SS シングル
薄暗いあかりに灯された寝室で、ベッドの上で明日菜を抱き寄せる。
まだ俺の部屋にあるベッドはシングルサイズで、俺は寝相が悪くないけど、手狭感はあるけど、明日菜はくっついて寝れるから?らしい。
ー広々寝た方がよくね?
ただでさえ、仕事を再開した明日菜は、東京ー福岡をいったりきたりで、デミオとかのひとりや知った人だけの空間での移動は、俺は苦にならないけど、飛行機やバス、電車とか苦痛だけど、明日菜はイヤホンつけてるし、平気らしい。
まあ、東京暮らしがながいよなあ?明日菜って。
田舎と違って電車文化かしいし。いまでも東京には近づかない俺だ。
…自国の首都に行きたくない俺だ。
まあ、行かなくても生活できるしなあ。じゃあ、なんのために首都なの?って空ちゃんに言われたような?
なんてこたえたかなあ?必要はきちんとあるって説明したような?
ー萌えちゃんが。
…俺の大学、いちおう頭いいはずだけど?
「…春馬くん?」
重ねてた唇がはなれて、すこし潤んだ明日菜のきれいな瞳が俺をみつめる。
不安そうなその瞳に軽くキスをする。
「嫌なら、やめる。こわい?」
もう俺は明日菜のシャンプーの匂いをおぼえた。明日菜のシャンプーは、
ーくさくない。
たまに明日菜がシャンプー変えたら、つい顔に出る俺だ。
明日菜にそんな反応するの村上くんだけよ?って加納さんからため息つかれて、明日菜が気にするからやめるように、注意されてから、俺も注意はするけど。
嫌な香りに対して、少しくらい反応するのは、しょうがなくね?明日菜めちゃくちゃ俺の変化に気づくし。
ー18歳のガキだった俺がやらかしたから。
明日菜が恋愛ドラマや少女漫画のヒロイン役が増えていった頃、明日菜はキスシーンだけじゃなく、うなじなんかにキスマークが残ってた。
明日菜は知らないうちに、もうスイッチがはいるし、明日菜のしろい肌はすぐに跡が残ってて、化粧を落とした風呂上がりの明日菜とカメラで通話してたら、見えてしまう。
ー仕事だし?って思いながらも、次からまた明日菜からの連絡をスルーして、柴原にヒールで蹴り飛ばされるんだ。
いつだって前歯で下唇をかんで、血が滲んで、その血の匂いにバカみたいに自己憐憫してさ?バカみたい悲劇のヒーローぶってさ?
ー悪いのは俺じゃない。
明日菜だってスネまくり、けど明日菜から離れた場所で、バレない浮気をするなんてできなくて、明日菜しかいないし、なにより明日菜が望んだ仕事じゃなかった、は、わかってた。
いまは明日菜から事情もきいてるけど、あの時の俺には、まわりで広がる情報ばかりが、バカみたいに鈴木さんをそう吊し上げしたメディアだけでなく、一般のSNSが、すべてでさ。
いま思えば、いつだって、明日菜からきけたはずで、誰よりリアルをきけたのに。
すごい勢いでなにもかもが、ながれていき、文字通り情報は金になる。でっちあげたら金になる。
ー金さえ稼げば、どうでもよくなる。
僻遠したんだ。俺や柴原はまだ、
ーまわりにあわせる。
それを徹底的に矯正された。いまでも似たような社会だろう。子供時代はいいけど、社会的な生活を送れるかは、わからない。
ただそのあとのコロナや萌ちゃんが静かに夜空をみあげていて、負けない無邪気な空ちゃんに、俺の荒んだなにかは、錆びついたペダルは、またまわりだした。
まわりながら、けど、身勝手な俺はガキのままで、結局は、身勝手なガキのままで、
ー明日菜を手放さなかった。
俺の真下に、すぐ近くにいる明日菜をじっと見つめる。
いや?まてよ?このまま襲ってもよくね?夫婦だし?
ーイケメン先輩、よく耐えたな?
野生じゃないしな?あの人。
だけどジャングルでも柴原追いかけていきそうだけど。
「なあ?明日菜、、、。柴原のモンキーハンティングから、イケメン先輩逃れられるのかなあ?」
相変わらずお口がアイスクリームな俺だ。
こっぴどく明日菜から怒られて、けど、
「もう、やっぱり春馬くんだね?」
ってあまいキスをくれたんだ。