表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

464/652

春馬 ラッシー


「ただいま、ラッシー」


俺がリードを手にしていうと、ラッシーは、いつものように、


ーわふっ!


と吠えた。尻尾をブンブンふりながら、頭を撫でろと鼻をこすりつけてくる。


とりあえず頭をなでながら、


「ブラッシングは、散歩の後でな?」


汚れるし。リードをつけると、グイグイ引っ張ってく。小さな頃はされるがまま引っ張られていたけど、いまは、さすがに、コントロールする。


この間のクロックスはべつだけど。


ー間に合ったのかな?


また神城の顔が頭をかすめる、少し不安そうな顔が。ラッシーと走っていける距離じゃないよな?


ー東京。


自転車なら、いつかはつくだろうけど。いや、歩いてでも、いつかはつくだろうけど。


ーきっと、間に合わない。


あの真冬の屋上に間にあえたのは、柴原のおかげだし。


ー魔に会えたの、か?


いや、魔がさしたのか?


だよなあ。


あいうえお作文やってたら、親父ギャグしか思いつかなくね?


じいまちゃんもたまに、ダジャレ言ってたけど、神城との会話に、


ーあいうえお作文。


あれ、親父ギャグ炸裂じゃね?


神城の父親って、親父ギャグだらけなのか?だから、あのあいうえお作文で、なんとかなるのか?


ーいや、絶対に、あいうえお作文はやんないよな?


変なやつだよなあ?


神城明日菜。


「なあ?ラッシー?おまえに、へんな飴くれた異世界代表を覚えてるか?」


リード分、前を歩くラッシーに呼びかけてみるけど、ラッシーは、無視して草のにおいをかいでる。


そういえば、じぃちゃんと散歩してたら、よく笹舟や草笛を作ったり、ふいたりしてくれた。


なんにもない散歩みちが、宝島みたいになった。たくさんの遊びのなかには、爆発系もあったから、


異世界人が大爆発してたな?じぃちゃんは、こってりカラカラの雑巾になるまで、しぼられていた、らしい。


ー親父に。


「息子がひどいんじゃ、春馬」


「息子の息子に何吹きこんでんだ?竹を焚き火したらどうなるかわかるだろ!」


ちなみに弾ける場合がある、わりと注意だ。


竹とんぼや竹馬なんかをじぃちゃんは、作ってくれた。たくさんの遊びをしながら、夕方に遠くに見える山の間に太陽が沈む頃、


ーほら、春馬、ゼロが始まるよ?


ーどうして?太陽が沈むなら、終わりじゃないの?


ー夜の星が輝くよ?たくさん星座が星空に神話をえがいていく、始まりのゼロだよ?


たくさんの神話は、昔からあるんだ。


ーかつては日本からも南十字星が見えたとかなんたら、言ってたような?


って首を傾げていたじいちゃんは、少し切なそうな、痛みと優しい目をしていたから、


ーああ、ばあちゃんの言葉?だったけど。


いまごろ、もし、あの世とかあるなら、ばあちゃんと、あってるのかな?


「逢えるといいよな?」


死ぬ瞬間まで、あいたい、ただそれだけを願ってた人たちと、


ー逢えただろうか?


まあ、俺には、そんなふうに逢いたいと思える相手がいないけど。


じいちゃんとは、まだ逢いたくない。まだラッシーといたいし、ラッシー目の前にいるし?


ー神城は、東京にいくし?


「…東京だってさ?ラッシー」


南九州の片田舎から、みたら、ものすごい大都会だよなあ。


たまにテレビに映される夜空いっぱいに見える夜景に、唖然とする。


昼間より迫力がますのは、あかるいからか?カラフルだからか?


ー星が見えないからか?


えっ?見えないのか?


「だいじょうぶかな?神城」


短気だけど、家族仲はよさげだし?環境ちがくね?


ーけど、あの真冬の屋上が真夏になったら、アウトだぞ?


ヒヤリってする。


「そうだよ?これで、いいんだ」


俺は前歯で下唇を噛む。血の味がしたけど、痛いけど、


…こうするしかない。


だって、俺はただのガキだから。


ぎゅっとラッシーのリードをにぎりしめた。


あんな神城は、もう見たくない。


なら、手を放すしか、ないだろう?


俺に守れないなら、


ーたくすよ?


私なら守れる!


そう言ったあの人に、大人に、ただ守ってくれるなら、神城が笑ってくれるなら、


ーどこにいてもいいはず、だ。


って思うけど、血の味がしたんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ