SS 風邪
「こんなところで、いつまでも寝てたら、風邪ひくよ? 村上?」
柴原から、揺り起こされた中3、放課後の教室。
みんな受験生で部活も引退してるし、柴原以外は帰ったみたいだ。
黄原も塾って言ってたな。将来なりたいものめざして、確実にそちら方面の学校に絞ってた。
田舎じゃ珍しいから、一芸が必要だとか、ないとか。
なんだ?一芸って。とも思うけど、黄原はいろんな趣味多いし、アニメにかける熱量すごいし。
いちおう俺も柴原に誘われて、教師からは、まあ?運次第か?って言われる学校を受験するには、頑張ってくけど。
「あれ?なんで、柴原が?」
べつに一緒に帰る約束とかないよな?たまに本屋や柴原に勉強教えてもらって、遅くなったら家まで送るけど。
「進路の確認だよ?まあ、おまえは大丈夫だろうけど、だって。村上こそ教室に残ってって珍しいね?」
「ああ、なんか野球部の後輩が、なんか教室にいて欲しいとか?なんたらかんたら?」
って言いながらくしゃみがでる。誰もいない教室は、寒い。
って思ったら、目のに缶のお汁粉がだされた。
ー冷えたやつ。
喉が心持ち痛い気もするし、よかったけど。頭も勉強していたからか重いし。
「ヴー」
声出そうとしたら、咳がでて、柴原が受験生のお友達、マスクをくれた。
個別ビニール包装のやつ。
「まわりに菌をふりまかないように」
「へーい、サンキュー」
って言いながら冷たいお汁粉の缶を額に当てる。冷たいから気持ちいいけど。
なんでお汁粉?
疑問に思ってると、柴原は呆れた顔で、俺の隣の席に座り、頬杖をついて、首を傾げる。
そういえば、たまにみる明日菜が雑誌でやってたかなあ?気になるあの子に、可愛いく?みたいな?
エア春馬くん(笑)
小さなハートマークと付箋に、ひとりで部屋でにやけて、たまたま夜食のおにぎり持ってきた母親から、すごい変な顔されたけど。
慌てて後ろ手でただのファッション誌を隠してさ?まあ、俺があの雑誌持ってるのも変じゃあるけど。
「春馬もお年頃なのね?真央ちゃんを襲うなら合意が必ずよ?無理矢理はだめよ?あと避妊もー」
「俺と柴原はそんなんじゃないから!」
なぜか最近は、お互いの家から付き合ってると思われてる俺たちだ。
もちろん、俺の恋人は明日菜なんだけどなあ。
いまじゃ雑誌モデルやいろんなドラマや映画でも見かけるように、なってきた。
「なんだ?」
じっと柴原が俺を見て、
「変わらないね?村上は」
って言いながら、前方の黒板を指差した。
うちの場合は、翌日の登板が日付かくからそのままで、日付は2月14日。
「あしたが15日かあ。はやいな?2月って。逃げるように去るだっけ?」
「逃げた猿捕獲って大変だよねー。それもあるけど、ホワイトデーよろしく」
「抹茶でいい?」
「アイスコーヒーかなあ?ちなみに、村上が寝てる間に、数人女の子が来て、私をみて、逃げるように去ってたよ?」
「野球部の後輩も?」
「うん、もういいってさ」
だから、帰ろうと柴原が席から立ち上がる。
なんの用事だったんだ?
って思いながら、立ち上がったとき、カバンからきれいにラッピングされた包装紙を柴原がさしだしてきた。
「好きだよ?春馬くん」
「気持ち悪いから、マネすんなよ。けど、サンキューな?」
俺の家だと家族の手前、恥ずかしいし、なんか足ついたら売り出し中の明日菜が、へんな噂に巻き込まれると困るって、マネージャーさんからの指示で、柴原経由で俺にプレゼントがくる。
そっか、バレンタインかあ。
暖かそうな手袋が入ってた。あと風邪ひかないように、ってますくとか。
明日菜は、芸能科がある高校がもう決まってるらしい。それこそ一芸入学か?
その日のスマホで、声がガラガラになった俺に、
「プレゼントした意味ない」
って、黒い瞳が怒りながらも心配そうに首を傾げて、上目遣いで、
ーめちゃくちゃ可愛い!
って、中3の俺はハイテンションで、
いらん風邪ひいた。
なんで残ってたんだかなあ?
「ーって、村上不思議がってたけど、すべて牽制しといたから」
春馬くんが風邪をひいてた理由を真央からきいた。
私は少し、
ー面白くない。
「ね?私の春馬くんだよ?」
「みんな、柴原真央の村上春馬ってなってるね?」
「…真央」
「あははは。大丈夫だって。私と村上は明日菜がいなきゃ成り立たないから」
「いなくても仲良すぎ!」
「村上に他に友人が黄原くらいしかいないから、私が目立つだけだよ?明日菜で注目あびて、もともと顔は良かったし、成績ものびて、身長ものびて、野球引退したから、髪型もかわり。って、モテ要素たくさんかな?」
「みんな春馬くん、知らなかったくせに」
私だって帰るたび、スマホむるたび、少しどきどきするけど、スマホの画面に映る親友は、芸能人にいてもおかしくない美少女だし。
モヤモヤしちゃうけど。
「大丈夫だって。村上に明日菜と同じポーズしたけど、まったく反応なかったしね?明日菜には、デレたんでしょ?」
って真央が笑う。たしかに?
ーさっきの春馬くんは、可愛かった。
って、つい私も笑った。