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「ただいま〜」
たしか今日はママはお仕事だったよね?
って思いながら、鍵で玄関をあける。
と、ソファーでうたた寝してるママがいた。
「あれ?お仕事は?」
って、ついつぶやいたら、キッチンから萌お姉ちゃんが顔をみせた。
「あっ、お帰りなさい、陽菜ちゃん」
私はまたびっくりした。
「萌お姉ちゃん?あれ?真菜は?」
「真菜ちゃんは彼とホームセンターに行ってるよ?ちょうど,実家に遊びにきたら、明日菜お姉ちゃんと真菜ちゃんにあったの。明日菜お姉ちゃん、お仕事がはやく終わったみたいで、だけど、疲れてるのか、眠っちゃったから」
「最近、お仕事と真菜のことで、バタバタしてたからかなあ」
いつも無邪気だけど、真菜はわりと欲しいものがあると、切り替えが難しい。
パパが犬を考えると軽く言ってしまったからもある。
考える=飼う。
に、変更されたみたいだ。
それでパパがまた海外に行ってから、真菜はさびしさもあり、かなりイヤイヤになってる、
ママの言葉がまったく届かない。
「明日菜お姉ちゃんから連絡もらってね。彼がアクアリウムというか、簡単に飼育できそうな小さな水槽と魚を飼うことを提案したの。もちろん、お魚だってお世話いるし。まあ、中には水草入れて放置してるだけでもいいけど」
私の彼がたまにサポートするから?と萌ちゃんは、笑う。
「幼い頃に、空が春馬お兄ちゃんにいろんな遊びを教わったから、お礼だよ?彼も川遊びで小さな水性生物捕まえてたんだって」
そりゃ、ウシ様の制作者だし。ウマ様もいまはいるけど、ウシ様が我が家のもはやぬしだけど。
ゲームが苦手なパパだけど、よく魚釣りゲームはしてるかなあ。
北欧のパパが作ったウッドパズルのチェレスタはいまもきれいな音色で私も好きだ。
「よく犬じゃなくて、納得したね?」
「まあ彼がいろんな動画みせたり、いちばんは一緒にやろうって誘ってたから」
不在中でも自動餌やる機械もあるし、飼いやすいやつを1匹からで?
って萌お姉ちゃんはいいながら、キッチンにもどる。
「夕飯、ハンバーグだけどいい?」
「うん!大好き」
「よかった。凛も好きなんだ。みんなで食べよう?けど明日菜お姉ちゃんはサンドイッチかなあ?」
ママは疲れがピークにぬると、サラダや簡単なゼリーとかしか食べなくなる。
というのは、最近知った。幼い頃は私たちが先に食べて家事をしていたから、気づかなかった。
「それで心配してきてくれたの?」
「うん、そろそろ明日菜お姉ちゃんが春馬お兄ちゃんロスかなあって」
仲良いもんね?
って笑う。たしかに、パパはまた海外で笑ってるけど、ママは少し寂しそうかなあ。
ママの場合、まわりにたくさんイケメンやお金持ちや、プロスポーツの人もいるのに、ずーっとパパしかいない。
…私は生まれた時からあの子だけど。
最近、モヤモヤしてることを、ママには相談できなかったことを口にした。
「告白されたら、なんて断ったらいいの?相手を傷つけないように」
「告白されたの?」
「たまに」
中学生になって、恋愛もなんかむずかしくて。
毎回、好きな人がいます。
って断るけど、たまに断った相手を好きだった先輩やまわりからいろんな事を言われる。
神城明日菜の娘だからいい気になるな?
とか。
好きでママの娘に生まれたわけじゃない、って言い返すのも変だし。
だってママことは大好きだし。ソファーでうたた寝してるママは私たちのために、一生懸命だし、守ろうとしてくれる。
学校に友達がいないわけじゃないけど。少し心が重くなる。
あの子からの告白なら、うれしいけど。
ううん、まだ断った相手ならわかるけど、それ以外がざわざわで、なんだか、嫌なんだ。
ーふわっ。
無意識に俯いていたみたいで、萌お姉ちゃんが優しく頭をなでてくれた。
「そっかあ、それはきついね?」
「うん」
「いまのままの陽菜ちゃんでいいとおもうよ?好きな子がいるなら」
「きぼうなくても?」
凛ちゃん相手に勝てる気がしない。
萌お姉ちゃんは優しくうなずいた。
「私の初恋は春馬お兄ちゃんだけど、もうその時には春馬お兄ちゃんは明日菜お姉ちゃんがいたけど。不思議と大好きなままだよ?」
って微笑んでから、すぐに真顔になった。
「けど、ストーカーとか、暴力やSNSとかになると話は別だよ?すぐに教えてね?陽菜ちゃん、かわいいから」
って真剣に心配された。
あまりの真剣さに、少しだけ、怖い気持ちがわかったかも。
どっかで私の評判がママの人気を落としたら?って怖かったのかなあ。
ただ、
「だいじょうぶだよ?私たちが守るから」
そう頭を撫でてくれる優しい手に、俯いた視界がボヤけたのは、ナイショだ。