第4話 彼女と彼氏と彼氏の夢のため?
私のスマホがなって、春馬くんと2年ぶりの逢瀬は、あっさりと幕がとじた。
私達の写真が、ネットに載ったから。
いま、いるこの場所の映像が、ネットにもうのっている。
「ーいこう。明日菜」
春馬くんが、やさしく微笑んで、私の手をひいてくれる。
春馬くんの左手には、空色の腕時計がある。
ね?
春馬くん。
どうしたら、私は・・・。
ーずっと、春馬くんのとなりに、いれるんだろう。
「大丈夫だよ。必ず迎えに行くから」
春馬くんが助手席に乗って、帽子を深くかぶった私の頭を、ぽんぽんって撫ででくれた。
そのあと、春馬くんの性格からしたら、すごく乱暴な、でもちゃんと、周囲をみながら、おってきた車をまいて、事務所の指定された道にきた。
もう一台のワンボックスカーが、とまっている。
東京でもよく目にする支社長さんが、私に視線だけで促す。
春馬くんを見ちゃうと、泣きそうだったから、
「じゃあ」
とだけ言って私は、春馬くんの車をでた。
春馬くんも、
「ああ、また、な」
って優しく言ってくれたけれど、私はぎゅっと唇をかみしめて涙をこらえた。
・・・入れかわりに春馬くんの車に私よりも少し背が高い、私と同じ格好をした女の人がのる。
・・・事務所からの指示できいてたけど、春馬くんの車の助手席に、私の知らない人が乗る。
ー嫌だ。
って、感情を私は、無理やり飲み込んだ。
だって、相手が私じゃなかったら、こんなことになっていない。
だって、
「ーなに、これ?」
飛行機の待ち時間の間に、スタッフから見せられたネットに、唖然としてしまう。
いつのまにか、いろんな、ネットニュースに春馬くんの車の写真や走りがのってる。
私よりも、多く、春馬くんがー。
ー私のせいで、顔も知らない誰かに、春馬くんと私のことを、なにもしらない人が、
・・・春馬くんの悪口を言ってる。
「なんで、車のナンバーまで・・・?」
こんなのって、おかしい。
「いま、そのへんもふくめて警察にも話をしている。ーでも、しばらくは、こんな調子だろうな・・・。手段はあるが」
苦い顔で支社長さんが言った。
「えっ?手段があるんですか?」
「ああ。彼をまもれる、すぐに鎮火する方法はあるが・・・」
支社長さんは、心配そうな顔をする。
ーどうして?
「・・・私がダメージをうけるんですか?」
「・・・いや、仕事的には、うちもそっちの方がやりやすい」
「・・・彼を救う方法を、教えてください」
ネットの怖さなんて、私だってじゅうぶんに理解している。
だって、
ーあの子はネットで、簡単に夢を失った。
ネットにあんな写真が流出したから、子供の頃から抱いていた大事な夢を、一瞬で失った。
ーいま、あの子は、なにをしているんだろ?
それでも、あの子には、あの子自身に非があったけど、
ー春馬くんは、なにも悪いことをしていない。
ただ、私が彼女なだけで・・・。
ー春馬くんは、なにも、悪くない。
「教師になりたいんだ」
春馬くんのさっきの眼差しが、わすれられない。
ー春馬くんの、夢を、
・・・私のせいで、つぶすの?
「方法は、あるんですよね?」
「ああ。キミがひとこと、彼は恋人じゃない、他人だといえばいい」
ーえっ?
支社長さんが私を真剣にみている。
「そうすれば、一般人の彼のことなんかみんなすぐに忘れる。いちばん、簡単な火消しだ」
「ー私が春馬くんを、否定する?」
「もちろん、ほんとうに別れることはない。むしろ、こんなことくらいで、別れるならそこまでだが。いままでみたいに、堂々と彼のことは話せなくなる。鎮火したといっても、彼がきみの中学時代の恋人だとは、ファンなら気づく。彼らの情報網は、マスコミの上をいくからな」
それは、よく知っている。
だって、今日のも誰かが、昨日の朝の福岡空港で、私にきづいて、神城明日菜が福岡にいるって、呟いたから。
そこから、ずーっと、ひろがって、だから、あんな辺ぴなところでも、私は、見つかってしまった。
ー春馬くんが、みつかってしまった。
私だけの春馬くんが、また、消える。
ーもう、ひとつ、消える。
ね?
春馬くん。
春馬くんが、
「俺、教師になりたいんだ」
って、瞳をきらきらさせなかったら、私はこんな決断しなかったよ?
だって、
ーあの子は、ネットで、夢を奪われた。
かなしい瞳が、わすれられないんだよ?
どうして、こんなに、心が凍りそうになるんだろ?
ー俺、教師になりたいんだ。
どうして、そんなにキラキラした目で、私に言ったの?
だって、それなら・・・。
「はい。それで大丈夫です。・・・春馬くんの夢を守れるなら」
私よりも、たいせつな春馬くん。
ね?
春馬くん。
春馬くんは、春馬くんだけど、
ーときどき、私には、それがつらくなるんだ。
ね?
春馬くん。
いままで、私はどんなインタビューでも、春馬くんのことを否定したことはないんだ。
ーだけど、
「春馬くんは、もう、私の恋人じゃないです」
そう、いつまで言い続けられるかな?
言うと、ほんとになっちゃうのかな?
こみあげてくるナニかが怖くて、私はむりに笑った。
「ーそう、か」」
支社長が、目をそらした。
痛々しくて見てられないというように。
ー現実から、目をそらす。
ね?
春馬くん。
どうして、私にあんな夢を語ったの?
私は、なにを待てばいいの?
「神城明日菜」。
もう、名前だけがひとり歩きしちゃうように、なっちゃった私は、
ー「明日菜」は、誰のために生きるんだろう。
ね?
春馬くん。
それでも、私は、
「教師になりたい」
そう言った、春馬くんの、夢をまもるよ?
ーあの子みたいにならないように。
私の、せいいっぱいで、春馬くんを、
ー私が、守るよ?
ね?
春馬くん。
どうして、私に夢を口にしたの?
ー守りたいんだ。
ね?
春馬くん。
私だって、
ー春馬くんを守りたいんだ。