中学編 続き 真央
私は黄原に笑ってバイバイして帰路につく。ふと、私と黄原を遠目にみてる赤木が一瞬視界に入るけど。
ーそういえば、つい昨日まで隣にいたんだよね?
赤木は慌てたように私から目を逸らした。私も遅れて前をむく。
入部してから、なんとなく赤木の視線をいつも感じていたけど。
ーしばらくはあるのかなあ?
ふと脳裏にさっき見た光景を思い出した。初々しいとすら言えない不思議なカップルの姿。
私と赤木は、いつもわいわい赤木がにぎやかだったし、私もてきとうにあわせてた。幼い頃、ママがパパから反対されても療育を私にうけさせてくれた。
たくさんの怖いことから、身を守る手段を少しずつ覚えた。
けど。
ーおまえは娘を信じないのか?母親か?俺の娘に限ってそんなことあるもんか!
ってパパが大きな声をだしていたのは、知ってる、周りだって、言ってた。
ー気にしすぎだ。
ママはお姉ちゃんたちを産んで育ててる、
ーどうしても、上の子たちとなんか違うの。お願い。
そう頭をさげていた。
ーおまえの母親は親じゃない。自分の子供をそんなふうに考えるなんて。
だけど、そんなパパが、
ーさすがは、俺の娘だ!
テストの点数をみて満足した顔で言う。その度に、あの頃の光景を私は思い出してた。
ー私が0点なら、ママの娘なの?
パパの娘じゃないんだよね?
って、思うけど。ため息がでる。パパのいる家にこれから帰る。
なんだか気分がどんよりする。療育をうけたから、私は赤木にあわせられてる。
福岡の地下鉄の音や光からは、村上や明日菜が気づいてくれたけど、あれだけたくさんいた赤木じゃなかった。
ー赤木じゃなかった。
いつかお嬢にも、お嬢の手品師がきっとできる。
そう私のマジシャンたちは言うけど。
ふと歩いてると畑を耕すトラクターのそばに白鷺がいて、耕すたびにトラクターのあとをついていく。
田舎ではたまに猿を追い払うために爆竹がなる。山になると、やっぱり野生動物は農産物を荒らすから、電気柵なんかある場所もあるけど。
トラクターの耕す場所を鳥がかこむ。秋になったら、少し大きくなった雛も一緒にトラクターのあとをついていくのかなあ?
昔は手作業だったんだよ?って職人さんたちが笑う道具もたくさんあるけど、職人長がすごいのは、やっぱり長年の感覚だともみて思う。
そういえばキャサリン・ジョンソンさんはコンピューターと競えるくらいの計算力だったかなあ?
もう私が知ってる世界ではNASAだけど。当たり前に情報はすべてポケットサイズだけど。職人長はあのバレンタインだけは、調べてたみたい。
ー口コミサイト。
効果はすごいんだろうなあ、って職人長に思った。絶対に行かないはずの場所のお土産。
南九州の片田舎にずっといる職人長は人酔いしたらしい。私もなんとなくわかるけど。
ちょっとだけイタズラしたお土産がある。
ーお嬢にもいつか現れるよ?
そう私のマジシャンたちは言うけど。
明日菜たちをみてると、あんな風に想える相手が私にできるとは、思えない。
私の方が村上より、生きにくい世界をいきてく。もうあわせて、たくさんの刺激から身を守る方法も学んできたけど。
ママがパパや周囲の反対より、偏見より、いろんなことより、私の未来を考えてくれて、そして文字通り、専門のスタッフさんによってうけれた療育。
ーはやく偏見がなくなったらいいのに。
たくさんの差別がなくなったら、いいのに。そうしたら、きっともっとたくさんの、
キャサリンさんみたいな人がいる?コンピューターと競えるのかなあ?
私の手品師たちは、コンピューターや手のひらサイズのたくさんの情報のようで、実は狭い世界より、
ーリアルでたくさんの不思議を教えてくれる。可能性を見せてくれる。
けど。
…私には明日菜も村上も、わからないよ?わかれる道を選ぶの?
そんな不毛な未来を、村上はみるのかなあ?
ーすごい不思議だ。なにが私と村上の違いなんだろ?