第21話 彼女と彼氏と彼女の下着事情。
純子さんの伝言に首を傾げつつ、私は春馬くんが帰るまでに、軽くシャワーを浴びた。
春馬くんは、ああみえて、ちゃんと家事をこなすから、もう洗濯機はまわっていた。
洗濯機と掃除機には、こだわって買った春馬くん。
たぶん、お隣の三姉妹のために、座布団カバーなんかを洗濯するからだろうなあって、春馬くんをみていたら、わかる。
春先には、あんなに赤ちゃんの夜泣きに、凛ちゃんの夜泣きに、ぐたってなってた春馬くん。
私は実際に昨日、凛ちゃんや純子さんにあって、ようやく真相がわかったけど。
春先には、わからなかったんだよ?
だって、あの頃は、私のいまもロングラン上映している恋愛映画が公開したばかりで。
いつものように、真央を通さないと春馬くんに連絡がつかなくて。
連絡かついたら、ぐったり疲れ切った顔で、そんなことを言い出すから。
ー春馬くんの辛さを、赤ちゃんの夜泣きで、誤魔化してくれてる。
てっきり、私はそう思ってたんだ。
ね?
春馬くん。
やっぱり、スマホ越しの電話だけじゃ、わからない事がたくさんあるね?
ね?
春馬くん。
もしも、私たちの間に新しい生命を授かれたら、春馬くんは、どうなるのかな?
私のいちばんは、春馬くんじゃなくなるのかな?
ーそんなことが、あり得るのかな?
よく自分が、いちばんじゃなくなったからって、理由で浮気や不倫なんかする人いるけど、
逆に旦那さんを赤ちゃんにとられたって、苦笑するお母さんもいるよね?
どっちも同じ、お父さんやパパなんだけど、なにが違うんだろうね?
ね?
春馬くん。
春馬くんは、どっちだろう?
ー私は、どっちだろう?
そんなことを考えながら、シャワーからでて、バスタオルで体をふいた。
洗濯機がまわってるから、とりあえず洗濯カゴに見えないように、バスタオルでくるんで、身につけていた下着や春馬くんのパーカーを入れる。
昨夜は、春馬くんをからかって、洗濯ネットで悪戯しちゃった私だけど。
さすがに、春馬くんの態度があんなに、激甘にかわってしまった、いま、は。
ーそんな、余裕ないよ?
春馬くん。
下着を見られることすら、恥ずかしいんだから。
少女漫画のヒロインを演じさせたら、右に並ぶものはいない、神城明日菜。
だけど、ただの「明日菜」としての私は、きっとこっちが、素なんだろうね?
生の春馬くんの前では、18歳の春馬くんの誕生日前の明日菜に、戻っちゃうんだよ?
ね?
春馬くん。
もどっても、いまなら、うけとめてくれるよね?
ー大丈夫だよ。
ー絶対に、守るよ。
春馬くんの優しい手のぬくもりが、私を幸せにしてくれるけど。
もしも、その手が直接、私の肌に触れてきたら、私はどう反応するんだろう?
春馬くん以外のひとの手は、下着越しに何度も、触られたこともある、私、神城明日菜。
だけど、ほんとに、ラブシーンになれば、なるほど、記憶はあやふやで。
ね?
春馬くん。
やっぱり、私はー。
髪を乾かしながら、ぼんやり考えていたら、私のスマホが振動した。
スマホの画面に、くっきり浮かぶ、
ー柴原 真央。
私と春馬くんの大切な親友の、
ー名前。
春馬くんと真央の電話は、音声らしいけど、私と真央の場合は、基本的に、テレビ電話だ。
だって、顔が見たいし、ふつうに楽しいし。
会話の内容も時間も女子会は、ダラダラと無駄に、ながい。
この法則は、同じ女子の私と真央にも例外なく存在する。
さすがに、真央が社会人になってからはないけど、くだらない話で、朝まで話して、翌朝、寝不足で顔も肌もひどくて、マネージャーから叱られたこともある。
ー女の子なら、ふつうにある経験だと思うし。
きょうも、いつも通り真央がテレビ電話してきたから、私もいつも通りテレビ電話ででて、びっくりした。
「真央⁈大丈夫?」
それくらい、真央の顔がげっそり疲れ果てたように、気分悪そうにしていたから。