第6話 彼氏と彼女と彼氏の特性。
ー俺って、すげーな。
俺はあくびを噛み殺しながら、いつもの電車にゆられていた。
自転車じゃないのは、ぐっすり眠りすぎて、遅刻しそうになったから。
ー俺って、どういう神経してんの?
特殊な思考なのは、わかってたけど。
ーすげーな、俺・・・。
自分であきれるくらい、電気消したら寝ていた。
まあ、2日間もまともに、寝てなかったけど。
明日菜と会う前日は、久しぶりに明日菜にあう緊張で。
明日菜が来た日は、ほんの少しの仮眠で、明日菜の寝顔をみてたし・・・。
寝たのだって、日付かわってたけどー。
ー俺って、どうよ?
いや、それよりも、世間のこの反応どうよ?
きのう、あんなに俺を監視していた目はどこに行った?
私服からスーツには、変わったけど、サングラスしてないけど。
ーみんなマスク姿で、よくわかんないけど。
・・・俺の左手には、空色の限定モデルがしっかりはまってる。
誰も気にしてないんですけど?!
なんで俺はゆうべあんなに悩んだの?
ってか、
ー明日菜、毎回、こんな想いをしていたのか。
恋愛映画の公開の度に、勝手にひらかれて、また勝手にしまる例のお茶会。
ー威力、すごすぎない?
・・・それがどんなに、相手を傷つけるのか。
当事者になったら、やってらんねーな。
毎回、明日菜って、こんなふうだったのか?
それに対して、ほんと、俺の態度って、
「・・・マジで、ないな」
しっかり眠って、頭もきちんとまわってるからの余裕だけど。
これが眠ってなかったら、俺は帰りに、薬局でも買える眠剤飲んで、無理やりにでも眠るつもりだった。
個人的には、空腹と睡眠どっちをとりますか?
って言われたら、まちがいなく睡眠をとる。
ー水分だっら、考えるけど。
そこまで考えて、俺はひとりで苦笑した。
そういうことを考えられるくらいには、俺は回復しているし、
ー遅刻しそうになって、慌てても、明日菜のスマホだけは、忘れなかった。
えっ?いつものスマホ?
忘れたに、決まってるだろ?
俺の場合、いっこにこだわると、必ずなんか忘れる。
わかってるから、問題ない。
だって、会社は、会社の携帯だし。
個人用のスマホって、ふだんも使わないやつは、連絡ツールあれば、べつにこまらない。
正直いって、なんでないとそんなに困るのって、思う。
腕時計もしているし、連絡とれるなら、なんか他に必要あるの?
・・・考えてもわかんねーから、やめとこう。
たぶん、俺の思考は、絶対的に、なんかちがう。
柴原も俺とおなじようなタイプだけど、あいつは、まわりの変化をよんであわせるヤツで、決して空気をよんでるわけじゃない。
俺は、そもそも空気も変化もよめない。
だから、他人を観察してあわせていく。
あわせられない時は、もう近寄らない。
そういう人間は、年齢をかさねていくと、自然と、いろんなことに、無意識に距離をとる。
あわせないといけない時は、もう無意識であわせられる。
ー俺も柴原も。
俺たちは、そういう発想の転換をしてしまう。
けど、
「・・・明日菜はちがうな」
違うから、傷ついてる。
いまごろ、傷が膿んでいる。
「・・・まあ、いつまでも考えてもしかたないか」
ほんとうに、思考が、気分がまるで違う。
ちなみにさっきから、連絡ないかは、こまめにチェックしている。
まったく、気配なし。
ーん?
スマホで気配ってわかんの?
釣りしてるときの感覚か?
なんとなく、くる予感的な?
相変わらず、絶好調にぐるくるまわるな、俺の思考。
そういえば、大学の教授が言っていたな。
小学生のこどもが、算数は、いつも頭がぐるぐるしているから好き。
でも国語はひまだから、ぼーってなって、キョロキョロしないと落ち着かないって。
・・・まさしく、俺と柴原タイプだ。
その子なりに、意識して、キョロキョロして、頑張ってるんだけどなあ。
ーよく、しかられた。
しかられすぎるから、国語嫌いになったし。
でも、興味持てば、漢字なんかは、字画関係なくすぐ覚えちゃうし。
興味ないなら、絶対に、そもそも覚えないし。
なんどよんでも、興味ないなら、理解できないけど、ある日突然、興味持てば、覚えるし。
その興味スイッチは、自分でも、永遠のナゾだし。
ーほんとに自分でも、意味不明だし。
それでも生きていけるから、診断名はいわれない。
でもある程度の傾向は、教えてくれる。
俺も柴原も自分に、欠如していることをしっている。
そして、それがけっして、他人とは一致しないこと、
ー求めちゃいけないことを、学んでる。
でも、明日菜は、ちがうんだよな。
ーちがうから、
「・・・わかるんだよ」
それだけ俺たちは、多くの生きてくことに必要な情報だけ、を、もう切り抜いて生きてるからさ。
いまの世の中は、情報だらけだから、もう必要最小限でパンク寸前なんだ。
だから、俺たちは、客観的にしか物事をみれない。
みないじゃない。
ー見れないんだ。
「・・・ほんと、へんなとこで、役にたつスキルだな」
ちなみに、ひとはそれを「ア」ではじまるやつという。
自分たちでも、よくわかってる傾向だ。
俺は傾向でも、柴原はそっちだ。
あいつの頭は、ずば抜けてる。
でも、俺達には、はっきりいう、勉強ができても、決定的な生きにくさがある。
ー価値観が、ちがう。
ひとの悪意も善意もよみとっても、「へー、そいう考えなんだ」ってなる。
そこに、自分の感情は、はいらない。
ー他人の感情も、はいらない。
ただ、目にはいった事実を、無意識に、分析して、判断しているだけ。
「・・・動く方向は、もうわかってるんだよな」
それまで、明日菜がもってくれたらいいけど。
違うか・・・。
ー俺をしんじてくれてたら、いいけど。
いまは、明日菜を、明日菜のまわりにいる人を信じるしかない。
明日菜からのリアクションがないいまは、俺には、見守ることしかできない。
ーもう、これ以上、俺のせいで明日菜を傷つけたくないから。
ー守りたいんだ、ほんとうに。
ーたいせつななんだ、誰よりも。
ー傷つけたないんだ、もう二度と。
ーほんとうに、守りたいんだ、
・・・俺、からも。
とりあえず、ぐっすり眠れた俺の思考は、今日も自分でもあきれるくらい冷静に、フル回転してる。
ただ、俺は、この時本当に忘れていたんだ。
ー現実は、ほんとうに、残酷なほど、負の連鎖がいちどはじまると、とまらなくなるってことを。
やっと回復した子供の心が、コロナって未知の世界で、また容赦なく、傷つけられてしまうことも。
ーそんな未来を、誰が予想した?
やっと、傷を癒したと思ったのに。
ー現実は、ほんとうに、子供達を傷つけてしまうんだ。
どんなに、必死で守っても、
3年前に誰がいまを予想した?
大人でさえ怖いコロナを、毎日毎日、言われる子供達の心を、
ーあの緊急事態宣言で、本気で守ろうとしたヤツは、どれくらいいる?
本当に、現実は、残酷なほど、負の連鎖がおきるんだ。
誰も、悪くない、やり方で。
ほんとうは、当時も数人は、テレビで言ってたんだ。
だけど、自分の変わってしまった生活に必死で、金さえあれば、コロナは乗り切れるって、思ってなかった?
生活費さえ稼げれば、親として守れてる。
そう信じてなかった?
ー子供達の心の叫びは、少なくても、俺には、聞こえなかった。