
名前を一度聞いて思い出せないなんて。
彼は正真正銘…この舞台でのヒーローで、メルクーアの婚約者で、のちにヒロインと恋に落ちるこの国の王子なのだ。
そして私は正真正銘…この舞台の悪役令嬢(にされる予定)で、正ヒロインを(何故か)いじめて、ルートヴィヒに婚約破棄にされる人物だ。
「さぁ、メルクーア。挨拶をしなさい」
父親に声をかけられ我にかえる。
「こんにちは、ルートヴィヒ殿下。メルクーア・シュテルンベルガーです」
ドレスの裾を軽く摘み、幼く拙いながらも精一杯のお辞儀をする。ルートヴィヒはソレに反応するように、片膝をついて私の手を取る…とその手の甲にキスを落とす。
「僕との婚約を受けいれてくれますか?」
困ったように眉を下げて訊ねる彼の頭には、動物の垂れた耳が付いているように見える。私はその姿に心臓が鳴るのを感じた。
彼と婚約すれば、未来でなりたくもない悪役令嬢となって婚約を破棄されてしまう。だけど、メルクーアがヒロインをいじめなければいいのでは?だって、前世で小説の内容を大まかに覚えているぐらい読んでいたじゃ無いか。自分が変われば、結末を変えることが出来るだろう。
そうと決まれば行動に移すまでだ。
「ぜひ、お願いいたします」
彼の手を掴んでそう返事すると、ニッコリとした笑顔を浮かべる。すると彼も同じように嬉しそうに笑う。
私はそれだけで胸がいっぱいになった。
◇◆◇◆◇◆
ルートヴィヒが帰った後、メイドからガッツリとお叱りを受けた私は部屋で机に向かう。
前世の私が何の因果か、小説の中の悪役令嬢(になる予定)に転生してしまった。
メルクーアは、政略的に婚姻を結んだルートヴィヒのことを愛していた。彼のためなら、王妃教育も苦ではなかった。ルートヴィヒから送られてくるドレスや、花などの贈り物や優しい笑顔が嬉しかった。お互いに愛しているのだと思っていた。
それが崩壊したのは、男爵家の庶子であるヒロインが現れてからだった。
彼女は庶民から急に貴族になった。そんな彼女は王子であるルートヴィヒが気にかけている内に、親密になっていった。そんな二人を見たメルクーアは彼の態度に違和感を抱く。そして、原因がヒロインにあるとわかったメルクーアは、貴族らしからぬ行動をする彼女に淑女としてのあり方を説いていく。それが、ヒロインにとっては怖かったらしく、ルートヴィヒへと密告する。それを聞いた彼は、今まで優しい笑顔を向けていたものをメルクーアに向けなくなった。
そして、遂に十七歳の誕生日を迎えたメルクーアの誕生日パーティーで彼女に、
“本当の愛を見つけたんだ”
“婚約破棄をしてほしい”
と出会った時と同じ表情でそう告げる。メルクーアは唇を噛みしめながら了承したのだ。
そこからはルートヴィヒとヒロインの愛の話があるのだが、そこは興味がないので見ていない。
こう長々と思い出しているが…つまりは彼に好かれ、ヒロインをいじめなければ破棄されないのでは?と言うのが、長考した結果だ。
私ってば天才すぎない!?
やっぱり持つべきものは前世の知識だ。
首が取れそうになるまで頷いていると、外から声がかかる。
「メルクーア…大丈夫かい?」
声の主は父親だ。
「えぇ大丈夫です。お父様」
私の返事のすぐ父親が入室する。彼は銀色の髪をかきあげている。前世の私より少しだけ歳がいっている印象だが、彼はまだまだ若く見える。
「どうかなさいましたか?」
「急な話で申し訳なかったね」
「いえ、大丈夫ですわ。私、ルートヴィヒ様のこと…以前からかっこいい方だな…と思っておりましたので」
名前を言われても気が付かなかったんだけど。それにかっこいいと思っていたのは間違いでは無い。作中トップクラスのイケメンだったのだ。
「ルートヴィヒ様も、メルクーアのことを気にかけておられたのだよ」
「では、お互い気になっていた存在だったのですね」
子供のように無邪気に(…自然となった)微笑むと、父は安心した笑みを浮かべる。
彼はこの国の重鎮で、王族との繋がりをより深くしたいのだろう。愛娘であるメルクーアを王子への婚約者へと進めたのもおそらく彼だろう。政治的なことのために娘を使うのは、貴族であるため仕方のないことだと思うので、今更私が言うことは何も無い。ここはこういう小説を読んでいたので、理解はある方だと思う。
むしろ伯爵家であるメルクーアがよく選ばれたものだ。
父がゴリゴリに押したか、それ以外か…。
よく彼は嘘偽りなく、メルクーアのことを“可愛い、可愛い”と言っている。だからメルクーアのことは政治だけの道具だとは思っていないはずだ。
父が立ち去った後、近くにあった鏡を見つける。そこに向かうと口が自然と開いた。
「…何これ…綺麗すぎる」
そこに映っていたのは、父親譲りの銀色の上質なストレートな髪。そして宝石のように光り輝く碧色の瞳。幼い子供にしては少しだけ鋭い目の形をしているが、それもまたメルクーアの美しさを際立たせている。
「…そりゃ…王子も気になってくれるはずだわ」
それ以外は、おそらくメルクーアの容姿のおかげだろう。
私は自分の容姿を目視できてよりやる気に満ち溢れた。
婚約破棄…回避してみせると。