第9話 彼氏と一尉からのプレゼント
地域密着型のホームセンター、ナ○コに響き渡る声で、少尉が奇声をあげたあと、
俺は、今度は少尉の助言で、一番安い枕やシーツなども一緒に入った、お買得な布団7点セットと、これまた安い敷マットを購入して、なんとか、後部座席を倒した小型のデミオに、おしこんだ。
少尉いわく、非常でもないなら、寝れる時には、布団で寝る方がいいとのこと。
確かに、災害派遣にも、よくかりだされている一尉の言葉には、重みがある。
ただし、
「本当に彼女なんだな?ナンパや家出少女を拾ってきたわけじゃないな?」
と繰り返し、何度もきいてくるから、その度に、俺も、
「違います。中2の時から付き合ってます」
と繰り返した。
ーってか、一尉の俺に対する信頼ってどうよ?
何度か、そのやりとりを繰り返した後、一尉は腕を組むと、首を傾げた。
「それなら、なんで寝袋や布団が、必要なんだ?恋人なら、一緒にベッドで眠ったら、いいじゃないか?」
「へっ?なにを、恐れ多いことを」
明日菜と同じ布団で、俺が寝る?あの明日菜と?
ーまるで、想像できん。
今度は、一尉がため息をついた。
そして、おもむろに、さすがは陸自の人間兵器、素早い速さで俺のち○こをむんすと握ってきた。
遠巻きに、きゃあって、JK?から黄色い声があがって、尊い?なんてもらすOLまでいますけど?
「い、一尉?」
「きみは、コレの使い方は、しっとるかね」
「そりゃあ、朝から晩まで、使いますけど?」
「なぬ?3回だと!?さすがに、若いとちがうな。いや僕と純子さんだって、やればー」
「俺、朝ごはんは、ちゃんと食べる派だから、食べたり飲んだりしたら、そりゃあ、出るでしょ?」
「ん?なんの話だ?」
「ナニーって、オシッコの話でしょ?なんなら、大も毎朝、快調っすけど?もういいっすか?手を放してもらって」
あれ?なんかふつうに、だらんと力がぬけて、一尉の手が離れたけど。
「キミは、たしか22歳だったな?」
信じられないような顔で、俺を見るけど、そんなに老けてるか?俺?
「もうすぐ、23になりますけど」
ん?そもそもいま、排泄の話だったよな?
年齢の話を、していたか?
目の前の一尉の目から、どんどん力が抜けていくけど、きいたくせに、失礼だな、おい。
「ちょっと、ここで待っててくれ」
レジ脇に俺を置いて、一尉はドラッグコーナーにむかう。
背筋がピンとのびた歩行は、さすがは自衛隊。
一家の主って、雰囲気もカッコいい。
いまの家に引っ越してからは、轟木さんと一緒に、1歳の凛ちゃんや7歳の空ちゃんと遊びがてら、筋トレをしているけど、もともと細い俺には、なかなか筋肉がついてくれない。
あんまり食べると、すぐ胃もたれするし。
あっ、胃薬でも、差し入れしてくれるのかな?
明日菜が料理してくれるって、言ってだけど、ずっと事務所の寮で生活してきたんだから、あんまり期待でないし。
よく彼女の手作りは、手作りという魔法のスパイスが、味を誤魔化してくれるって、言うけど、
詐欺やラジオショッピングみたいなセリフだよな。
不味いのに、うまいと言わないといけないなんて。
そういえば、高校、大学とやたら、義理チョコブームで、手作り菓子たくさん、もらったなあ。
お礼を言って、クラスのやつらと食べてたけど、市販のお菓子が、いちばん美味かったなあ。
みんなで、わいわい食ってたのに、なんでか、俺だけホワイトデーの菓子代を払わされたけど。
あれは、いまだに、
ー納得がいかない。
明日菜の親友の柴原が、俺に任せるとろくなことならないって、俺からパシリ代もちゃっかり上乗せして、財布ごと毎年持っていかれた。
毎年、3月の俺が、極貧、生活だったのは、柴原のせいだ。
まあ、明日菜にだけは毎年、俺が選んでいたけど、あんまり喜んでた記憶はない。
ーなぜだ?
彼氏の真心マジックは、明日菜には、効かないらしい。
そんなことを、ぼんやり思ってたら、一尉が戻ってきた。
手には何やら紙包みを持っている。
胃薬にしては大きいし、わりと重みもある?
なんだ?
「まあ、持っておくのがエチケットだし、男の責任だよ。風呂場かトイレで一度、練習することをすすめる」
「なんすか?コレ」
「家に帰ってからのお楽しみ。僕からのプレゼントってことで。ただし、彼女の前では、絶対に開けないように」
そう言って、一尉は7人乗りのファミリーカーに乗り込んだ。
俺もお礼を言って、後部座席を倒して、布団がギチギチに、乗ったデミオに乗り込む。
そういえば、一尉も軍曹もマニュアル車が欲しいけど、子供が産まれて、諦めたって、言ってたなあ。
いまファミリーカーで、マニュアル車なんて、ほとんどないしな。
MAZDAも最近は、あまり作らないし、マニュアル仕様車って、スポーツタイプか軽トラばっかりだしなあ。
楽しいのに、マニュアル。
そんなことを思いながら、一尉のあとを追うように、エンジンをかけて、クラッチを踏み込み、ギアをローにいれる。
おっと、忘れちゃいけない、アイドリングストップ機能OFF。
これ、何気に一番だいじな作業。
ー俺にとっては。
ほんとうは、ダメだとはわかってるけど。
ー右折時、事故りそう、が俺なんだよ。