SS クリスマス
真央はスキンシップがあまり好きじゃない。
そう僕は知ってる。知ってるぶん、たまに甘えてくれる仕草にほっとする。
ベビーベッドに僕らの宝物を寝かせてから、僕は真央を抱き寄せる。
「どうしたの?」
端正な顔立ちを上から覗きこむと、真央は少し笑う。
どこか自嘲気味に。
「こんなふうに、クリスマスを誰かと、まさか自分の子供や大好きな人と一緒に過ごすなんて日がくるなんて、思ったこともなかったから」
そういえば、イベント前には別れるようになってた、って話をしていたような。
正直、他の男との過去なんか嫉妬しかしないから、考えてない、っていうより、記憶から消し去りたいけど。
まあ、そういう過去があるからこそ、真央が僕を選んでくれたような?
「クリスマス終わったから年末で、もう新年ムードだけどね?」
物価の値上がりが洋風から、和風にかわるし?
僕らの住む福岡はぶりをたべるから、ブリをよく見かける。
真央は僕の感想?に、また笑う。
マタニティブルーがひどかった真央だけど、いまはほとんど不安を見せない。
正直、生まれてからやっと僕の出番だけど、やっぱり真央じゃないとダメな時も多いし、検査とかの付き添いがひとりの時は、当たり前のようにお母さんどうぞ?と言われるし。
僕だって心配でたまらないけど、文字通り命をかけて、命を生み出した真央が望むなら、僕は真央に任せてる。
真央は僕らの宝物が男の子だから、いずれ僕にばかり懐くって、ぼやくけど。
できればそういう存在でありたいけど、どうだろ?
わりと僕はマザコンな気もしてる。
僕の初恋のむなしい記憶と母の言葉が重なるからかもだけど。
きっとあの言葉がなければ、真央にプロポーズなんかしてないかも?
いや、しないよな?ってなると、僕も真央にとって他の男たちと同じ扱いだったような?
「すごい奇跡だね?たしかに」
なんかいろんな奇跡が重なって、僕らがいる。
「クリスマスはいつも村上が明日菜を無視してる時期でさ、明日菜を慰めながら、もうそんなにきついなら、別れなよ?ってどこかで思ってたかも。だから、なおさら奇跡みたいないまだね?」
って、わらいながら、僕の背中に手をまわしてくる。
まだ授乳してるから、のんでないよな?
チラッとテーブルを見るけど、とくにワインとかないし、真央は南九州出身だからか、焼酎が好きだ。
酒癖は、たぶん悪い?
かなあ?
盛大に村上くん部屋が大惨事になってたし?
後輩はあまりお酒をのまないしな。たんにふらっと釣りに行きたくなったときに、のんでると車の運転ができないかららしいけど。
ーあといつでも柴原迎えに行けるように?
って首を傾げていた。一見真央が飼い主なようで、わりと真央を守る番犬なんだよな。
たしかに、飼い主と飼い犬か。
全体的に色素が薄い茶色の忠犬だな。
あの後輩は番犬のようでどうだろう?噛みつきはしないよな?
だけど、簡単に心も許さない。
僕には入れない3人の関係で、真央は中立というより、奥さん派だから、うまくいくんだろう。
「まあ彼女の魅力はそれもあるだろうね。君たち3人はほんとうによく似てる」
僕は艶やかな真央の髪を指ですく。
「係長にもたまに言われるけど、そうかな?私は明日菜や村上みたいに純粋じゃないけど?」
「でももう僕だけだろ?絶対、捕獲用のネット持って追いかけて来てくれるだろ?」
僕は額に軽く口づけすると、真央が、
「毛がチクチクします、先輩」
って笑いながら、唇にキスしてくれる。テーブルの夜食は明日の朝、食べようと僕は決意した。