第7話 彼女と彼氏の、なら、いらない。
ー眠れなかった。
窓から入る朝陽に、私はちいさため息をつく。
ほんとうは、大きなため息がでそうだったけど。
私の小さなひとり用の部屋に、4人も人がいる。
私だけ、ベットに眠ることが、どうしても嫌で、私の隣には、金髪の後輩がスヤスヤと眠っている。
いまは、眠ってしまった子。
ーつい、さっきまで、いちばん遅く、起きていた子。
私に昔、
ーおままごとの恋だね。先輩の恋。
そう傷ついた瞳で、言った子。
ーいつからだろう。
この子が、私に懐いてくれたのは。
もう寮をとっくにでた子が、あんまり人と距離をつめようとしない野良猫みたいな子が、私の部屋に居ついたのは、
ーあれ?
ほんとうに、いつから?
えっ?
そういえば、なんで、みんな私の部屋にいるの?
ベットで寝てる子はこの子と私だけだけど、フローリングの床に無造作に敷いた敷布や毛布に、マネージャーや寮母さん、それに、もうひとりの黒髪の後輩がねむってる。
いつもへんな味のお菓子を食べては、お腹を下す子たち・・・。
ー私は絶対に食べない、あの天才的に変な色だけは、つくりだすナゾのお菓子。
まるで、作った人の、意味不明さをそのまんま、作り出してる、お菓子。
―私の、たいせつな、
「・・・春馬くん」
つぶやいて、私はホッとした。
「村上、春馬くん」
もう一度、しっかりと声にだしたら、頭が急に鮮明になってきた。
そうだ。
みんな、私を心配して、部屋にとまってくれたんだった。
ーそんなに、心配することないのに。
黒髪の後輩は、いつもいるけど、金髪の子やマネージャー、寮母さんまでいる。
まだ、金髪の子は、わかるけど、
「・・・過保護だなあ」
マネージャーと寮母さんに苦笑してしまう。
私が13歳の夏休みの途中から、ずっとお世話になっている大人。
マネージャーは今年で43歳。
寮母さんは70歳。
もうすぐで、私がお兄ちゃんとくらしていた時間を超えてしまう。
お兄ちゃんは、大学生で家をでていたから、私とはあんまり一緒に過ごしてない。
「ーでも」
ー春馬くんの方が、少しだけながい。
ほんの少しだけど、春馬くんの方が、私をさきに知っていてくれてる。
ね?
春馬くん。
「・・・私は、だいじょうぶだよ?」
まだ、こんなにうれしいから。
・・・まだ?
つぶやいた言葉に、私は、自分で首をかしげてしまう。
なんだろう?
うれしくなくなることが、決まっている未来みたいな、へんな違和感が心に残る。
ー?
私が春馬くんを、きらいになるの?
そう思ったらー。
「ー先輩っ?!」
「明日菜!」
「明日菜ちゃん?!」
急におおきく身体を揺さぶられて、そう名前を呼ばれてびっくりした。
「ーえっ?」
いつのまにか、みんな起きていて、心配そうに私をみている。
「あれ?みんな起きたの?」
そうきいた、私に、3人は顔をみあわせた。
「・・・あれ?3人だった?」
誰かもうひとりいたよね?
金髪の野良猫みたいな後輩は?
「・・・仕事に行ったわ」
マネージャーが私の髪をお母さんみたいに、やさしく撫でてくれる。
つい最近も、とても優しい手が、マネージャーよりも大きな手が、私の頭をこうして撫でてくれた。
私の大切な、
ー春馬くん。
あっ、そうだ。
「春馬くんは?」
そうだ。
だから、みんな心配してくれたんだ。
「・・・大丈夫。あなたのおかげで彼は無事よ。あなたは、ちゃんと彼を守ったわ。安心しなさい。彼は、無事よ?あなたが、まもった、から」
マネージャーが、ゆっくりと、私に言い聞かせるように、しっかりと言った。
ーあなたは、ちゃんと、彼をまもったわ。
そっか。
ーなら、もういいや。
もう、知りたくない。
もう、知らなくていい。
「・・・うん」
マネージャーは、やさしく私の頭を撫でるだけで、なにも言わない。
ー言わないで、くれる。
なら、もういいや。
知らなくていい、情報はいらない。
もう、いらない。
ーなんで、この世界は、こんなにもいらない嘘にまぎれて、でも、あまりにも耳に、目に、入ってきちゃうから、
ーもう、いらない。
なにが、本当で、誰が、正しいの?
だれが、私のことを、そんなに、監視、してるの?
なんで、本当に、いらないのに、
ーこんなに、情報、だらけなの?
みんな、どうやって、真実、と、嘘、を、みわけてるの?
だって、自分の目で、みてないのに。
ーいらない。
「だいじょうぶ。あなたの春馬くんは、あなたがちゃんとまもったわ。ー明日菜」
もう一度、マネージャーが、私の目の前で、ちゃんと、目をみて言ってくれたから、
ーなら、いいや。
「・・・うん」
私は、うなずいた。