SS 花見
夜桜を見に行こう。
そう一時帰国した春馬くんの提案で、いつものメンバーで、私たちは近所の公園に行った。
今年は春一番もなく、福岡ては、節水を呼びかける車がまわっていたほど、雨が降らないから、桜はめずらしく入学式まで葉桜だけど持ちそうだ。
まだ長女の陽菜が生まれる前に、満開の桜の下で、優菜と再会した。
あの時、再会を喜んでくれた人たちは、たぶんもう…。だけど、
ね?
春馬くん。
たくさんの奇跡と笑顔があたたく、私と優菜の再会を見ていてくれた。
よかな?
よかったばいな?
逢えたばい。
ほんによかな?
逢えたとばいなあ。
あいつらにも、また見せたかったなあ。
逢いたかなあ。
ーただ、逢いたい。
そう切ない願いが、奇跡が、私たちをだけどね?
ー逢えたばいね?
ー逢えたとな?
ーよかなあ?
ー逢えたばいな?
ーほんに、よか。
ただ笑って祝福してくれたんだ。
戦争という私なんか全然想像もつかない時代を生きた、生き抜いた人たちが、ただ
ー逢いたい。
そう願うんだ。
やさしくて、くるしくて、絶望と、哀しみに、気が狂いそうな怒りに,ただ負けず、歩き続けてくれて、
ーね?
春馬くん。
いま、私は確実に次代にバトンタッチするけど、私は、あの人たちの優しさはわすれない。
マンションの上の上野さんが、今年は参加してくれて、私とふと目が合うと、
「ふふ。懐かしいわ。私もおばあちゃんとよくお花見していたのよ?コロナであんな最後になっちゃったけど、いまではコロナ禍もむかしに感じるわね?」
ってしみじみするのに、
「上のおばちゃんの、かしわおにぎりも、美味しいよ?」
って、真菜が無邪気に笑って、春馬くんまで、
「久しぶりの和食って感動だよなあ。東京の俺のメル友、福岡にかもーん?」
「もう寮母さんも高齢だよ?こんど、お弁当頼むね?」
「あれ?明日菜、やかないんだ?」
って、真央が意味深に笑うけど、
「私の東京のおばあちゃんだもん。褒められたら嬉しいし、寮母さんには、敵わないよ?上野さんのかしわご飯も美味しいもん」
子供達が生まれて、それなりに料理の腕はあがったとは、思うけど。いまだに、やっぱりまわりが素直に美味しいと思う。
そう言いながら、
ーきっと真央の手料理と比べられたら、ヤキモチかなあ?
デザートは、真央の実家の和菓子だけど、料理が苦手な真央作ではなく、イケメン先輩が南米料理を作り、春馬くんはなぞのレイボーアイスだけど、当然みんな食べない。
たまに鈴木兄が手を伸ばし、優菜やイケメン先輩から止められる。
そんなのどかな光景のなか、
「ねえ、凛?桜の木のしたには死体が埋まってるんだよ?」
って空ちゃんが、怖がりな凛ちゃんに言ったら、凛ちゃんが
「そんな都市伝説のらないよ?あっちの遊具であそぼう?真菜ちゃんたち」
って、怖い話が苦手な凛ちゃんが遊具に走り出し、凛ちゃん目当ての池家の息子もあとをおいかけた。
同然、真央の息子くん狙いの陽菜が行き、無邪気に真菜と池家の第二子が続く。
空ちゃんも駆けていき、春馬くんと真央が静かに桜をみあげた。
「ーまったくの都市伝説ってわけじゃないよなあ?」
ってつぶやく春馬くんは、少しだけ寂しそうで、私はつい手をつないた。
春馬くんがびっくりした顔なるけど、優しくわらってそのまま、つつみこむように、肩をだいてくれた。
最近なりをひそめてたあまい春馬くんに少しドキドキする。
いい年してなんだかなあ。だけど。
僻地で身体一本で頑張ってる春馬くんは少し痩せたけど、その分、筋肉質になってた。
少し土のにおいが漂うなかで、
「どうしたの?」
「うん、意外と桜がある場所って、遡ってくと鎮魂だったり、慰霊だったりするから、案外あってりよな?」
「けど、まあ、毎年、綺麗だねって笑顔にしてくれるよ?」
って真央もなにかを堪えるよに、ふりきるように笑って、そんな真央の肩を春馬くんみたいにイケメン先輩が抱こうとして、
「臭いです、先輩。いまは水のいらないペットシャンプーありますよ?」
「えー、村上くんの土産もだめか?」
「げっ、柴原。あれいちおう言ったよな?ペット用。犬猫だから、ゴリラに〜ピギャ!」
慌て春馬くんの足をスニーカーでふむ。
イケメンが苦笑してくれたけど。
ぼつりと、イケカマ係長さんが言った。
「ほんとうに、今年もきれいよね?」
って、優しい眼差しで微笑んで。
ね?
春馬くん。
少しずつだけど、こうやって、願いの種が新しい世界を彩るのかな?
「また来年も来ような?明日菜」
笑う春馬くんにキスしたくなったのは、陽菜や真菜には、内緒だ。