SS
「ご馳走様、美味かった」
なぜか最後にブロッコリーをシャンパンで飲み込んだ春馬くんは、笑いながらひきつってる。
ね?
ふつうに考えたら、それは、
ー後味悪くない?
すべての味をゼロからマイナスにしたいの?
って内心で首を傾げつつ、来年のクリスマスや春馬くんのお誕生日には、ブロッコリーを控えようと私はちょっと反省した。
というか、ちょっとした悪戯だったんだけど、春馬くんは食事を残す方じゃないし、そもそも作りすぎだし、もう夜中だし…。
「うん、ぜんぶ食べてくれてありがとう。先に歯磨きしてベッドに行っていいよ?私がお皿洗うから」
春馬くんは少し迷う素振りを見せたけど、よほど口の中の苦味がきになるのか、素直に肯いて洗面所に向かった。
いつもより少しだけ多い食器を洗ってテーブルを拭いたり軽く片付けて、私も歯磨きをして、寝室にむかう。
「あれ?起きてたの?」
てっきり先に休んでると思ってたら、春馬くんはベッドに腰掛けてた。
「そりゃあ、起きてる。なんのために最後に森食べたかわかんねーし」
「ブロッコリーでしょ?きゃっ」
言いながら近づいたら、急に腕を引かれて春馬くんに抱きしめられた。
歯磨きしたての吐息が耳にあたる。
「目覚ましがわりだよ?いまからデザート食うための」
「デザートって…」
「だって俺、さっき言ったよな?」
って、抱きしめる腕を少しゆるめて、私をまっすぐに春馬くんの少し茶色がかった瞳がみつめてくる。
私の心臓がどきんと音をたてながら、同時に耳まで熱をもってしまう。
「でも、明日菜がイヤならしない」
って、優しい声が少しかすれたのは、私のあかくなった耳を軽く噛んだから。
「ーっ!」
思わず身体に力がはいる私の背をなだめるように、春馬くんは撫でる。
こたえるまえに、春馬くんの唇が私の言葉をふさいでしまう。
たまに春馬くんが寝ているときに、無色無香料のリップクリームを私が塗るし、春馬くん自身も気をつけてるから、前歯でできた下唇の傷はもう跡形もないけど。
どくん、とますます鼓動がはやくなるし、演技とは違って、意識が春馬くんに集中して、わけがわらなくなくなってしまう。
あれだけあざといしぐさもできない。
春馬くんはただ重ねただけの唇をこんどは、わたしの髪に触れる。
片手で背中を撫でながら、もう片手で、ゆっくりと私のうなじに触れる。
身体がひくん、と反応しそうになって、私は少し涙目になってきた。
「…ずるい」
そんな切なそうな、愛おしくてたまらないって瞳でみるくせに。
ずっと春馬くん、だけ、は、そうだった。
いつだってその不思議な優しさは変わらない。意地悪だけど、でも最初からほんとうに、
「…ずるいよ」
ついすねてるような、甘えた声が出た。
ほんとうに、うれしそうに笑うから、
ーずるい。
って思いながら、春馬くんの首に両手を巻きつけて、私は目をとじた。