SS
やわらかな、そのふわふわの毛をなでながら、やっぱり少しぼんやりした瞳が、
「どうしたの?」
って問いかけたら、真似するように、首を傾げる。
そしてとことこ歩いてきて、頭撫でて?
みたいに頭をさしだす。
はじめはラッシーの介護がまた?
って思うくらいに歩けずに心配したけど。
あまりに反応がなさすぎて、ただ唖然としたけど。
まだ老犬だったラッシーの方が感情表現が豊かだった。
吠えない、動かない。
ただ、
ーいる。
ラッシーがあまりに夜泣きがすごくなって、獣医さんから睡眠サプリを処方してもらい、それでも吠えたら,夫が車でドライブしたり、手作りの遮音防音を工夫したり。
ラッシーはだけど、最後まで噛み付くことはなかった。
おむつをしたり、体位変換したり、etc。
なんとなく昔を思い出したりしたけど。
ただあまりに空虚な瞳が、無感情な瞳に唖然としたけど。
いまは触らせてくれて、なぜか夫には必ず吠えて唸る。
苦手なんだろうけど。
一緒にいる時間の差だよな⁈
って夫はぼやいてるけど。
爪切りしたり、シャンプーしたり、たまに耳掃除やバリカンで部分カットや歯磨きとか、私の方が嫌がることをたくさんしてる。
から、か。
頭は撫でさせてくれて、呼んだら目があうし、たまにこんなふうにトコトコ来てくれる。
けど。
「ここのおうちでよかった?」
って、ふと言葉がもれる。
幼い春馬によく思ってた感情かもしれない。私は母親だから、無条件に慕ってくれると思ってた。
竜生は実際そうだったけど、次男の春馬は、なにを考えてるのかわからない、そう悩んでたけど。
ほんとうに毎回びっくりするくらい、突拍子もないことをやる子だけど。
義父がなくなり笑顔がきえたあの子が、また少しずつ笑顔をみせだしたのは、真央ちゃんのおかげだと思ってたけど。
私の知らない世界をもう子供たちは生きていた。
勝手に育って巣立ってた。
と春馬に関しては思わなくもないけど。
ふわふわの毛をなでながら、春馬の髪の毛も少しくせっ毛で。
いくら言っても同じ服しか着なくて、毎日洗濯するけど汚れて、まだあの子の時代は、強制的な制服だったから、あのおかげで、違うものを着ることを覚えた。
いまは、もうかわいい孫娘たちのパパだ。
「ーそりゃあ、私も歳とるわよね。でもあなたまではきちんと看取るからね?」
柔らかな両耳の間を撫でられるのが大好きなブリーダー繁殖引退犬の頭をなでる。
抱っこはまだできない距離感だけど。
うれしそうに尻尾を振ってくれるから、
ーぐだぐだ悩んでもかしらね?
もううちの子だから。
いつか見送る為に、
「私も健康に気をつけないと」
夏休みには、この子目当てで孫娘が遊びにくる。
けど。
…不安な元気な孫娘。
よ、ね?