番外編①
私の名前は、村上明日菜。
今日から、そうなった。
さっき、市役所で婚姻届けをだしたから、もうそうなった。
ー紙切れ一枚なのに。
いままでの「神城明日菜」じゃなくなった。
「明日菜」も変わらないし、大切な家族の「神城」も変わらない。
なのに、
ー私は、もう、村上明日菜。
なんだか不思議な気分になる。
お仕事していたら、ちょっとは「神城明日菜」はあったのかもしれないけれど・・・。
「もう契約解除か」
あれも結局は、紙だった。
・・・いまはコンピュータの中で、処理されている。
もし、紙が燃えたり、コンピューターがトラブル起こしたら、どうなるんだろ?
私と春馬くんはー。
「だいじょうぶだよ、明日菜」
春馬くんがぽんっと、私の頭に手を置いてくれた。
それだけで、胸にずーんとひろがりそうな、なにかがふっと消える。
ーだいじょうぶだよ。
そのひとことが、春馬くんが言ってくれる
―春馬くがいってくれる。
「うん」
それだけで、私はこんなにうれしいんだ。
ね?
春馬くん。
春馬くんは、やっぱり、
「春馬くんだ、ね?」
「俺が俺じゃなきゃどうなんだ?」
「私の大切なひと」
「このやりとり、やっぱり定番化するのか?」
「あたりまえだよ?」
だって、私には、春馬くんしかいない。
だって、
「まあ、俺が大切なままでよかった」
春馬くんが優しく笑って私の頭をなでてくれる。
それだけで、私はこんなに安心できるんだ。
ちいさな頃に、お母さんにやさしい手で撫でられたように。
私は、ただ安心できる。
ね?
春馬くん。
私は、それだけで、
「大好きだよ」
言葉にしたら、
「俺も、すきだよ」
ちゃんと、言葉で教えてくれる。
私はクスクスと笑ってしまった。
前なら、きっと照れて言ってくれなかったのに。
ここは、春馬くんのファミリーマンション。
相変わらず、上下左右がドタバタにぎやかだ。
そして、段ボールがいくつもある。
そいえばー。
「日本語教師?」
いまごろ、春馬くんにきいた。
「うん。日本語教師」
春馬くんが私のとなりで頷く。
私たちはリビングにあるソファーに腰掛けていた。
「教師にはなりたいけど、べつに日本にこだわる必要も子供にこだわる必要もないかなぁって思ったんだ」
「どうして?」
「うーん。学びたいって思うなら、いつでもいいのかなぁって。むしろ、そういうふうに日本をしろうって、興味をもってくれる人がいたなら、さ」
春馬くんがやさしく笑う。
「そういう人にこそ、日本をしってもらえたらいいのかなって」
日本人は、つい、世界中のみんなが、日本を知っててくれるって、勘違いしちゃうけど。
世界には、たくさん、国があるよ?
逆に、私たちの知らない国だって、たくさんあるよね?
なら、その国の人も日本を知らないんじゃないかなぁ。
そうしたら、きっと、お互いに楽しいよね?
「うん、そうだね」
「だろ?」
春馬くんは笑う。
「まあ、とりあえずは慣れないとだけど。まあ、なんとかなるだろ」
「うん。春馬くんと一緒なら大丈夫だよ」
ーたぶん、お腹はこわしそうだけど。
そもそも、
「どこに行くの?」
「まだ内緒」
っていうけれど、段ボールに釣り具とかをいれているから、海はあるのかなあ。
でも、いいや。
私は春馬くんの肩に頭をのせる。
春馬くんがやさしく肩をだいてくれる。
となりにただいてくれる。
ね?
春馬くん。
私は、それがとてもうれしいんだ。
ただ、そばにいてくれる。
それだけで、いいんだ。
「そうだ。もう少ししたらでかけよう」
「どこに?」
「指輪買いに」
「いらないよ?」
私は春馬くんに言った。
「あ、やっぱり」
「うん、いらない」
「・・・そっか」
「うん」
「そういうと思ったから」
春馬くんは私からはなれると、ポケットから小さな箱をとりだした。
「ーえっ?」
「さすがに、俺でもこのシチュエーションじゃ、やらないぞ」
っていうけれど、
「その発言がもうアウトだよ?」
「・・・だよな」
「まあ、春馬くんだし」
「・・・だよな」
春馬くんはちょっと微妙な顔をしたけど。
「結婚しよう、明日菜」
そう言ってくれた。
春馬くんの、きちんと言葉にしてくれたプロボース。
は、
「もう結婚してるよ?」
「ーだよな」
やっぱり、春馬くんらしく、斜め上をいく。
でも、
ー言葉でちゃんと、くれた。
だから、
「はい」
って、言ったら、
「ずっと、一緒にいるから」
そう言って、春馬くんがやさしくキスをしてくれた。
読んで頂きありがとうございます。
少しでも面白かったら、評価やブックマークお願いします。様子見ながら、番外編アップしていきます。
よろしくお願いします。