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第1話 彼氏と彼女とお茶会とマリ〇カート


陽がすっかりくれたころに、俺は、ようやく自宅のファミリーマンションに、戻ってきた。


ーつかれた。


玄関のカギをあけて、中にはいるとすぐに、カギをまたかける。


いつもなら、轟木姉妹の突撃にそなえて、帰宅後は、しばらくカギをあけておくことが多い。


でも、今日はさすがに、そんな気にならなかった。


ふわっと、まだ残るあまい香りに、ため息がでる。


つい、なにもない空間に、手を伸ばしたくなる。


ーなんも、ないのに。


とりあえず、玄関のハンドジェルで手を消毒し、洗面台でうがいと手洗いをする。


大人の俺でも、もう習慣化してしまった動きなんだけど。


もはや、空ちゃん、萌ちゃんにとっては、当たり前の行動になってるけど。


まあ、そんな轟木姉妹が、急にきても大丈夫な、俺の家。


「・・・明日菜も、いないしなあ」


ダイニングテーブルにある、食べきれなかった、コンビニの、残りのサラダやお菓子。


お菓子は、轟木三姉妹にやるとして、


「・・・俺に、草をたべろって?」


しかも、ご丁寧に、俺の大嫌いな、ブロッコリーが、まさに、森化しているようなサラダを、俺に、食べろって?


「・・・マジですか?明日菜さん?」


いや、買ってきたのは、俺だけど。


俺は、森が嫌いだけど、明日菜は、好きだって、たしか柴原が、言っていたはずー。


ーん?まてよ?柴原?


まてよ、あいつなら、やるよな?


俺が、明日菜の前では、かっこつけたくてしかたないことを、見抜いているあいつなら、絶対に、明日菜に俺の情報を、流しているよな?


そういえば、今朝、明日菜のやつ、俺の口にブロッコリー放ってきたよな?


「うわっ、マジか?」


俺は、口を押えてソファに、ぐったりと座り込む。


カッコ悪すぎする。


ー春馬くんは、やっぱり、春馬君だね。


明日菜の口癖が、俺の耳にやさしく、響くけど。


「・・・ちくしょう。たったの一日かよ」


少しくらい、ぼやいたっていいだろ?


2年前の成人式の時だって、俺たちは、いや、俺から、明日菜を遠くに、少しだけみただけの、一方通行な再会ともいえない、時間で。


ただ、遠くに、メディアや柴原をはじめとする中学の女子連中に、かこまれた明日菜の振り袖姿を、他のやろーどもから、


「にがした魚は、でかかったな」


なんて、からかわれていた俺だぞ?


ー逃がしてねーよ。


って、福岡なら口にできる言葉も、もしメディアにバレたらって、思うとその時は、言えなかったんだ。


言ったら、明日菜を困らせるって、思ってた。


そうなったところで、まだ学生の俺には、責任がとれないともわかってた。


なによりも、俺自身に、自信がなかった。


ーいまでも、ないけど・・・。


これからのことを、思うだけで、足がすくみそうに、なるけれど。


俺のスマホに、さっきから入ってくる、いろんな知り合いからのメール。


いつから、俺には、こんなに、知り合いが増えたんだ?


「ーって、あのとき、からだよなあ」


俺は、ため息をついて、いつもは開かない、スマホのアプリを起動する。


日本語では、さえずり、無駄話、なじる人、なんかの意味があるらしいけれど、俺はこれを「お茶会」と称そうとおもう。


もっといえば、中高年の奥様のランチタイムでもいい。


ワイドショーや週刊誌が大好きだよな?


そう言えば、「中高年の皆さん」で、いつも話がはじまる噺家さんいたなあ。


最近、見かけない気もするけど、一度、生できいてみたい。


噺家っていえば、川柳?だけど、例のサラーリーマン川柳も笑えるが、シルバー川柳も奥がふかいんだよなあ。



むしろ、年を重ねてる分、もっと奥が深くて笑えるし、笑える中にも、悲哀ありだし。


薬局なんかは、プリントはってるところもあって、ひとりでうけてたりする。


ー滅多に風邪ひかないけど。


個人的には、サラリーマン川柳の上をいくと思ってる、シルバー川柳。


で、そのお茶会アプリをひらいたら、検索する必要もなくトップ画面に、山道を疾走している俺のデミオが、映っている。


見出しは、神城明日菜、熱愛か?!


だって、さ。


さすがは、お茶会。


スポーツ紙の見出しみたいな文だけどさ、


「ナンバーくらい隠してくれよ」


明日菜の事務所が、必死でデリートに追われてるけれど、アップしたとたんに、相手は全世界だぞ?


ほんとに、そいつが、スマホに、指で触れるだけで、世界中だぞ?


しかも、俺の運転が違反か、撮影者が違反かで車好きが、明日菜のこと関係なく、バトってるお茶会あるし。


もはや、べつのアプリのお茶会にも、アップされてるし。


なんならYOUにも、俺のデミオの映像が、流れまくっているんですけど。


次から、赤い帽子にチョビ髭でのるかな?デミオ。


帰りの山道は、あの世界的、クレイジードライバーみたいに、ヒャッホーイって叫びたかった俺だった。



俺は、デミオを山岳ショップのパーキングから出した瞬間に、それに気づいた。


「明日菜。ごめん、これもってて」


俺は、山崩れの工事で、臨時の信号機で、とまると明日菜に、空色の腕時計を渡した。


「えっ?」


「ごめん。窓を少しあけるけど、酔ったらごめんな」


「・・・うん」


ルームミラーをみる俺の態度で、明日菜には、わかったらしい。


そりゃあ、恋愛スクープを、いつも狙っている奴らに追いかけられている職業だ。


明日菜にも、わかったらしい。


俺のデミオの後ろに、頭の悪そうな20歳くらいの男女の軽が、助手席で女がスマホをかざして、興奮した様子で実況中継している。


「あれ、絶対、神城明日菜だよ!空色の腕時計もペアでしてるし、絶対、彼氏だ」


って、きんきん響く声が、窓をあけてるから、入ってくる。


「どうするの?」


明日菜が、不安そうにいうけど、答えはひとつだろ?


「まく」


「でも、撮影しているよ?」


「だから、ちゃんとまく」


「ちゃんと?」


「相手が軽のオートマで、あの手のタイプなら、いける」


これが、バイクのマニュアルで、走り慣れした奴なら、完璧に負けるけど。


幸いにして相手の車は、ただの流行の軽で、見た目だけカスタムしてても、660だし、なにより、あの車種には、マニュアルがない。


というか、国産の軽でも、いまは、ほとんどマニュアルは、作っていない。


あるのは、商業者用の一番低ランクか、逆に、四駆が売りのやつか。


スポーツカーでも、軽は軽だし、山なら、ディーゼルが、というか、下りならとくにマニュアルが有効になる。


気分は、本当に、チョビ髭親父のヒャッホーイだ。


俺のデミオは、ディーゼルで、ガソリンのマニュアルに比べたら、エンブレは効かない。


だけど、それは、ガソリンのマニュアル車に比べたら、の話だ。


スポーツシフトのオートマよりも、きかないとは、いってない。


しかも、後ろの軽は、そのスポーツシフトすらついてないだろうし。


そして、俺は、いままさしく、気分は、そのゲーム機の中にいる。


なにしろ、工事用の臨時信号機は、信号の下にデジタルで数字表記がある。


運転するやつなら、わかるよな?


そう。


待ち時間を、知らせてくれるデジタルタイマーで、カウントダウンタイマーだ。


気分は、カーレーサーを味わえる、貴重な信号機だ。


そう思うと、イライラする信号の待ち時間も、ヒャッホーイになる。


「待ち合わせって、少しは時間ずらせるのか?」


「どうだろ?空港ちかくの道で、福岡支社のひとの車に移るようにって」


「どこーって、いまは、それどこじゃないな。明日菜、ちょっと運転荒くなるから、しっかり捕まっとけよ?」


「うん」


明日菜が頷くと同時に、信号機が青に変わった。



ーで、俺は俺の運転について、論争しているお茶会をみていた。


もはや、明日菜なんか関係なく、バトルがおこってる。


・・・これに、俺も参加していいのかな?


ダメ、だよな?


でも、参加したいな。


ようは、カーブでの減速時に、ブレーキランプ点灯がなくて、後ろの奴が、車間距離開けてないから、追突しかけて、危険運転だろって論争なんだけど。


それに対して、マニュアルマニアが擁護してしてくれている話だ。


いまは、オートマ専用免許が7割ちかいから。


3人にひとりは、オートマ専用だし、はっきりいって、マニュアル欲しくても手に入らない時代だし。


とっても、車自体が手に入りにくいし。


初心者でオートマ乗り慣れたら、マニュアルもどるの大変だし。


免許取得値段も安いし。


得しかないよな。


ちなみに、オートマのスポーツシフトとマニュアルの絶対的な違いは、クラッチワークだ。


変わらないだろって、思うかもだけど、俺が追いかけてくるバカな軽をまけたのは、たんにそこだけだ。


5速でカーブ前につくとする。


で、オートマのスポーツシフトで減速するなら、その通りのシフト原則になる。


そして、マニュアルに比べると、やっぱり効きもわるいが、それとは関係なく、マニュアルは、だいたい3速か2速に減速するけれど、今日みたいな時は、デミオは1速までおとす。


デミオのディーゼルは、本当にエンブレが、というかギアが独特だ。


ちなみに、ちまたではギア比やトルクとか語るらしいが、俺にはよくわからないからパス。


語れるほど、マニュアル試乗あるの⁉︎


羨ましい環境だな、って、マジで思う。


中古なら、前の持ち主のクセが入るし。


えっ?いくらなんでも、1速の急ブレーキは、危険だって?


だからこその、クラッチワークだぞ?


クラッチのつなぎ方次第で、ブレーキとまるで同じ、減速ができるんだ。


ガソリンなら2速で十分だと思うけど、デミオじゃ2速はエンブレあんまりかからない。


3速から2速に落としても、正直、エンジン音だけうるさい。


ガソリンみたいな、エンブレは効かない。


ガソリンの2速がデミオディーゼルの1速と思ってくれたらいい。


決して、ガソリンのパフォーマンスをディーゼルに、求めたらいけない。


だって、そもそも、軽油とガソリンだぞ?


軽油で走るコンパクトカーだぞ?


ーめちゃくちゃな、車だぞ?


本当に、評価は真っ二つで、ガソリン本来の、マニュアル本来の、動きを求めるなら、デミオディーゼルは、ものすごく物足りない。


ただし、化け物みたいなパフォーマンスはある。


ーで、1速まで落とす。


クラッチ版とエンジンに相当な負荷がかかるから、滅多にやらない、


絡まれた時用の最終手段だ。


もちろん、たまに後部ブレーキランプの故障じゃないことをしらせるために、ブレーキもふむ。


相手のブレーキランプをみて、反射神経だけで、車間つめても平気だって、ただ、それだけで、自分は、運転がうまいって、思い込んでるやつには、かなり有効だ。


だって、そのブレーキランプが、点灯しないから。


そのための、車間距離だろ?


たぶん、俺のとなりで、よくまわりに怒る友人との違いは、そこなんだよな。


俺たちは、基本的に自分が使うから、あいてのブレーキランプ関係なく一定の車間距離をとる癖みたいなのがついている。


たぶん、オートマ限定なんかない上の世代の人たちも教習上で習っていたはずだ。


そういう、減速の仕方をする車がある。


むしろ、山道をブレーキだけで、走る危険性の方が大きいし。


で、たまにクレイジーなバイクに遭遇する。


道を譲ったら、こんどは後ろに来たり。


前にまわったら、まわったで、マニュアル独自の減速をだらだらやるけどさ、わかってるか?


相手がマニュアルなら、お前の足と手の動きだけで、簡単にその動きについてくぞ?


だって、同じ操作をこっちもしてるし、バイク、丸見えだぞ?


ーお前のクラッチ動作。


なら相手のブレーキランプ点灯なしの急な減速も、見てればわかる。


ほんとに、アホかと思う。


ー免許とる時に、勉強してないの?


その時は、さすがに腹立てた柴原が、スマホで画像撮る真似だけしたら、その瞬間に逃げていったけどさ、


ードライブレコーダーの存在知ってる?


まあ、スポーツカラーリングで、隣に柴原みたいな美人を乗せていたら、そりゃあ意味不明に、からまれるんだけど。


明日菜には、わるいけれど、デミオは、大人が乗れるような後部座席じゃないんだよ。


柴原は背も高いし、必然的に助手席になる。


まあ、柴原以外の女は・・・。


「あっ、軍曹たちのせてる」


ー平気で乗せてる、俺です。


こんなヤツが明日菜の彼氏?!


お茶会の文字が俺の目にも飛び込んできた。


ーですよね?


ってか、ほんとにすごいな。


お茶会、威力。


しかも、俺のスマホは過去最大級に、活躍中。


もはや、メッセージボックスもバイブレーション機能もオフだ。


「ナンバーとかメアドも、なにもかも変えないとなあ」


ブロック機能って、マジで機能してますか?


っていうか、もう明日菜いないし。


俺は、明日菜から、返してもらった、空色の腕時計を、ぼんやりとみていた。


ちなみに、あの時とったのは、単に、シフト操作に、邪魔だったからだし。


地味に、痛いんだよ。


たまに、腕時計の位置間違えると、手首が。


ー今朝までは、明日菜がいた、部屋。


まだ、明日菜の段ボールも、たべかけのサラダも、残る部屋。


俺は、とりあえず、腹に何かをいれようと思って、立ち上がって、ダイニングに移動した。


俺の大っ嫌いな、ブロッコリー。


ーを、つまんで口にほおりこむ。


「・・・ヨーグルトじゃ消えねー味だよな」


むしろ、でたらめになった口のなかだったのに、


「・・・今朝のは、ほんとにうまかったんだ。明日菜」


ぼんやりとつぶやいた。


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