SS 竜生の帰省
「えっ?会社やめる?竜生が?」
次男の春馬ならわかるけど(わかりたくもないけど、正直、あの子にはもう驚かない)、私は数ヶ月ぶりに帰省した長男の竜生をみる。
なぜかスーツ姿の竜生は頷いた。
「こっちで就職しようかと思って」
「それはいいが、この家あてにするなよ?」
「そこ⁈」
私はつい夫に目をうつす。
「だって、いままでラッシーとお前とのんびりしていたんだぞ?いまさら、また一緒にすごしたいか?」
「それもそうよね」
「母さん⁈」
まだまだ私は元気だし?子供元気で時々帰省?でいい?かしら?
って、つい夫にうなずく。竜生は自分でするだろうけど、長年の親としての習慣で、ご飯やお洗濯はするだろうし?
その辺は、もう生活習慣みたいに刷り込まれてる。私の方に。
「まあ、ひとり暮らしはする予定だけど」
「いまの会社でなんかあったの?」
パワハラとか頭をよぎるけど、竜生は要領がいいし?
「ちがうよ?ただ、こっちでのんびりもいいかな?って」
「まて?田舎がのんびりは間違えだ。働くのは、変わらないぞ?」
「春馬に言えよ」
「あいつは、アウトレットだから、気にするな?」
「どうして我が子がアウトレットなのよ?」
「中身に問題はないだろ?穴のないコインとか価値が上がるだろ?」
「ー親父、年々じいちゃんに似てないか?」
「…それは嫌だな」
「私はお義父さん好きだけど?」
「それとこれはまたベツだ」
って夫は苦い顔をした。夫がなんだかんだで、義父を尊敬していた事はわかるけど。
ーお義父さんがいなかったら、春馬はどうなってたのかしら?
母親の私より義父に懐いた春馬を竜生と同じ愛情で育てたと自信持って私は言えない。
もちろん、とても大切で、絶対的な存在だけど、竜生と春馬に対しては、同じ息子だけど、やっぱりちがう。
竜生は竜生。
春馬は春馬。
私はふたりの母親で、けど、春馬は私より義父に懐いていた。
ー私が母親なのに。私だって小言ばかり言わないで、甘やかしてたい。
ずるい、って思わなくもないけど。
ー女の子がいたら、ちがうのかしら?
いまは義理の娘ができたけど、なんというか、
ーいまだに信じられないけど。義理の娘のご両親は、ご近所さん(田舎の)ですっかり仲良くなってる。
本人はとても忙しい子なので、なかなかあえないけど、地元にいる娘さんは、とても明るくて私たちを笑わせてくれる。
素直に、地元に子供がいるって、羨ましいとも思ってたけど、
ーいざ言われたら動揺するわね。
「就職はどうするの?あなたがいる会社の方がいろんな条件でいいはずよ?」
「うん、わかってる。ちゃんと考えたよ?まだ、辞表もだしてないし」
「今回は就活で帰省したのか?」
「まあ、それもあるけど、いろいろとね。俺はほら?春馬と違って石橋を叩きすぎちゃうタイプだからさ?」
たしかに竜生はそういう子でもあるけど。
「なら、なおさら変よ?」
竜生が田舎でのんびりしたいなんて理由で帰省するなんて?
私は首を傾げる。顔色も悪くないし、疲れてるようにも見えないし?竜生の会社は悪くないはず?
私は留年した時から、もう竜生には、口だしをしてない。竜生が自分でかんがえて、たまにきかれたらこたえるくらいになってた。
春馬の方は常に事後報告だし?あの子の場合は、真央ちゃんの実家経由で話が入ってたけど。
ーうちの真央じゃなくて、明日菜ちゃんだったのねー。
って私と違ってふたりが知り合いだと知ってたらしい真央ちゃんのお母さんは笑ってたけど。
いまでもあんな有名な子とうちの春馬が⁈だけど。
ーいつか実感わくのかしら?
てれたように私をお義母さんと呼んでくれた時は、めちゃくちゃ可愛かったけど?
ほんきで、
ー全力であなたの味方だから!だったような。
…よくあんなの選んだわね?があるけど。
うちの妹可愛いですよ?
って朝陽ちゃんの口癖だし?とても大切に愛されて育った娘さんだと思う。
朝陽ちゃんもだけど。
「…ま、一度しかないおまえの人生だ、好きにしろ?ただ、ひとり暮らしはしろよ?一緒にすむとやっぱり無断で、朝帰りとかつい心配なるしな」
「そうね」
いくつになっても、心配にはなりそうだし?
ー娘じゃなくて、よかったかしら?
たまに朝陽ちゃんがおもしろがって春馬と明日菜ちゃんの写真を見せるけど、
ー私は和式にする?
ー鬼か?お前は?
って父娘の会話が微笑ましい。
「…そういえば、あなた春馬たちの結婚式で朝陽ちゃんとよく話してたわね?」
「そりゃあね。いちおう先輩で、身内になるんだから」
「まあ、そうね。朝陽ちゃんいつも朗らかな子よね。あんな娘さんたちがいて神城さんが羨ましいわ」
「先輩みたいな娘欲しい?」
「そうねー。明るくなるわね、きっと」
「神城さんに恨まれるぞ?ありゃ、攻略がかなりいるぞ?朝陽ちゃんファザコンでブラコンだしな?」
「…だよな」
竜生が軽くため息をついて、私と夫は、
ー?
だった。