序章 彼氏と、彼女の、これからはじまるストーリー。
俺の返事をきいて、でも呆れたように、明日菜が笑って、きれいな瞳を閉じてくれる。
理想の身長差には、1センチ足りない俺たち。
けど、いま俺は右手で、明日菜のやわらかな頬に、触れる。
そういえば、こんなふうに、明日菜に触るのは、はじめてだ。
そう思うと、俺の手がわずかに、震える。
いや、マジで、明日菜って、すごくないか?
明日菜に、いままでキスしていた男らを、いまの俺なら、めちゃくちゃリスペクトするぞ?
ーもう癖なんだろうな?
明日菜は、完璧に絵になる角度で、俺をみあげてる。
風呂で、化粧は落としているはずなのに、めちゃくちゃきれいだ。
どうして、明日菜もアイツらも、なんなら柴原も、イケメン先輩ーは、俺の立場か?
先輩以外のやつら、すごいな。
何度だって、イメージしてた。
いつだって、柴原にビールの踵で脛をけられながら、必死に、目に焼きつけていたのに。
いざってなるとー。
やばい。
足まで震えてきた。
マジか?俺。
ゴクリと喉がなる。絶対に明日菜に、聞こえたよな?
ええっと、キスって、こんなに難しいの?
えっ?
だって、さっき明日菜が、たくさんしてくれたよな?
なんか背中に、冷たい汗が流れてきたんですけど⁉︎
さっきのトイレに、いますぐに駆け込みたくなって、きたんですけど?
ーマジかよ?
明日菜の頬に触れていた手が、力なくズルって、下に落ちた。
「春馬くん?」
明日菜が戸惑って、閉じていたキレイな目をあけた。
きれいな黒い瞳で、じっと、俺を見つめている。
やばい、よな?
「い、いや」
なんて言えば、いい?
口ごもる俺に、明日菜が首を傾げる。
「あの、さ」
「なあに?」
優しく笑う明日菜は、べつに気にしてないみたいだけど。
その瞳に、しっかり映る、泣きそうな情けない顔の俺。
ー村上春馬。22歳。
いまだ未経験。
生まれて、はじめての彼女、神城明日菜と遠恋10年目。
コロナのおかげで、2年ぶりにあって、トイレに、泣きながら立てこもり、
いまから、「経験」する予定。
ー大人気女優、神城明日菜のはじめて、を奪うはずの俺、
村上春馬。22歳。
未経験どころか、ちょっと待ってくれ!
「どうしたの?」
「いや、あの、トイレ?」
「いきたいの?」
「へっ?いきたいの?」
「へっ?」
「屁?」
「もう!さすがに、それはないよ。もうっ、ほんとに、ムードないなあ」
「だから、俺に、ムードなんて、裏技をもとめられても」
「知ってるよ。春馬くんだし?そもそもムードが裏技って、なによ?…あってる気もするけど」
あきれた顔でそう言うと、明日菜が笑って、ぎゅと抱きついてくる。
「なんで、そんな嬉しそうなんだ?」
「私で、緊張してる春馬くんが、かわいいから」
ー俺の彼女、可愛すぎない?
押し倒していい?
ー押し倒せるの?俺?
村上春馬。22歳。
なんだか、人生で最大のピンチみたいです?
ブックマーク、評価、ありがとうございます。
そして、誤字脱字、ほんとうに、すいません。ありがとうございます。
なんども読み返してるんですが、自分だと書いてる本人だからか、本気で気づけません。
ほんとうに、すいません。そして、ありがとうございます。