SS2
「アイツが神城明日菜の相手かよ?」
「なんだよ、あの神城」
神城の先制攻撃というか、奇襲というか、いきなりの新婚ぶりに、俺たち俳優陣はー。
「「「めちゃくちゃ可愛な⁈なんだあれ!?新兵器か⁈」」」
って、声が被ってた。
当然ながら、スタッフうけもいい神城だから、周囲のスタッフもだけど。
…監督よ?
カメラまわしたよな?スマホだけど…。それは盗撮だろうが?
まあ、お祝いだからいいのか?
あんまり映画には関係ない三人組の後輩たちもきてるが、こちらは、神城と仲が良くて、さっそく、からかいに行ってるが、俺たちヒロインの相手役やらイケメンといわれる奴らは、悶えていた。
何人かは口や鼻をおさえている。
遊び人のくせに(かつての俺もだが)。
「生の神城やばくね?」
「えっ?アイツなんで、あんなに平然としてるわけ?」
「いや、俺らと比べてもわりとイケメンか?」
「いや、なんで、あんなラフな格好のくせに、すんなり溶けこむんだよ?」
演技してる神城に、役に入ってる神城に恋しないヤツなんかいない、は、俺たちの間では、下手したらスタッフの賭けになるくらい、魅力的だけど、役をおりたら、神城はあたりさわりのない絶妙な距離感になる。
撮影だと、
ーイケる!
って思うけど、なんか空気が一気にかわる。
べつに無愛想になるわけでも、不快感をいだくわけでもないけど、
ーだから、たちがわるい。
振り向かせたくなる。
俺だってウジウジしていたし、妻には悪いことしたけど。神城が入籍したとニュースになった時、
ーほらね?やっぱり好きな人いたんだ。
って妻は笑ってた。
神城はファッションモデルもしてるから、女性人気もあった。
恋バナとかもインタビューで必ず、初恋は中2。遠距離恋愛になっていた。
そう変わらない内容で、別れたって本人は言ってなかったと女性ファンなら知っていた、とも言ってた。
俺は記事を読んでも、別れたと思い込んでたけど。
だって中2の遠距離恋愛が、しかも、相手は日本を代表するスターにまでなって、地方の学生が恋愛なんてノーラインで、それでもロストしないでいるとは思わないだろ?
俺なら都会に、芸能界に、そもそも行かせない。
ずっと俺のそばにいて欲しい。
だって何回も目にした。
俺が神城の演技でのラブストーリーの初めての彼氏だ。
そうだ。
俺の前で、神城はスイッチを切り替えて、そしてなんどか同じ事務所だから、目にしてきた。
スマホを片手にため息をついてる神城を。
そう、みてきた。
ー能天気に笑いやがって!あの悲しそうな神城はお前のせいだろ?
「あとマネージャーの後ろにいる美人だれだ?新人か?めちゃくちゃ美人だな?」
「けど、やたら、神城の旦那とくっついてないか?神城がなんか言ってるけど」
「ああ、そういえば、今日は神城の親友も招待されたらしいな。次の映画かCMがらみか?スポンサーで、広報部だったような?まあ、とりあえず、俺たちも挨拶行こうぜ?」
「そうだな?なんか嫌味いいたい」
って、野郎たちとグラスを片手にあいに行くと、神城が俺に気づいた。
「お久しぶりです。先輩。みなさんも」
ってふわっと優しい笑みを浮かべる。
俺たちが知ってる神城はいつも少しどっか警戒心がある人当たりない笑顔だったのに、
「ちくしょう、かわいいな?」
誰かが小さく毒づく中、
「いやー、ないわ?それは、ないでしょ?村上?」
「なんでだよ?このプロジェクトは先輩だろ?なら、なんで俺がいるんだよ?」
「あんたもプロジェクトの一員だし、なにより、明日菜の夫でしょ?」
「ーえっ?」
キョトンとなったやつに神城がすかさず言う。
「映画には関係ないよ?」
「えっ?」
「演技だよ?」
「えっ?古くないか?いまどき?」
「春馬くん⁈」
「いや、最後まで言わせて⁈」
「終わらせたの春馬くんでしょ⁈」
「えー?」
「繰り返さないで⁈」
「ええっ?」
「ダブルもダメだよ?」
「…短気だな、明日菜」
「誰が⁈」
謎の会話に神城がキレている。なんだ?こいつ?
俺たちが唖然としていたら、そいつは肩をすくめて、神城の頭をぽんぽんと優しくなでて、
「ありがとな?おかげで落ちついた」
って神城に優しく笑いかけてる。神城が軽く首を傾げて、後ろで神城の親友って美人が笑ってた。
「めずらしく緊張というか、すねてたもんね?村上。明日菜の映画見に行く時の顔してた。けど、唇噛まなくなったから、安心したよ?」
「さすが柴原。俺の国宝は、容赦なく俺のブライドも見栄も木っ端微塵」
「何言ってんの?明日菜を散々、いじめといて。しかも明日菜が無理強いしてないのに?」
「だっていちおう、明日菜の彼氏って言いたいじゃん?」
「春馬くん、もう旦那様だからね?」
「えっ?」
「えっ⁈って、さすがに怒るよ?話がすすまないから!」
「あー、いや、そういえば、俺、今日は柴原のアシスタントじゃなかったんだな?」
「いまごろ⁈」
「あんた商談にしてはラフすぎるでしょ?何しにきたのよ?」
「明日菜と柴原を送りに?ドライバー役?」
って言いながら、ヤツは神城をみた。
「…俺、なんでいるの?」
「渡したよ?招待状。真央にも会社宛に」
「明日菜と柴原だけじゃなく、俺も?」
「いや、アンタがメインだけど?」
柴原って美人が言うと、
「ーげ⁈なら、マシな格好したぞ?やばくね?パーカーにジーンズ」
「ジャージじゃないし?まだいいよ?」
「だって明日菜?いちおう会社代表だし、明日菜の仕事関係者だろう?あれ?けど、なんで、明日菜はこの格好でよかったんだ?たまに仕事のときは、髪いじってくるよな?」
「ほっといたら、ボサボサのまま行くでしょ?商談とかはセットしてあげるけど、今日はそのままの春馬くんでいいよ?」
って、神城がチラッと女性スタッフをみていた。
そちらがわには、わりと男癖がわるい連中もいるけど。
「神城、こえー」
「けど、俺もヤキモチやかれたい」
ちなみに俺も羨ましいが、
「まあ、明日菜がいいなら、いいけど?…車だからアルコール飲めないぞ?」
「あら、運転代行あるわよ?」
って加納女史の言葉に、そいつは首をふって、
「明日菜も柴原も俺がきちんと送りますよ?特に柴原は」
「そこは、私じゃないの?」
「そここそ柴原だ。イケメン先輩は赤ちゃんのお世話だろうし、俺が明日菜を忘れて帰るわけないだろ?」
って、神城の肩に手をおき、抱き寄せると、はじめて俺たちをまっすぐみた。
どっか挑むような少し茶色がかった瞳で、
「はじめまして。村上春馬です。明日菜の家族です」
「…春馬くん、あってるけど、なんか違う」
って、神城が微妙な顔したら、そいつは軽く神城の頭にキスをして、
「俺の明日菜がお世話になってます」
と言ってきた。
全員に殺意が芽生えた。よな?