番外編 ③
「みてみて、明日菜!すごいでしょ?!」
私の目の前では、元マネージャーが目をキラキラさせて大喜びしてる。
もう、元、マネージャー。
13歳からずっと、私をみまもってくれいた、私のたいせつな人。
は、
「・・・私をいじめたいの?」
って、本気でおもう。
だって、
「なんで、尾頭付きなの⁈」
春馬くんの例のお魚を、尾頭付きの刺身や、てんぷらや、煮つけにしてもってきてくれたけれどー。
ーなんでお頭つきなの?!
「いやあ、寮母さんからきいていたけれど、生命力強いわねー。頭をきりおとしても、ずっとい生きているんだもの。しばらく、頭と胸鰭で、ドスンパタンとぶのよ?びっくりして、さすがに怖いって思ったわ」
「・・・怖いなら食べなければ?」
「それは、ダメだぞ。食べないと、釣った意味がない」
すかさず春馬くんが言った。
「ちゃんと、美味しく食べるんだ」
「そうよ。明日菜、食べず嫌いはよくないわ」
「ー私はたべないよ?明日菜」
・・・バラバラ意見に、私は苦笑いがでる。
最後の真央が、真央らしかった。
「真央は、ほんとに食べないの?」
「気が向いたらたべるかな?お刺身以外」
「もう動くの?」
「ちょっとだけかな?ぐにーって、感じだよ?イケメン先輩には、わからないくらいかな?」
にこって嬉しそうにわらう。
「これだけは、やっぱり、私の特権だよね」
ずっと不安だったし、これからも、不安でいっぱいだけど、父親には、絶対にできない奇跡を体感できているから。
「いいわねー」
・・・元マネージャーが切なそうにわらう。
彼女は仕事に生きてきて、それはそれで楽しいんだってわかってるれど。
「俺と明日菜で老後みますよ?」
って春馬くんが言って、
「そんなに年じゃないわよ」
って、怒られてる。
「私にも、結婚のチャンスはあるわよ」
マネージャーなら、いつかそのチャンスを確実に、最適なタイミングでつかみとるんだろうなって思う。
それに、いまは、結婚がすべてじゃないし。
いろいろな家族の形がみとめられはじめている。
少しずつ、いろいろなことが変わり始めている。
声に出して、たくさんの人が言い続けて、少しは理解してくれる人が増えてきているし、
ー結婚は、みんな一度は、いろいろ考えるだろうから。
結婚したい、独身でいたい。
どっちも選べる時代になった。
昔みたいに、結婚しないといけないって考えは、変わった。
そういう未来を勝ち取ったひともいる。
ーちょっと、ちがうかな。
でも、みんなが幸せに、なってほしい。
そして、笑っててほしい。
それなら、きっと、みんながうれしいよ?
大人の笑顔だって、ううん。
大人が、笑ってくれるなら、
ー子供たちは、かならず笑顔になれるんだ。
だけどー。
私の目の前には、あのお魚の顔が、これでもかって自己主張してる。
嬉々としてみつめてる、マネージャーは、私は理解できない。
そして、
「わー、おいしそう!」
「春馬お兄ちゃん!すごいね!」
「うむ。これは、いい酒の肴だ」
「だー!」
驫木一家が目を輝かせている。
ちなみに、壱さんはお仕事らしい。
にぎやかな春馬くんのファミリーマンションでは、私たちの結婚を祝ってくれるひとたちがいる。
といってもコロナだから、ほんとにこのメンバーだけだけど。
というか、女性ばっかりだけど。
「おー?凜ちゃんたべるか?」
春馬くんが煮つけを凜ちゃんにあげている。
素直に口をひらいた凜ちゃんが、
「ーちいっ!」
って笑った。
春馬くんも周囲もニコニコになる。
とくに真央はうれしそうに、みてる。
そして、やさしくお腹をなでていた。
「真央、私もなでていい?」
私がそういうと、真央はやさしくわらった。
「いーよ」
「ありがとう」
真央のふくらんだお腹に手をのせる。
「まだわかんないと思うけど」
真央がそう言った時、
「「ーあっ」」
とんって、私の手をおしかえす力に、私と真央の声がかさなった。
真央がびっくりして私をみる。
「ーわかった?」
「うん」
「そっかあ。第一号は、明日菜かあ」
って、嬉しそうにわらうけど。
「イケメン先輩になんかわるいな」
「それが、イケメン先輩の運のなさだよ。明日菜だから、私もうれしいよ」
「あっ、うごいたの?」
って、純子さんがにこにこしてる。
「不思議よねー。ほんとにさ。生まれて何年もたっても、たまーに、思い出すんだよね。あれ?いま、うごいたって」
そんなわけないのに。
唐突にそう思うことがある。
そして、その時の不安もつい思い出しちゃうけれど。
純子さんは、わらって萌ちゃんたちをやさしく見た。
「笑って、そばにいてくれるなら、それだけでいいのよね」
ほんとうは、萌ちゃんを生んだ時に、出血がとまらなくて、ほんとうに大変で、輸血のサインもしたけれど。
家族は仕事でいなかったから、きつかったけれど。
「もう、ちゃんと生まれてきてたから」
それだけで、きつくても、幸せだった。
そのきつさもなにもかもが、
「母親しか体験できない。子供たちからの最高のプレゼントだもの」
ゆっくりと純子さんが真央の頭をなでる。
「あいたいね?」
「はい」
真央がほんとうに、うれしそうにわらった。
それを、みて、
ー軽はずみに、無事にうまれてくるよ。
って、言わなくてよかった。
って、おもった。
けど、
「あら。このお魚、ほんとうに美味しいわ。いる?」
日本酒片手に、純子さんが言って、
「・・・いりません」
私はやっぱり、あのお魚は、
ー食べる気には、ならない。