SS 大人版 春馬 冬 夜空
吐き出す息がしろくなり、デミオから降りた俺は小さくため息をついた。
マンションから少しはなれた砂利のやすい駐車場。足元がひんやりする寒い季節になった。
九州だけど、都心から離れたこの場所は、ふつうにさむい。
雪だってつもる。わりとでかい雪だるまが作れる。去年、空ちゃんとでっかい雪だるまを作った。
雪国と違って、すぐに土がでるから、真っ白じゃない雪だるまだけど。
冬の夜空は空気がすんでいて、今夜はきれいな星空がみえる。
ーあの日から、明日菜は俺を忘れたままだ。
「いいよ?それが明日菜ののぞみなら」
つらいなら、逃げちゃえよ?俺がずーっとそのつらさに、責任とるから。
代わりに苦しんでやるよ?
たくさんの優しさと痛みをきみがくれたから、明日菜がくれたから、だから…。
ぎゅっと前歯で下唇をかみしめる。
血の味がする。
だけど、生きてるから、血の味がする。
南九州の片田舎から、古びたミザールで夜空を見上げても、架台が古くなってなかなか目当て星には辿りつかないけど。
100きんでつくったチップスタ◯の手作り望遠鏡は、ミザールほど月のクレーターをはっきり見れないけど、小さな星あかりを見つけられたんだ。
ーほら、春馬?世界はたくさん光があるぞ?見えないだけで、たくさん輝いてる。
笑うじいちゃんの声が久しぶりにきこえた気がする。
なあ?じいちゃん。
あの日、青空に願ったみたいに、
ー今日の福岡は晴天だった。
たくさんの光が、だけど寒くて、かなしくて、けど、小さな瞬きすら、
いまの俺には希望になる。
ー東京じゃ、夜空がわからないよ?
泣いた13歳の明日菜になにもできなかった。いまの俺も泣かせてばかりだ。
だけど。
ーきっと、いま夜空に100きんの手作り望遠鏡をかざせば、
儚い瞬きだって、
ーみつけてやる。
また輝かせてやる。今度こそ、俺が絶対に、
「…守りたい、って願うくらいいいよな?」
吐く息があの日の煙みたいに、しろかった。




