SS 春は…。
それは偶然だったと思う。
晴れて志望校に合格して、はじめての部活見学体験。
中学生までは、文化部にいたけど、ゆるめな同好会的な運動系もいいかなあ?とか思うなか、デザイン科やいろんな科学部とかもあるなか、ふと目をひいたのは、美術部。
美術だけでなく、技術も似たような部屋にあり、小学校にある図工教室みたいな感じだった。
「あら?見学?どうぞどうぞ?」
出入り口に立ってた先輩らしい人にいわれて、ちょっと焦って、
「あっ、いや不器用なんで」
ってスマホもったままで、手をブンブン横にふったら、
ースマホが飛んでしまった。
「危なっ!」
って私より先に長い手が伸びて、スマホを床につく前にキャッチしてくれた。
「あ、ありがとう」
ってお礼を言いながら手をだしたら、その子はじっとスマホの待ち受けをみて、
「…俺のウシガエル?」
ってつぶやいた。
「ーへっ?妹だけど」
たしかにお隣にすっかり馴染んだなぞのうし様と空がニコニコしてる待ち受けだけど。
チラッと春馬お兄ちゃんと明日菜お姉ちゃんの顔がよぎるけど、どっちも写ってないはず?
春馬お兄ちゃんはともかく、明日菜お姉ちゃんは黙秘って思ったんだけど。
「どう?うし様の足治りそう?」
って少し背がのびた空がじっと手元を見つめて、彼は、苦笑いをしていた。
ふだんふたりきりだと滅多に見れない貴重な笑顔を、私の彼氏は、私にでなく私の妹と彼氏にむけてる。
ふとあの時、スマホをあのタイミングで落とさなかったらどうなってたんだろ?
不思議な偶然と、タイミングと、縁が交差する春だね
って外からはいる暖かな空気に思ったんだ。