ルービックキューブな彼女 7
「ルービックキューブを好きな人はお人よしなのかな?」
って呟くように言ったけど、
「絶対的にそれはない」
って、僕は思わずツッコミをいれた。どちらかと言うと、僕らは少数派になるだろう。
ルービックキューブをやるかときいたら、たぶん、やる気すらない。
って言われる。
物好きだね?的な?
実際にルービックキューブよりスマホが好きだろし?
ルービックキューブができる動画をみていたらそれで気がすむともいわれたし。そもそもが見ないだろうけど。
ついでにいうと、これをいうとかなり偏見だけど、
「あんまり近づかない方がいい部類だ」
真面目に言ったのに、目の前にいる子は、あきれたように、
「そんなセリフいうくらいには、お人よしだよね?あなた、たちは」
…たち?
達、かな?
僕のルービックキューブ越しに彼女は違う人物をみてるらしい。
ただし、複数?
「初対面でそんなふうに言われるのは、はじめてだな」
「まあ、最初はこんな人気のないところまでついてきたのかって焦ったけど。手にしてるのがスマホじゃなくてルービックキューブだから、少しほっとしたんだ」
「えっ?なんで僕が君のあとをつけないといけないんだよ?って言うか、きみ、誰かにつけられてるの?大丈夫かい?」
僕はついまわりを見渡す。いや、防犯カメラはさっきチェックした。
…何度もチェックしたりしたら、僕が不審者じゃないだろうか?って若干の焦りも感じつつ、だけど心配の方がますあたり、お人よしにはいるかもしれない。
僕の心配とはよそに彼女はスマホを取り出すと、肩をすくめた。
「大丈夫。私には過保護でお人よしの会社の先輩がいるから、もうすぐお迎えがくるから。その先輩の旦那さんがルービックキューブ好きなんだ」
「…なんだかうれしくなさそうに言うね?嫌いなの?その先輩」
「…好き嫌いとか以前の問題かな?人種が違うって感じ」
否定するかと思ったけど、彼女は平坦な声音で淡々と答えた。
そして少しだけ距離をとり、壁に背中をつけてスマホをのぞいてる。
ーふり、をする。
僕の手にはルービックキューブで彼女はスマホ。外見的に僕らが会話してるようには見えないだろうな。
ほんとうにこの子は追いかけられてるのか?
どっかで見た顔な気もするけど、東京だとたまに芸能人とかふつうにいたりするし、わざわざ声かけて騒ぐほど、僕も若くもない。
というか、いたよなぁ?たしかに学生時代の卒業生にも。そいつは男だけど。
まあ、これっきりだろうし、彼女もそれがわかってるから,少し話したいのかな?
ここはおじさんの出番だろう…甥や姪ができたとたんに二十代だけどおじさんになったし?
そんな僕の話したいならどうぞ?的な態度は彼女も気づいたらしい。
そもそも彼女は、隙がない気もする。この駅周辺にもきっといるだろう、野良猫みたいな雰囲気だ。
きっと僕がルービックキューブをしてなければ、彼女のその先輩の旦那さんがルービックキューブが好きじゃなければ、僕なんかスルーしていただろう。
チラッと視線をやれば、スマホに目を落とすその横顔はまだあどけなさも残ってるような気もする。
僕の場合、異性の年齢を当てた試しがないから,あくまで感想だけど。
「人種って、外国人なの?その先輩って」
「日本人だよ。混じってんのは、私」
「えっ?」
僕は思わず驚いた。彼女は皮肉そうに笑う。
「同じアジア系だよ?見た目はわからないでしょう?だけど、差別はあったんだ」
って、話す彼女の顔から笑みが消える。ああ、そうか。たしかに、なあ。
「まあ、わりと腐った幼少期だったから、地元から逃げるように東京きて、ひとりで生きていけるような職業見つけて、衣食住に困らないように寮に入ったら、先輩がいたんだ」
「ふうん」
どう相槌うつのかわからないから、とりあえず思いついた音で適当にかえす。
内容的に無音は辛い。
「知ってる?神城明日菜って?」
芸能人には疎い僕でも知ってる。なんせ最近?世間的には騒がれていた。
「中学時代から付き合ってたイケメン一般人と結婚した人?ああ、なるほど、たしかにお人よしそうだね?神城明日菜って」
「…どうして先輩が神城明日菜本人だってあっさり納得するの?」
「いや、きみが言っただろ?ひとりでも生きていける職業って。幼いきみが働ける環境なんか限られてるだろ?きみはその、へんなスレ方はしてないから」
それに芸能人だろうとは、思ったし?
「きみは神城明日菜が嫌いなの?」
「きれいすぎて…大好きだけど、苦手かな」
「大好きなことに納得いかないのか」
なるほど。
「若いなあ」
って、また失言をしてしまう僕がいた。