表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/652

第5話 彼氏と彼女とアナハゼ。※両生類苦手な方はご注意下さい。


ー考えてもわからないものは、わからない。


しばらく俺が洗濯機とにらめっこした後の結論だ。


にらめっこといえば、知ってるか?


俺の南九州の片田舎には、田んぼがあるけれど、ザリガニやオタマジャクシやら、まあ水中生物の宝庫なわけだ。


当然、田んぼに入ると稲を倒すため、学校や親から、注意をうけて育つ。


ーまあ、農家さんの苦労をぶち壊しているんだから、当たり前で、その苦労を無表情に、淡々と説明された時は、怖かった。


ーで、洗濯機とにらめっこをしていたら、俺の場合、なぜかウシガエルとにらめっこをした小4の夏休みを、思い出してしまった。


夏休みに、遊びにいった親戚の家は、俺がすむ地域より、もっと自然豊かで、家のとなりにも田んぼがあった。


カエルの声で、マジで眠れないような環境だった。


でも小4の俺は、カエルも大好きな元気な田舎の子供だ。


ーが。


俺は、ヤツと、であってしまった。


でっかい20センチくらいのウシ様に。


いやあ、小4まで、あんなにでかいの見たことなくて、つい目があっちゃったんだよなあ。


知ってるか?


あいつら目をそらさないし、無表情に瞬きだけしてさ。


たまに大きな喉が呼吸のために、動くんだけど、基本的には、無表情なんだ。


俺と目かあったやつは、昼間だからか鳴きもしなかったし。


最初は面白くて、斑点の数とか数えていたんだけど、


―結果は、俺の惨敗だった。


30分で、ギブアップ。


それ以来俺は、カエルが大の苦手になって、なんで川釣りをしたのかと問われれば、


ー川には、カエルがいるから。


ただそれだけ、なんだよなあ。


しかもブラックバスとかだと、カエルのルアーとかあるし?


もしカエルがつれたらと思うとぞっとする。


ちなみに海でも、ときどきアナハゼか釣れるが、俺が唯一、毎回釣っては、びびってる魚だ。


ただのハゼだとおもうだろ?


ところがどっこい。


こいつの色は、一見すると褐色なんだが、ルアーのフックを外そうとしたら、マジでひびるくらい口の中が青い。


というか不気味なあおみどり?


ウシ様にちかい色なんだよな、これが。


口もでかくて、カエルを連想するから、マジで釣りたくないんだけど、こいつも獰猛な食い意地の汚い魚で、わりとよくヒットしている。


ちなみに、身も骨も青い珍しい魚だ。


俺はリリースしようとしたが、先輩が刺身がうまいと、持って帰って一度だけ、食ったことがある。


・・・たしかにうまかった。


もちろん、ソーダ―味でも、ラムネ味でも、チューイングガム味でもない。


釣りたての新鮮な刺身のうまさがある。


でもなんで青色って、食欲がわかないんだろうなあ。


さすがに、明日菜に画像も実物も見せたことはないけど。


火を通せば、白くなるらしいけど、そこまでして食べたくない。


俺だって、苦手な魚は、存在する。


ちなみにこのアナハゼは、表面にかなりぬめりがあるので(そこもカエルみたい)調理前に塩水でよく洗うことをお勧めする。


俺が食べた刺身は、コリコリと弾力があって、甘くて大変に美味だった。


ただ、どうしてもカエルを思い出すから、毎回ずっとリリースだけど。


アコウも表面は、ぬるぬるしては、いるけど、カエル顔じゃないしな。


って、現実逃避しながら、俺は洗濯機とにらめっこしていたけど。


―結論。


明日菜にきこう。


だって、考えてもわからないし?


どうせ、もう深夜だから洗濯するの朝になるし?


俺はパジャマがわりにしているTシャツと短パンをはいて、脱衣所をでた。


一応、明日菜に気をつかって、海水パンツとパンツは、真新しい洗濯ネットに入れたけど。


だって、俺のパンツを洗った洗濯ネットで、凜ちゃんたちの座布団カバーを洗濯するのも、なんかきがひけるし。


「明日菜も、なんでわざわざこんな目立つ形で、洗濯機にいれるんだよ」


つい、愚痴がでた。


こういうシーンは、見たことがないから、対応に、ちょっと戸惑う。


俺がずっと、画面ごしにみていた明日菜と、生の明日菜の違い。


どっちも明日菜のはず、なんだけど。


ーなにか、が違う。


遠恋で、しかもコロナで2年近く会えなくて。


でも、スマホの画面ごしに会話していたのに。


明日菜をみていたはずなのに。


ーなんで、俺はいまこんなに、戸惑っているんだろう?


ーなんで、明日菜の望み通りに、行動できないんだろう?


馬鹿な嫉妬を抱えきれずに、トイレで号泣してしまうくらい、


ー俺は、明日菜が好きだ。


それだけは、間違いないのに。


つい癖で、前歯で下唇を噛みそうになって、


ーダメだよ、春馬くん。


明日菜の言葉が頭によみがえる。


かわりに、俺はぐっとこぶしを握り締めた。


ー今度から、爪切りをこまめにしないとな。


きっと、俺はふがいなさに、今度は拳を握りしめすぎて、爪でけがをしてしまうだろう。


明日菜を悲しませたくないのに。


思わず大きなため息がでた。


「ほんと、情けないよな?俺」


こんなんで、明日菜に釣り合う大人の男になれる日が、いつかは、来るんだろうか。


あの冬の日に、初めて遠目に明日菜を見た時から、強く感じた想い。


ー絶対に、守りたい。


―俺が、幸せにしたい。


ーいや、俺じゃなくても、明日菜が笑ってくれるなら・・・。


「えっ?」


ー俺は、いま何を考えた?


唖然とした俺の視界の片隅に、俺のベッド脇に、新品の布団を敷いて、眠ってる明日菜がいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ