表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

91/652

第12話 彼氏と彼女と、彼氏の本音。


「・・・先輩は?」


私は学校から帰るとすぐに、自分の部屋でうがい手洗いをしっかりして、着替えて、きちんとマスクをしてから、明日菜先輩のお部屋をたずねる。


前は、ここまで、注意はしなかったけど。


ーいまの明日菜先輩を専門の病院でもないなら、まかせたくない。


それが、私たちにただできることだったから。


ただ、前とはちがうのは・・・。


「おかえりなさい」


「こんにちは」


明日菜先輩には、家族がついていた。


明日菜先輩のお母さんか、お姉さんのどちらかが必ずそばにいて、お休みの時にはお、父さんとお兄さんもきていた。


ー来てたけど。


「いまは、寝てるわ」


明日菜先輩は、あの日以来、私たちに笑顔をみせてくれない。


ほんとうに、ただ、ぼーっとしていか、眠ってる。


問いかけても、なんの感情もない目が、私たちを見返してくるけど・・・。


「ごはんは?」


「ー少しだけだけど食べたわ」


明日菜先輩は、だされた食事をちゃんと、少量だけでも口にしちゃうから、


「・・・やっぱり、いまの状態じゃ措置入院はできないって」


明日菜先輩のお母さんが溜息をついた。


ー明日菜先輩は、ただ、ぼーっとしていて、でも、食べ物をくちにして、だけど、あんまり動こうともしなくて、


ー自殺も他害も心配いらなくて、


「ーだいじょうぶ、だよ?」


時々、ふと思い出したように、そういうから。


ー入院もできない。


私たちには、ただ、見守ることしかできない。


ほんとうに、明日菜先輩が、もう言葉を理解でき始めた時から、無意識でなげつけけられてた言葉が、もう何年も続いていたから。


ー明日菜先輩とは、きりはなせないから。


ただ、20年近くの明日菜先輩の傷ついてしまったこころの休憩が、必要だった。


「ある日、突然、その時はおとずれる。なにかのきっかけさえあれば、また立ち上がって、歩き出せる、ーそんな子もいるって」


全員がそうとは、言えないって、言われたけれど。


ー私たちは、ただ、明日菜先輩がこれ以上、傷つかないように、ただ、見守っている。


「・・・先輩、また見てる」


つけてあったテレビでは、全国のお天気地図がでて、明日菜先輩は、ただ、日本地図の下の方をみていた。


そして、その地図がなくなったら、また、うとうとしてる。


「・・・きょうは、もう少しだけ、大きなアルファベットに、してみたの」


明日菜先輩のベット脇にある小さなテーブルには、小さく英語表記で、シンプルにFUKUOKAの文字がならんでる。


明日菜先輩は、その文字をたまに確認するようにじっとみて、でも、またうとうとする。


このマグカップを選んだのは、明日菜先輩だった。


私たちは、もう、明日菜先輩の心がこれ以上、傷つかないでいいように。


彼、のものは、徹底して隠していたけど、ある日、いまみたいに天気予報の地図をじっとみて、食器棚をみて首をかしげて、


「・・・マグカップは?」


そう呟いた。


私たちは、びっくりしたけれど、明日菜先輩を刺激しないように、小さな文字からはじめていた。


ーだって、たったひとつの希望だったから。


「・・・まだ、なのかな?」


もう、あれからずいぶんと月日がながれてる。


もうすぐ、春が来る。


ー明日菜先輩が、ゆっくりと壊れていった春が来る・・・。


あの人は、ただ、それを待ってる。


遠くはなれた、場所で、たまに私たちがおくる明日菜先輩の写真や動画をみてる。


だまって、明日菜先輩をみまもっている。


ー明日菜先輩が、あの人のことを拒絶した日に、


「ーよかった」


パソコンの画面ごしに、そう言って、泣き崩れたひと・・・。


私たちには、理解できない行動だった。


ーだって、忘れちゃったんだよ?


あの人だけを、忘れちゃったんだよ?


私だけ、明日菜先輩に忘れられちゃうのと、同じだって、思ってたけどー。


「・・・まだ、俺にもチャンスがある」


俺は、まだ、明日菜の特別だって、膝から文字通り、崩れおちるように、なきくずれていた。


ーそうだ。


明日菜先輩は、あの人のことだけを、忘れてー。


でも、あきらめてないんだ。


ー特別、なんだ。


それが、私たちにもよくわかった。


明日菜先輩のたったひとりの、一番星。


大都会の東京の夜に、いつだって、その小さな光をみつめていた先輩。


・・・優しい明日菜先輩。


いつだって、私たちを見守っていてくれていた、でも、一度だって、


ー私たちには、なんにも言ってくれなかったね?


いつだって、やさしく笑ってたから。


ーだから、みんな、気づけなかったんだ。


だって、明日菜先輩は、


ー女の子だよ?


もともと、隠すのがうまいんだ。


もともと、


ー私たちに笑顔を見せていてくれたの?


ーほんとうの、あなたの姿はどこですか?


いま、いる明日菜先輩は、笑ってた、先輩は、


ーどこで時をとめたの?


もう傷つきすぎちゃった心には、わかんないよね?


だって、ずーっと、見ていたはずたった。


だって、ずーっと、笑っていてくれた。


笑ってたんだ。


ーあの日まで。







どんなにきつくたって、


ー年子の面倒見がいいお姉ちゃんって、時点で、もう頑張っていたね?


そこに、気づいてあげられなかった。


だって、


背丈だけでみたら、ふつうの子の平均をはるかに超えてたね?


みため、だけなら、2歳以上は、うえにみえてたね?


ー背が高いから、年相応のことをしたら、わがままな子って見えちゃってたよね?


ー見た目でたくさん傷ついてたのに。


子供の年の差はすごいのに。


たくさん、我慢してたね?


ーえらかったね。


でも、もう、そんな言葉もとどかない。


ーいいよ。


よくがんばったね。


えらかったね。


ーごめんね、は、絶対にいわない。


約束するよ?


そんな簡単な言葉で、ママは絶対に、


ーパパを許さない。


そして、


ーママも許さないでください。


あなたたちに、だけ、そう言われていいよ?


ーママ、いつも守ってくれてありがとう。


守れなかったって、後悔はもうしないよ?


だって、もう、


ー前をむいて、歩き出した。


たくさんのことに、傷ついても、


ーママ、いつも守ってくれてありがとう。


そんなやさしいウソで、もう二度と心が凍り付かないなら。


ーママだけじゃない。


ーみんながあなたの成長を見守ってくれる。


ほら?


よーく、耳をすませてごらん?


あなたのまわりは、みんなあなたを守りたいって、必死なんだよ?


ーママ以外にも、たくさんの大人がみまもっていてくれるよ?


歩き出した、その一歩に。


歩き出せなくなった、その心に。


逃げられた、その勇気に。


ーもう、いいよ。


よくがんばったね。


えらそうに、まわりはいうけれど、


ーママたちの子供の頃に、コロナはなかった。


それだけが、事実なのに。


ーもう、いいよ。


そう言ったって、もうその背中はまっすぐに前を歩き出したから。


ママはだまって見守るね?


ーほんとうに、


よくがんばったね?


えらかったね。


ーほんとうに、たくさんのひとに、助けられて、


あなたはいま、前をむいて、笑ってくれている。


ーそれだけで、みんなが、とてもうれしいんだよ?


ちいさなその心を、守れたって、思うから。


みんなの願いを、かなえてくれたから。


ーゆっくり、すすもう?


そんな言葉も、もうとどかない。


だって、もう、力強く、まっすぐに歩き出しちゃった。


その瞳にしっかり、未来を思い描いて。


ーもう、そんな言葉もとどかない。


それが、みんながうれしいんだ。


でも、ほんとうに、つかれたら、


ーにげてもいいんだよ?


だって、いまの大人が子供の頃に、コロナはなかった。


ーそれだけで、もうじゅうぶん、


あなたたちは、ママたちをこえたんだ。


だって、いのまの大人のこどものころに、


ーコロナは、なかった。


大人が絶対に忘れちゃ、ダメなことなんだから。


大人が怯えてるのに、


どうして、やわらかな子供たちの心が守れてるって、


ーその笑顔のやさしいウソに、気づけてますか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] こんな事を書くと、不機嫌になられるかも知れませんが、私だけに限っては、コロナの流行は、私にはそれ程影響はないと言えます。友人や家族と過ごす時間もあってもなくても良い人間なので。しかし、この心…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ