番外編 ⑤
その知らせを私は明日菜ちゃんのマネージャーから、電話できいた。
私ひとりだけで、きいた。
だって、もしも失敗したら、私はあの子たちの前で冷静にいられない。
唯一の大人である私が、動揺するわけにはいかない。
・・・はじめから、マネージャーときめていた。
あの子たちにとって、明日菜ちゃんは特別すぎるから。
ただの事務所の先輩後輩としての関係よりも、明日菜ちゃんを慕う後輩たちの心は、子供が親にむけるものによく似ている。
だから、金髪のあの子は、明日菜ちゃんに理不尽に反発したし、残りの子たちは、ただあまえている。
それを明日菜ちゃんが、うけとめていたから。
本当は私や事務所の大人がやらないといけなかったけれど、
ー私たちは、あの子たちに信用されていない。
あの子を、守ってあげられなかったから。
それだけが、あの子たちにとってのリアルだから。
だから、あの子たちにとっては、明日菜ちゃんだった。
このコロナで閉ざされた世界では、もっと、明日菜ちゃんだけになってしまって。
「・・・あまえちゃったなあ」
私はちいさく自嘲する。
最初から私には、わかっていたのに。
ーああ、えらばれちゃった子だ。
そうわかっていたのになあ。
心底、そう悔しいけれど。
「神様もすてたものじゃないのね」
明日菜ちゃんには、彼がいた。
あのちょっと、いや、だいぶ?変だけど、
ー彼がいた。
やさしい世界が、残されていた。
私のスマホが振動して、ひさしぶりにみる笑顔の明日菜ちゃんと、
「あら、美味しそう」
つい、そう口にしていた。
なんでも本当に釣ったらしい。
・・・彼らしい。
ある意味、あの子も、えらばれちゃった子なのに。
ーほんとうに、奇跡的に強運にめぐまれた子だ。
「・・・どうして、このタイミングで釣るのかしら?」
どうせなら、もう一匹釣ってくれないかしら?
このサイズなら喜んで送料をだすわよ?
ほんとうに、あきれるくらい、あの子らしい。
ーあの子たちらしい。
私は、マネージャーからいっそ動画の方がはやくない?
って、思うくらい、どんどん送られてくる写真のいちまいにわらってしまう。
あの魚を前にとっても嫌そうな顔の明日菜ちゃんがいる。
いつもわらっていた子が、ほんきで嫌そうにしている。
私は、笑った。
その嫌そうな顔がうれしい。
よく考えたら、明日菜ちゃんには、反抗期もなかった。
いつも冷めた寂しそうな顔は、していたけれど。
でも、いつだって、私には笑顔でいてくれた。
あの彼の奇妙なプレゼントだけが、明日菜ちゃんのあきれた顔や心底うれしそうな顔や、
ー哀しそうな顔を、おしえてくれたけれど。
これからの明日菜ちゃんはもう、
「・・・むりして笑わないわね」
そんな明日菜ちゃんに会えないのは、ほんとうにさびしいけれど。
もう、この寮に明日菜ちゃんは、もどってくれないだろうけれど。
もどってきたら、絶対にダメだってわかっているけれど。
「ーさびしいわね」
明日菜ちゃんの荷物は、きっと少ない。
あの子は、あんまり私物ももっていない。
「あのマグカップを、ひとつもらおうかしら」
このコロナじゃ私には、福岡はもはや異国みたいに遠いし。
おなじ日本なのに、なかなかうちの子たちも帰省できないでいる。
ー外国じゃないのに。
・・・へんな時代。
でも、そのかわりに、
私のスマホが振動して、テレビ電話の表示になる。
こういう時代に、コロナがおそった。
ーこういう時代まで、
まってくれた?
こんな考え方は絶対におこられるわね。
それに、いま、悲しみにくれてる人がいる。
そう思いつつ、私はスマホのテレビ通話にでる。
そして、笑顔になった。
ーきっと、もうちょっと、前だったら、声しかきこえなかった。
うれしいね?
神様はきっと、耐えられるタイミングをはかってる。
そう思う。
不謹慎な考え方で本当にすみません。非難されてあたりまえの考え理解してます。ちょっとだけ、つかれた子供達が夢みれたらと思います。本当にすみません。
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