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「いただきます。ありがとうな?明日菜」
って、春馬くんが言いながら、少しだけなんだか、信じられないように私をみた。
その顔が修学旅行の春馬くんと重なって、つい私は吹き出しそうになる。
ね?
春馬くん。
あの頃の私なら怒ってるよ?
いまならわかるんだよ?
春馬くんが感情を表現することが苦手なんだって。
優しいけど、ただ、優しいけど。
うん、春馬くんも、真央もほんとうに優しいけど…。
優しいんだよね?
ね?
春馬くん。
真央?
だけど、その優しさは、ちょっとだけ、
ーきつそうだよ?
あの頃の春馬くんの優しさに、私が苛立ち怒ってしまったように。
きっと、いまだから、わかるんだ。
私は少し意地悪をして行儀も悪いけど頬杖をついてテーブルの正面に座ってる春馬くんをみつめる。
きっと春馬くんは、目の前にいる私じゃなくて、画面越しの私を見てる。
ね?
春馬くん。
不思議だね?
あの空白の時間を少しずつ思い出していくうちに、なんとなく記憶や感情も、
ームービーみたいにふりかえれるんだ。
まだシーンずつだけど。ワンカットずつだけど。
ね?
痛みをおもいでにかえたなら、いまはデジタルだから、よくわからないけど。
でも春馬くんが好きなフィルムカメラのフィルムには、その時しか映らない。
ひとコマずつがウッドパズルの映写機みたいに、手動であんな風にうつるなら。
不思議な世界を春馬くんが誰かの作ったキットでも、
ー楽しそうに作り込んでくれたなら。
ね?
真央?
真央がよく笑う手品師みたいだね?
真央は魔法とは言わなかったんだよ?
手品にはたねがある。
いつかそう笑ってた。
小さな種を大切にして、いつか自分の力で芽ぶいて、開花してくれたなら。
きっと、また優しく強い世界になるから。
明日菜はいいね?
菜の花だよね?
きっと明日菜は幸せになるよ?
そう笑うんだ。
ね?
あの日の春馬くんと同じようで、違う言葉で私を守ってくれてる大切な親友は、名前の通りまっすぐに真をもってる。
真央は私をいちども画面越しには見ないんだよ?
だって、真央は真央たから。
ね?
春馬くん。
私は真央に嫉妬するけど、真央は私には嫉妬してくれないんだよ?
ー私がイケメン先輩を褒めたらどうなるのかなあ?
イタズラしたいけど、真央が本気で怒ったら、怖いからやめる。
いただきます、って言ったくせにお料理に手を伸ばす素振りかない。
私はつい笑いだしてしまいそうて、でも、きっと、残業の疲れもあるし?
というか、ふつうに疲れてるよね?
お腹いっぱいになって、歯磨きしたら、たぶんすぐ寝ちゃうだろうな。
さっきは心臓の鼓動がほんとうにうるさかったけど、目の前にいる春馬くんと中学生の春馬くんを重ねてしまったからか、お布団いったらぐっすりパターンかな?
って思う。
し、いま、春馬くんの色素の薄い柔らかな髪に触れたいけど、ふれてまたさっきみたいになったら、ご飯が食べれなし?
恋愛に関してはマルチタスクを発揮しない春馬くんだし。
「毒なんて入ってないよ?春馬くんのレインボーじよないし?」
「いや、クリスマスカラーの森いるぞ?」
「ブロッコリーだよ?」
「ふぎゃ⁈」
苦手なブロッコリーをフォークに刺して、春馬くんの口に突っ込む。
もちろんドレッシングやマヨネーズ抜きで。
微妙な顔をしながら、春馬くんは口を閉じてあまり噛まずに飲み込んで、無言でシャンパンを開けた。
先に私のグラスに注いでくれたけど、自分の分は一気に飲み干した。
お酒に弱い春馬くんが、可愛かった。かな?