SS 九州道は悶々と
じいちゃんの13回忌があった。
久しぶりに南九州の片田舎へとデミオを走らせる。クルーズコントロールの使い方がわからない俺は、相変わらずデミオのクラッチを踏んでは、ギアを4–6の間で、ガコガコやってる。
久留米インターまでは、九州道は3車線で交通量も多いし、福岡の中心部につながる上の太宰府インター付近はよく渋滞してる。
鳥栖ジャンクションは、大分、長崎に分岐するから、また上りだと交通量が一気に増える。
ただ下りだと、南九州に近づくにつれてどんどん車数は減っていくし、熊本のある地域は、道がきれいだ。
「…震災あとだよね?」
「うん、一時期は高速からでもブルーシートの屋根がよくみえていたよ?」
そう、とだけ返事が返ってきた。南九州では桜島の火山灰がたまーに風にのって、洗濯物をグレイにそめる。
母さんがそのたびに、ぶつぶついいながら、また洗うけど、最近は兄貴が乾燥機つきの洗濯機をプレゼントしたらしい。
ー教えてくれたら、半額だしたのに。
って内心で思ったら、
ーおまえはこれから色々物入りだろ?独身の俺にとりあえず任せな?
って相変わらず、兄貴は兄貴だ。やることいちいちかっこいいし、一生俺は兄貴と柴原とイケメン先輩とイケカマ係長と、加納さんと寮母さんとー。
あれ?敵わない相手が多すぎやしないか?俺よ?
デミオのハンドル握る手が、じんわり汗かく。
凛ちゃんにまで負けてる気がする俺ってどうよ?
とりあえずブラックコーヒーをホルダーから手にとり、ストレートに入ったタイミングで飲む。
たまにデミオのギアがガクンとギアチェンジしてる。
高速道路でもあまり使わないんだよなあ6速ギア。
わりと山道多いから、5速で走ってる。一般道ではほとんど使わない運転の俺だ。
たまにしか使わないくせに、きちんとギアにはいるのは、定期点検のおかげだろう。
「もうすぐ、名物トンネルラッシュだけど、サービスエリアによるか?」
「春馬くんのタイミングでいいよ?」
「なら、調子いいし、このまま走っていい?」
「うん
「そういえば、兄貴が朝陽さんも参加するって言ってたな?」
「そうだね?なんか私より春馬くんのお母さんと遊びに行ってるみたい」
声に少しだけすねた感があるのが、明日菜らしい。
「竜生お義兄さんによく誘われてるみたい」
「兄貴が地元の市役所の採用試験受けた時は驚いたよなあ」
つい先日、東京のメーカーをやめて、地元の市役所の採用試験に合格した兄貴だ。
公務員だけど、田舎だから物価は東京ほどじゃないけど、給料はだいぶ下がったらしい。
兄貴は出世コースにストレートインだと思ってたら、まさかのカーブ?
ナックルか?
いや、兄貴はサッカーだしなあ?
くだらないことを考えながら、チラッと明日菜をみるて、懐かしそうに窓の外をみていた。
「車で故郷帰るのって不思議だね?子供の頃はさ、旅行や遊びに行った時は、ああ、楽しい時間が終わるって思う道が、わくわくに変わるなんて、不思議だよね?」
…その分、帰りの寂しさはあるけど。
ってきれいな黒い瞳に郷愁があるけど、
ーいま、手が離せないな?
明日菜の頭を撫でたいけど。
反則なくらい、俺の奥さん可愛すぎない⁈
俺は悶々としながら、真面目にハンドルを両手で持ってた。
トンネルラッシュに備えて。
明日菜が可愛すぎてつらい。