帰宅 明日菜
村上くんは自宅のすぐそばまで送ってくれた。
大きなバックをうけとり、お礼をいう。
「今日…、ううん、いままでも、ありがとう」
「いままで?」
「うん、クロックスとか、傘とか、あの日とか」
ー屋上。
そう口には出さなかった。
「ああ、ラッシーはあんな飴食べないぞ?」
「それはクロックスでしょ⁈」
「最後までブレずに短気だな?神城さん」
村上くんが、肩をすくめて、あきれた顔をした。
「まだ最後じゃないからね⁈それに、何度も言うけど、私を短気って言うのは、村上くんと真央だけだからね?」
そもそも、はじまったばかりのはず?最後ってなに?
そりゃあ、夏休みまでくらいだと思うけど…。期間限定はたしかだけど。
言葉が当てはまらなくて、もやもやする。
「まあ、明日は休みだし?ゆっくりしたら、イライラもおさまるかも?」
「そう思うなら、あいうえお作文やめて?」
「あっ?つぎはナ行か?」
「やらないからね⁈そもそも私の話をきいてる?」
「ナガレタゴカエルって知ってるか?」
まったくきいてない。
「庭には、いないと思うけど?」
だから、明日菜?答えなくていいよ?って自分でも思うけど。
「ぬいぐるみにいるかな?」
「猫の方が可愛いと思うけど」
「のんきな感想だな?神城さん?」
「どうして、私なの⁈」
そりゃせっかちでもないけど、のんびりでもないはず?
うちでのんびりしてるのは、お母さんとお兄ちゃんかなあ?
だけど、たぶん、目の前にいる村上くんも負けてない気がする。
マイペースとのんびりって違うのかな?ってふと思うけど。
たまに、流れてる時間が違うのかなあ?って思う時があるし?
「ほら?やっぱり短気だ。神城さん」
村上くんが笑う。日焼けした顔で。
「ー村上くんは、明日、部活なの?」
「そう。部活がある。部員たちで買った土産も渡すし?そこにいないと、なんかめんどくなりそう」
「なんか言われるの?」
「お礼」
「よくない?」
「返事がいるから?あいうえお作文以外に」
「私にも、まともに返事して⁈」
ー村上、後輩たちに人気あるんだよね。
ふいにクラスメイトたちの会話を思い出した。部員のなかには、後輩もいるよね?
でも、みんなで買ったって言ってるし?
「ああ、けどひとりだけは、確実に話すよなあ。私は他の部員と違う土産じゃないと嫌だって言ってきたし」
「えっ?」
「偉そうじゃないけど」
「えっ?」
「偉そうな態度だよな?発言だけなら」
「えっ?」
「衛生は保ってくれてる」
「えっ?」
「えらいって方言で使い方ちがうよなあ」
「えっ?」
「えらい大変だから、労えよ?か?」
ーたぶん、後輩さんが言ってる意味は、ちがうと思う。
けど、勘違いしてるなら、放っておこう。
「私が村上くんの彼女だからね?」
「えらいよなあ?俺」
…どの、えらい?
って思うけど、
「俺が神城さんの彼氏だよ?」
って、村上くんは笑った。