SS
明日菜がほしい。
素直にそう思った。明日菜のことを考えたら、明日菜にしてきたことを考えたら、
ーもっと我慢できるだろ?
って思うけど。いつもより少しながく感じた風呂あがりの明日菜が、俺のロングバーカを着て脱衣室から出てきた瞬間から、もう止まれない。
そう強く感じた。優しくしたいけど、優しくなんかできない。
いつもは年相応に見える明日菜が、化粧を落としてるせいもあるだろうけど、俺を見つめてくる黒い瞳があきらかに緊張していて、わずかにそらされて、うつむく姿は、頼りなくて、可憐で、
ーまだ抱きしめてもないのに、身体が熱をもつ。
めちゃくちゃやばくね⁈
俺の理性どこ⁈って、いや、童貞だから余裕がないだけど。
…そういえば、俺って童貞だ。
いまさら、緊張してきた。マジか?俺?
「あ」
明日菜って名前を呼ぶはずが、緊張で声がうまく出なかった。
ら、明日菜がうつむいてた瞳をあげる。そしてなんだかあきれたように、俺をみる。
そして、明日菜が口を開こうとした瞬間、
「いや、あいうえお作文じゃないから!」
って、夜なのに、大きな声がでた。その声が、自分でも奇妙なほど変で、
ー変すぎる。
「情けねー」
つい、その場にへたり込んでしまう俺だ。
「春馬くん?」
そんな俺に驚いた明日菜が俺に近づいてくると、俺の前にしゃがみんだ。
まっすぐな黒い瞳が思わず頭を抱えこんだ俺を心配そうにみてる。
「かっこよく決めたいのに」
いつかのトイレと違って、口にでた。どうやら俺のお口はいまやアイスクリームが健在らしい。
「ごめん、明日菜、はじめてなのに、大切な夜なのに、こんなんで」
こんなシチュエーション慣れてないんだ,って泣きそうな声がでる。
「それでも、俺は明日菜をほしい」
こんなのただのわがままだけど。
ただの性欲なのかもしれないけど。
約束したくせに、つい下唇を噛みそうになった時、
ふわりと温かなやわらかさを唇に感じた。