SS うま
「春馬くん、まだ寝ないの?」
私は春馬くんの部屋に向かって問いかける。最近、春馬くんは、お風呂入って、食事を終えたら、部屋に入ってしまう。
ドアは開けてるけど、リビングに姿は、なくなってる。
私のことは、気にかけてるけど、さすがに私も春馬くんにひとりの時間が必要なことくらいわかってる。
もともと、春馬くんも真央もひとりきりの時間が必要だと、私もイケメン先輩も理解してる。
赤ちゃんが産まれてきたら、イケメン先輩みたいな余裕は私には、なくなるだろうけど。
その辺はイケメン先輩や真央がうまくサポートしてくれるみたいだから、いいけど。
千夏さんや、純子さんもはりきってくれてる。
ー春馬お兄ちゃんは、私たちに任せてね?
って、萌ちゃんからも言われて、私は少し複雑なんだけど。
私と春馬くんって、どうみえてるのかなあ?
ー明日菜は、世間知らずだからね。
って真央が苦笑する。たしかに、私は13歳で親元を離れて、限られた世界でしか仕事をしてない。
世間では、私のことを知ってるけど、私は私を知ってる人を全員は、知らないし、わからない。
それくらい世間知らずな自覚は、いちおうあるし、ある意味で私には保護者がたくさんいる。
たくさんの人たちの優しさが、私や春馬くんを支えてくれて、いまがある。
し、春馬くんや真央がかかえる本人たちには、いらないギフトの辛さもなんとなくわかってきた。
苦手なことや、好きなこともわかってきて、できる範囲で見守ってる。
春馬くんが、優しく私を忍耐強く待って守ってくれたように、いま、私は少しずつ春馬くんの世界を知っていくけど。
イケメン先輩と私は、たまにお互いに相談したりする。
どうやったら伝えやすいか?とかを相談してる。イケメン先輩は年齢分の余裕があるけど、私と春馬くんは同級生だから、たまに喧嘩には、
ーならない。
私が怒っても春馬くんには、通じないことが多い。
というか、であった時から、わりとそうな気もする。
ね?
春馬くん?
まさか、赤ちゃんとまで、あいうえお作文しないよね?
ーやりそう。
私は、その想像にあきれて、クスクス笑ってしまうんだよ?
そっと春馬くんの部屋をのぞいたら、春馬くんが最近ずーっと夢中になってる馬のウッドパズルがある。
ずーっと繰り返し分解してる。
ね?
春馬くん。
「ーまだあきらめてないの?イケメン先輩は、部品を変えたら上手くできるって、教えてくれたんでしょ?」
「けど、柴原はそのまま作ったぞ?歩いても、数歩単位だけど。動画は編集入ってるし、もともと数歩って説明だし?けど、その数歩すら動かないって、悔しいだろ?」
って、最近よくみせる悔しそうな顔してる。
ーあのトイレみたいに泣いてるわけじゃないから、いいけど。
春馬くんは、私が春馬くんを忘れてしまった時、春馬くんだけを忘れたことに、ほっとして泣いたらしい。
ー俺は、まだ明日菜の特別だ。
そう泣いたらしい。
でも私を強引にまたリアルに引き戻してから、泣くことが多いのは、弱さをみせてしまうのは、いつだって私のほうだよ?
ね?
春馬くん。
いつだって、春馬くんは私にはあまり感情をぶつけてこないよね?
というか、真央も春馬くんも、
ー他人は、違う考えをする。
そうあきらめた顔をしてることが多いし、実際に会話してても、なんで⁈
っなるけど。だからかなあ?
ね?
春馬くん。
私はめずらしく素直に感情をみせる春馬くんに、うれしくなっちゃうんだよ?
「真央に負けてくやしいの?」
「いや、柴原に勝ってもルービックキューブの延長だしなあ?というかウッドパズル自体が材料決まってるだろ?ってことは、そこ自体がパズルだろ?」
「…よくわからないよ?」
「だから、パーツかえたら、パズルじゃなくなる。一回は完成させて、動きをみたいじゃん?だって、それが制作者からの挑戦状じゃん?」
…パズルって制作者との勝ち負けなの?
私はあきれて春馬くんをみる。
私は動かないなら、違う方法を探した方が早い気もするけど?
「だってせっかくいろんなエレキットがあるなか、ウッドパズルだぞ?なぞに輪ゴム動力で馬解剖して、メカニズムだぞ?なんでウシ様じゃないのかって、柴原に言ったら寒いからいないんじゃないかって言われたけど。いるのかは、俺も柴原も調べてないんだなあ」
「…春馬くん、すっかりウシガエルマニアだね?」
ね?
春馬くん。
めちゃくちゃ嫌な顔して、
「俺、カエルすごく苦手なんだけど?」
そう言うくせに、ウシ様をとても大切にしてる春馬くんだ。
「まあ、外来種だし、駆除されるのは、わかるけど。そういえば空ちゃんに山に近づかないように念押さないとなあ」
「ああ、最近、福岡は猿が子供達を襲ってるね。すぐ逃げちゃうし、小さな子をターゲットにしてる野生猿だから怖いよね」
「女性も襲われてるから、明日菜も注意しないとダメだぞ?なんで襲うんだろな。はぐれザルだろうけど」
餌をあさるわけでもなく、子供達を襲う。なにがあったのかな?とも思うけど。
ふと東京にいる野良猫みたいな後輩を思い出したけど。
そういえば今度福岡にライブで遊びに来るって言ってたなあ。
来るまで楽しみって春馬くんに、言ったら、
ー車で楽しみ?ドライブか?
ってキョトンとしてた。
ね?
春馬くん。
そこでくぎるのは、あってるけど、変換が違うよ?
ってあきれたんだ。
たまに真央もあるけど。不思議な変換をするけど、対応にさすがに私も慣れてきた。
「ウッドパズルに猿がいたら大変そうだね?」
「馬ですらできないのに?まあ、いいや。また明日だな?」
「もういいの?」
「うん。さすがに夜は一緒に寝るよ?なんかあったら、すぐ頭動くように寝れるなら。眠るよ。パズルより明日菜の方が優先」
ね?
春馬くん。
甘いセリフに最近なれてきたから、わかるよ?
「ー本音は?」
「さっぱりわからないから、また明日?終わるきっかけくれて、ありがとうな?明日菜」
って、私の髪を撫でようとして、手がワックスで汚れてるのに気づいてビタってとまる、
私はクスクス笑って、かたまった春馬くんの頬に背伸びして軽く唇で触れた。
「じゃあ、先にベッドにいくね?」
「あれ?明日菜、歯磨き粉変えた?」
私からのキスを相変わらず、変な変換してくる。
ね?
春馬くん。
「春馬くんの好きなレインボーじゃないよ?」
とだけ答えとくよ?
私の旦那様は、相変わらず、斜め上どころか、全方位に、よくわからない。
方位磁石みたいにぐるぐるまわる。
私をひきつけてやまない、私の人生のコンパスだね?
ってあきれながら、笑ってた。