野良猫の彼女
「あれ?おまえ、彼女でもできたか?」
モニターの数字をブルーライトカットのグラシーズ越しに、もう条件反射みたいにカタカタと音をだす手元はそのままに、僕は目線を斜め前にいる同期にうつす。
年度末になり、やたらと忙しいから、無駄口はよしてほしい。
もう何度か目の年度末だから、モニターに表示される数字も反射的に打ち込むキーボードにもなれてるけど、
ー僕にワーキングメモリーやマルチタスクはない。
ミスを無意識にしないために、仕方なく同僚をみる。
「どうして?」
「いや、最近、なんか髪型やスーツの着こなしが前よりマシだし、香水か?香りもなんかかおるしさ?あれ,ヤローはつけないよな?しかもブランドだし?絶対にお前の趣味じゃないだろ?」
って同期は不思議そうだ。冷やかしたりしないあたりが、うちの職場だよなあ。
「彼女なんかいないよ」
そんなことかと、俺はまたモニターに目線をもどす。
と、違う後輩の女子から声がとんできた。
「でも、先輩。それめちゃくちゃ手に入りにくいいま爆上がり中の香水ですよ?いらないならください」
…おねだりしてるくせに真顔なのが、さすがうちの職場。
「僕のじゃないからあげれないかなあ」
って答えながら、僕は今朝を思い出す。
最初はなんとなく遊びだった(相手が)だろうな、彼女が,僕の合鍵をぶんどって行ってから、だいぶたつ、
まだまだ大人と少女の狭間にいる彼女を、マルチタスク皆無の僕がどうする、というか、どうするわけもなく、
ーだってさ?趣味のルービックキューブを完成させら、
ーきも!
ってドン引きされたし。なんかそのあと、
「いや、いや、私は違う違う」
みたいな独り言あるし、たまにうちの部屋に来ては、安心したように野良猫みたいにソファーで寝る。
ペットに移動させてあげたいけど、かといって僕らに肉体関係とかないし?
だから、彼女がソファーで僕がベッドでねる。
ふつうに会う回数が少ないし?
あー,実家にいる妹がなんか心配なったよなあ。
意外にも彼女は家庭的な一面もあるけど、18歳以上が確認されたから僕はわりかしやりたい放題、させてる。
ここは故郷で溺愛していた妹の影響があるかもなあ。
お兄ちゃんは、妹に弱いんだ。