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第6話 彼氏と彼女の寝顔


俺は、自分自身で浮かんだ考えに戸惑いつつ、冷蔵庫からミネラルウォターをとりだして、一気にに喉を潤した。


さっき、明日菜にシャンプーしてもらった時に、散々飲まされた水なのに、喉がカラカラに、乾いている気がして。


ーまるで、いつも水をもとめてる魚みたいに、飲み干した。


そういや、明日菜のプロフィールを、さっき試しに言わされた時、嫌いな食べ物は、釣りで釣れる魚ってなってたなあ。


完全に、俺が明日菜に、いつも写メする魚のせいだよな?


だいたいスーパーで売ってる魚って、切り身とか刺身の状態で、サンマやタイとかスター級の人気がないと、一匹で売ってないし?


アコウはともかく、アナハゼなんか地元の魚市でもみないし。


でもインパクトは、負けてないだろ?


絶対、一度見たら、忘れられないだろ?


ーあんなイケメンだらけのタイやヒラメや本マグロにも、負けないだろ?


見た目はともかく、味は絶対に、負けてない自信はあるー。


「…わけない、よなあ?」


コップを流しにおくと、俺はベットを背に、さっきのトイレの時みたいに、ずるずると力なく、座り込んでしまった。


行儀悪く組んだ膝に、頬杖をついて、床の布団で眠る明日菜の寝顔を、みつめる。


もちろん、俺には画面ごしにみなれた明日菜の寝顔だ。


忙しい明日菜は、俺と会話しながら、寝てしまうことが、わりとある。


だけど、いま、俺たちの間には、スクリーンもスマホの強化ガラスもなくて、


ー俺の前に、明日菜がいる。


小さな寝息すら、きこえてしまいそうなくらい、静まり返った深夜のファミリー物件の築10年のマンションに、


ー若手人気No. 1女優の神城明日菜がいる。


「なんの冗談だよ?」


思わずつぶやいて、苦笑した。


「なんの冗談だよ?」


だって、その言葉は、


ー俺がはじめて明日菜を見た時に、思った事だったから。


ー中1の真冬のグランドで。


ー寒さに手が凍えるのを我慢して、やっていた素振りの練習で、


ーちっぽけな豆粒みたいに、見えた屋上の人影。


ー異世界代表みたいな、


ー神城明日菜。


「ほんと、冗談みたいだよな」


あの時には、もう惹かれていた。


あの時には、もう守りたいって、走っていた。


でも、俺の頭の中は、いつだって、冷静で、


「-ブレーキが利きすぎるんだよ」


整備したての車みたいに。


俺が確かに、はじめて直接であった異世界人は、柴原だけど。


「知ってるか?俺は柴原に会う前から、明日菜を見つけたんだ。明日菜を見つけたから、柴原にであっんだ」


これが恋なら、明日菜が天使の羽で空を飛び、辺りかまわず矢を放つ、悪戯好きなベビー様って、とこだろうけど、さ。


「明日菜は疑うけど、俺と柴原は、本当に、ありえねーからな?」


なにしろ、俺と柴原がであったきっかけは、明日菜なんだから。


俺と柴原が特別な関係でいられるのは、間に明日菜っていう共通の宝物が、存在するからた。


エギングやルアーでのPEラインとリーダーみたいに、明日菜というノット(ラインとラインを結ぶ方法)を、間違えば簡単に切れてしまう関係性でもあり、ノットさえ強固にできれば、腕次第で、でかい魚も釣りあげられる。


結局は、明日菜がいるから、成り立っている関係性。


ようは、明日菜がいない時に、俺の子守りをしてくれているのが、柴原なんだけど。


ー子守りをさせてる俺って、どうよ?


とは、思うけどさ。


「・・・俺にだって、人並みに青春をおくれるチャンスは、あったんだよなあ。知ってるか?俺にだって、思春期は存在するんだぞ?とくに大学時代なんて、なんの枷もなく、教師の目もなくて、遊び放題だぞ?俺の大学は頭よかったし」


頭のいい大学に通っているって、だけで、わりとモテるんだ。


「俺の彼女は神城明日菜だって、言い張っても、誰も信じてくれないし?先輩からは、女を紹介するからとか、学生時代は告白だって、されたぞ?俺だって、モテるんだ」


まあ、モテる質が違うかもしれないけど。


だって、いまは、すっかり隣の轟木姉妹に、大人気の俺だし?


大学時代の合コンで、ノリで付き合ってたやつで、いまも続いているやつは、あんまり知らないし?


いや、いるにはいるけど、就職で遠恋なったから、最近微妙だって言っているけど。


俺にアドバイスくれって、言われたってさあ?


「大人気女優の神城明日菜と、遠距離恋愛でつきあって、10年目になります。修学旅行で、学校イチ可愛い子が、スカウトされたら、告白されて、そのときには、もう遠距離ところか、3か月限定で、別れるはずの彼氏でした」


声に出してみた。


「…つっこみどころが、満載だな?」


笑うに、笑えねー。


「…明日菜、すごいな」


わりと真面目に呟いたら、


「ー春馬くんの方がすごいと思う」


って、明日菜が目をあけて、俺をみた。


あの冬の屋上のように、泣きそうな、でも、くやしそうな顔で、


ー俺をみていた。



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