番外編 ②
私は、いま、とある小さな国の、とある小さな島での片隅で、
ーたくさんの虫と、たたかっている。
ここは、国際民間団体が資本になっているボランティア機関の、職員寮の一室。
職員寮だから、まだ、この国の水準よりも、しっかりしているけれど、
「・・・この虫の数だけは、なれないんだよねー」
こういう時に、あの子の凍らすタイプの殺虫剤がほしくなる。
あの子の彼氏が、プレゼントしていたあの殺虫剤。
・・・みた時は、寮のみんなで大爆笑しちゃったんだけど。
ーあの子は、いまどうしているのかな?
私の代わりに、いろんなものを捨てて、
ーいいたい想いを飲み込んじゃった子。
私が、そうさせちっゃた子。
たぶん、いまもあの世界にいるんだろうな。
ーあの子はそういう子だから。
がんばっちゃう子だから。
「・・・わかってたのに、な」
虫と格闘していた箒がとまる。
私の胸に、つよい悔恨が残る。
私が、あの子のやさしい未来を奪っちゃった。
ーやさしいあの子に甘えちっゃた。
どこまでもやさしくて、やさしいから・・・。
「ー私は、もう、大丈夫だよ?明日菜」
そう伝えたくても、私は、もう、あの国を、逃げ出している。
ー逃げ出せた。
だって、
「どうしたの、ぼんやりして?」
そううしろから、声がした。
私とそっくりな外見で、でも背が高い私のお兄ちゃん。
その昔、大好きだった世界的大ヒットした、英国の魔法使いの児童本、を、大好きすぎて、つぎの翻訳版が待ちきれなくて、英語の原作を読んで、翻訳版読んだら、
ー自分がした翻訳との違和感で、結局は、どっちも読めなくなってしまった人。
いくら繰り返し読んでも、もう脳が拒否して、あんなに大好きなお話だったのに。
ー読めなくなった。
大好きだから、必死に読んだ原本で、
ー大好きなのに、読めなくなった。
読まないんじゃないよ?
活字は目でおうのに、
ー記憶できないし、
もう、その本のその巻数から、わからないんだ。
前の巻も記憶からなくせたら、いいのに。
大好きだったから、一字一句記憶にあるのに。
ーもう、脳が記憶してくれない。
やらなければ、よかったって、お兄ちゃんは、悲しそうだった。
でも、そういう感覚のひとは、やつぱり、ちょっと、かわってて、お兄ちゃんは、
「じゃあ、どっちも、慣れてしまおう」
って、前向きに、外国で生活していたから、あっさり、私を救い出してしまった。
あの最悪の環境から。
ーいっしょに逃げてあげる。
おいでって、ただ、強引に、私の心に休憩をくれたお兄ちゃん。
は、最近、また、あの本を読む気になってきたみたいだ。
それは、ひとによってはあとから、本音を言ったら、夢を壊したって、いろいろ言われた、作家さんの真の声をきいたから。
だって、あのひとは、最初から子供向けに本を書いたつもりはないって言っていた。
周囲が、児童書ってしただけ。
そして、あの発言も素直に口にしただけ。
インタビューをよく読んだら、気がついた。
そう前からいっていた。
それなら、また、別目線でお話がたのしめる。
そう思ったんだって。
ーよくわからないけど。
お兄ちゃんは、そういうひとだ。
そういう立て直し方をしちゃって、だから、おなじようになる前に、私にきづいて、強引にひっぱりあげて、
ー知らない国で、休憩させてくれた。
だいじょうぶだよ。
ゆっくり寝なよ。
ただ、それだけの言葉、しか、私はおぼえていないけれど。
ーでも。
あの子は、いまどうしてるかな?
そう、最近、考えてしまうのは、この部屋の持ち主の名前をきいたせいだ。
私達の団体に、資金援助している企業から、新しいプロジェクトのために派遣されてくるひと。
企業にもいろいろとあって、ただ、資金援助をしてくれるところと、こんなふうに、実際に現地をしろうとしてくる企業とがある。
その人は、その企業に所属しながら、私たちとプロジェクトを一緒にすすめてくれる。
その人の名前と年齢をきいた時から、私の心はおちつかない。
ー同一人物の確率の方が絶対にすくないのに。
でも、もしも、そうならー。
ーあの子は、どうしたの?
どうしても、頭からはなれない。
ここには、それを知るすべもなくて。
首都までいけば、ネットはつながるけれど。
事務所でも、その気になれば、知れるけど、私的に使う気にはなれない。
だって、ほんとうに欲しい情報の時にバッテリーが上がったりしたらこまる。
日本にいた時の私なら、いつでも充電できるからって、ギリギリまで、ネットやゲームしていたけど。
いまなら、わかるよ?
自分のバッテリーの寿命を計算して、ちゃんと、
ー救急車両をよべるバッテリーは残してないといけない。
だって、リダイヤルもGPSも、電源がきれたら、使えないよ?
充電さえ、あれば、自分も、ううん、たいせつな人がまにあった、かも、しれない。
だから、いまなら、日本で違う使い方するけど。
でも、本音は。
「って、いいわけだけど」
ー知るのが怖いだけ。
「新しいスタッフの数がふえた」
お兄ちゃんが言った。
「ふえた?」
「うん。あ、でも、部屋の用意は、ここだけでいいよ。夫婦でくるんだって」
「夫婦?」
「うん、奥さんのなまえはー」
お兄ちゃんがやさしく笑いながら、口にした、名前にー。
私は、奇跡ってあるんだなって思った。
ーけど。
「・・・この場所に、あの殺虫剤はないよ?」
でも、おくったひとがいるなら、だいじようぶかな。
それに。
ーこんどは、私が助けるよ。
私は、気合をいれてそうじしたけど、
次の日には、また、たくさんの、虫がいた。
自然だけはどうしょうもない。
そう、思う。
読んで頂きありがとうございます。
毎回、誤字脱字修正ありがとうございました…
少しでも面白いと思えたら、評価やブックマークお願いします。
しばらく番外編をアップしながら考えます。ありがとうございました。