家 明日菜 ②
ー好きなのかな?こんど、きいてみよう。
これから先、少しずつ私は真央をしっていくだろうけど、
ー村上くんを知る時間は、あるのかな?
加納さんを見ながら、そう思うけど、
ー知る必要もないかも?
だって、私はこの人のところにいく。その場所に村上くんも真央もいない。
ー赤木くんから守ってくれたのは、赤木くんに怒ってくれたのは、
村上くんと、真央。
…加納さんじゃないよ?
「じっと見つめてくるのは、癖なの?」
加納さんが少し目線をそらしながら、言った。
「考えことをしてる時のクセかもね?」
お母さんは私をみて笑うけど、お父さんが苦い顔をした。
「俺は明日菜に見つめられないぞ?」
「だって、あなたは、いつも朝陽に振り回されてそれどころじゃないでしょ?」
「…たしかに」
「朝陽って、ファザコンでブラコンでシスコンなのよね?」
「マザコンはないのか?」
「ファザコンでマザコンなわけないでしょ?うれしい?」
お母さんがお父さんに笑うけど、
「…あれをファザコンですますのか?」
お父さんは微妙な顔で、でも少しだけ嬉しそうにしてる。
「仲がいいご家族なんですね?」
加納さんが言って、
「長男がよくできた子なんです」
お母さんが胸をはり、
「俺じゃないじゃないか⁈」
お父さんが叫んだ。
「まあまあ、明日菜がお土産買ってきてくれたから、甘いもの食べて落ち着いて?」
「俺は落ち着いて…、ないな」
お父さんは、ため息をついてソファーで、肩をおとした。そして私を見る。
「なんで、修学旅行に行って、さらに、遠くに行くんだ?家に帰るまでが、学校行事だろ?」
「あら?あなた。それは遠足でしょ?」
「どっちでもいい!いちいち、つっこむな?朝陽はおまえに絶対似てるぞ?」
「あら?よかった。あなたに似なくて?」
「…それも嫌な返しだな?」
「そんなセリフ言うからよ?」
お母さんがあきれて言う。お父さんは、またふてくされた顔をして、ため息をついた。
お母さんは、今度は黙ってた。
ーたしかに、お姉ちゃんがいたら、エンドレスでお父さんをからかってるから、話がすすまない。
同じような、すすまない会話だけど、村上くんとは違うかも。
ーお姉ちゃんとお父さんは、あいうえお作文じゃないし、お母さんとのやりとりを、加納さんは苦笑しながらも、微笑ましくみてる。
私もお母さんは、楽しそうに見えるけど、
ーあいうえお作文は、つかれる。
ても、あきれながら、いつのまにか、私は笑ってたかもしれない。いまのお父さんみたいに?
…私はどっちに、性格が似てるのかな?
って思うけど、噂にきいてる先輩、と、村上くんは違うみたいだから、私も違うんだろうな?
お姉ちゃんとお兄ちゃんは、似てないけど、やっぱり、私にはお兄ちゃんと、お姉ちゃんだし?
ー村上ぐんは、その先輩、と、どんな会話をするんだろ?やっぱり、あいうえお作文なのかな?
でも黄原くんや真央とは、会話してたような?
「それで、明日菜は、スカウトに乗り気なんだな?」
お父さんが、加納さんから差し出されたプロダクションの概要をみながら、私に言う。
ーあんな神城さんを、見たくない。
ーあんな明日菜を、見たくない。
中学二年の初夏。まだ13歳の私は、ううん?冬なら、きっと中学一年だ。
ーどんなふうに、私はふたりに、映ってだんだろう。
おなじ中1だったはずなのに。まるで違う世界のように、ふたりは、私を守ろうとしてくれてる。
つかれきった顔で、あきらめたように、しずかな眼差しで、
ー逃げなよ?
ー逃げて?
ー見たくないよ?
ーだから、見たくないんだ。
ー誰かが傷つくのは、嫌なんだ。
人は、きっと、
ー自分の痛みより、他人の痛みに、敏感なんだ。
真央と村上くんは、きっとそうなんだ。
だから、
「うん、東京行ったら、きっといまの悩みも少なくなるかな?あんなキラキラした世界だもん。きっと田舎からきた私なんかか目立たないよ?」
ーめだつから、たたかれる。モグラ叩きはスピードもあるけど、数だよ?だけど、特別ボーナスもあるしね?
って、真央が言ってだけど。
地上にでないなら、いいし?
出ても多数派に混ざればいいし?
…特別ボーナスは、いらない。
って思うのに、
「私が育ててみせるわ!安心しなさい?」
無料よりこわいものは、ない。
って、真央?
私は思っちゃった。