帰り道 春馬 ③
柴原と黄原の苦笑いが少し気にはなったけど、俺にはリードないけど、そのまま神城についていく。
ラッシーは、前を行くか、後ろからついてくるか?
真横で散歩は、うちのラッシーにはむりだ。そもそもうちは、教えてないけど。
…教えても、俺がじっと我慢できないだろうけど。
ラッシーと俺のために教えようとした親父の手から、その俺がリード奪って走り出していた気もする。
ー俺のせいじゃね?
ラッシーなら、神城の前か後ろで歩くだろうけど、
ー俺、ラッシーになる必要ないよなあ?
首を傾げつつ、とりあえず神城の隣を歩くけど、奇妙な感じがする。
ー名犬になる必要なくね?
ただ後ろからついていったら、この場合、
ーナガレタコカエル。
いままでと変わらなくね⁈
先に歩いたら、神城になんかあっても、わからないだろうしなあ。
後ろかの方が確かにつけやすい気もするけど。真横に歩いてても、ラッシーはいきなり立ち止まるしなあ。
えっ?こんなとこで⁈
って思うけど、ラッシーの方が地面と近いし嗅覚がすぐれてるから、俺が見えない何かに反応してるらしい。
拾い食いは、めちゃくちゃ気を配るし、ダメ!とはいいきかせるけど。
どこまでダメで、どれからなら、いいのか?わからないから、ダメだってしてる系だ。
草食うしな?ラッシー。ただ草も、虫除けとか、除草剤とか、わかんないしなあ。
ーいちおう俺も手当たり次第に拾い食いは、いまは、しないぞ?
成長したぞ?
たぶん?
まあ、犬が田舎で食うって行ったら、雑草だと思うけど。神城は、福岡でもサラダばかり食ってたよなあ?
ラッシー?
って俺が思ったのと、神城がつぶやいて、俺を見てきたのが、同時で、
ー?
不思議に思ってたら、神城がなんか慌てたように口をひらいた。
「サ行は、もういらないよ?」
なんでサラダとラッシーをわかったんだ?すげーな神城。だから、そのまま疑問を俺は口にしていた。
「サラダばかり食ってんの?」
いちおうラッシーは、おやつあげるけど、メインはドッグフードで育ってるぞ?
「だから、あいうえお作文はもういいよ?って、いちおうサラダ以外も食べてるよ?お肉もお魚も食べるよ?」
もちろん、パンやご飯も。
って付け加えるけど、それにしては、
ーサラダばっか?
どうでもいいけど、シ?だよな?この流れなら、
「少食なのか?」
「他の子にもいるよ?」
なんか違うこたえきたけど、ス?
「少しだけなら食べていい系?」
「精一杯、食べようとはしてるよ?」
神城が言いながら、きれいな眉をひそめる。
「そう?」
「そうだよ?絶対にタ行はやらないからね⁈」
気づいたらしい。
えっ?タ行やらないの?もう会話しないって意味か?そりゃあ、俺は声にだす必要をあまり感じないけど、それは俺の声だけだから、
ー神城のはきいていたい。
つい、
「サラダばかりだからだ」
ってまたしょうこりもなく、サ行をリフレインして言うけど。
「俺の偏見だしなあ。草食獣がおとなしいなんか限らないしなあ?」
ゾウとかでかいしなあ。
ーそもそも蛇は草食じゃないか。
けど、細いよな?神城って。手に持つカバンが重そうだよなあ?
いや、体力なさすぎ?
「疲れてんのに、無理するなよ?もうすぐ、少しは視線なくなるからさ」
俺は気づいたら、神城のバックに手を伸ばしていた。
「だいじょうぶだよ?それくらい自分で持てるよ?」
神城が首をふる。だけど、なんかきつそうだしなあ?
「俺と帰るから、家族の車で帰れなかったんだろ?いろいろあったし、疲れてそうだ」
「それなら、あいうえお作文をやめてくれる?」
…ムダに疲れるから。
ってため息をつかれたけど。
「えー、じゃあ、なんの会話するの?」
「あれは、会話じゃないからね⁈」
でも、神城には通じるからいいだろ?柴原には無理だけどさ?神城には、通じただろ?
「声にだしたぞ?」
きちんと作文なるぞ?
「音にしただけでしょ?」
「えー?」
「絵はみるものだよ?」
「えっ?」
「映画は音声ガイドもたしかにあるけど」
「ええっ?」
「そりゃあ、映像には音声も映像もあるし、VRとかあるけど…。って、あそばないで?村上くん」
…なんでわかるんだ⁈
もしかして、俺がある言葉を思い出したら、
「エスパーじゃないからね?」
「エスパー⁈」
すごすぎないか?神城⁈
驚いてたら、神城がまたため息をついて、俺が手にしたカバンに、手をのばしてくる。
自分の荷物くらい自分でもつよ?って言うけど、あまりに細くて、白いから、つい身をひいた。
神城が少し戸惑って俺に言う。
「彼氏だからって、そんなことしなくていいよ?」
えっ?彼氏って荷物持ちなのか?
休日のスーパーの親父や俺か?
親父って彼氏か?いや、たしかに?
でもまてよ?俺は異世界人の彼氏じゃないぞ?
…異世界代表みたいな神城の期間限定には、なったな。
タイムセールの特売につられて買ったけど、いらなかった系?
…それともほんとうにラッキーだった系か?
俺は神城にとって、どっちになれるんだろ?いや、ちがうか。
ー俺はどっちになりたいんだろ?きっと、夏にはもう神城はいない。
でっかいバックをもつ神城を目にするのは、
ーこの場所じゃない。
俺は神城のバックを持ちながら、足をとめて、神城をみつめる。
俺や柴原や黄原、それにたぶん赤木がもらう卒業アルバムに、このバックは映るけど、
…その風景にきっともう神城はいない。
兄貴はぐんぐん背がのびて、もうすぐ親父に追いつきそうなくらい高いけど、俺の身長は高くない。
だから、目線は神城と同じくらいだった。神城のきれいな瞳は、苛立たそうに俺をみてる。
ーそして、ふいに、気弱な表情に一瞬だけなった。
ほらみろ?視線に疲れてるじゃないか?
「あれだけ視線にさらされたんだ。気疲れしただろ?旅行バックだけだよ?」
そう言って、俺は神城から視線をそらして歩き出した。
ー視界にはいらないでくれたら、いいのに。
たぶん野良猫を見つけた時に、ある程度の人間は、かわいいって感情より先にそう思うだろう。
そうすれば、幸せを願える。なんもしてないのに、なんにもできない罪悪感に、
一方的な理不尽な道徳に、自分たちは無視するくせに、ただ、押しつけてくる理不尽なルールに、罪悪感でいっぱいになりながら、
わからないよ?って思うんだ。幸せにって、願いすら、罪に思ったんだ。
じいちゃんの手を握りしめて探しにもどり、小さな命の儚さに、
…野良猫と飼い猫を一緒に考えたらダメなんだよ?春馬。カラスは悪くない。
…人間が悪いの?
…ちがう。おまえのまわりは、ちがうって、はっきりじいちゃんは言うよ?だけど…。その質問のしかたなら、じいちゃんもうん、としか言えないかもな。
むずかしいな?ってじいちゃんが言ってたな。
ーだけど、春馬、おまえのまわりに、それを喜んでいる大人はほんとうにいるか?ってじいちゃんはきいてきた。
そして、
「…ありがとう」
なんてあの後、じいちゃんは言ってたかなあ?
ありがとう、では、なかったな。
俺はビックリして神城をみつめる。
南九州の片田舎とは比較にならないくらい、たくさんの博多や天神の人混みでも、神城はめだってた。無数の視線にプラスαで、スマホまで追加して、追ってきて、
ーいったいどれだけ無数の視線だよ?
カメラ機能がなければいいのに、って思う反面で、べんりだよなあ。って思いはする。
神城は、ひとつ大きく息を吐き出して、肩の力を抜いてぬいた。なんだか表情がさっきより穏やかになった?
「ー家に帰ってから、大変だろうし?」
とたんに、また不機嫌になる。もはや神城=この表情かもしれない。
「誰のせいよ?」
誰だろ?柴原か?だけど、
ー?
「えっ?俺も柴原も関係なくない?」
「どうして、真央がでてくるの⁈」
「ー?柴原だから?」
ほかに、だれかいるのか?神城や俺が共通して話すやつ?
俺は首を傾げた。神城がまたため息をつく。
ー彼氏がいてもいいのなら?
あのセリフを言ったのは、神城だよな?
そりゃあ、スカウトにであう確率は仕組んだけど、あのセリフは、柴原にも予想しなかったはず?
ー俺には、もっとなかったし?
「東京行くまでは、俺と柴原がサポートするよ?」
それくらいはアフターするぞ?
「だから、なんで、真央⁈」
「柴原だから?」
ほかになんって言うんだよ?なんか黄原もいやだぞ?兄貴はなんかもっと嫌だぞ?神城にいうのも。
それに、さ?
ーだって、柴原はきっと卒業アルバムで同じバックで、映るだろう?
…神城とちがって、さ?
俺はつい、前歯で下唇を少しかんで、痛みに顔をちょっとだけしかめた。
痛いのなんか気のせいだ。そう笑う。
「だいじょうぶだよ?夏まで、俺と柴原は頑張るからさ?」
…守るなんか、軽々しく言えないけど。
約束なんかできないけど。
ーあの人に、たくすしか、ないけど。
私なら守れる。
あんなにはっきり言うんだな?
言えるんだな。
じゃあ、もう、しょうがないじゃないか?
ーあんな神城をみるのは、もう嫌なんだ。
神城を守れるなら、ほんとうに、俺じゃなくて、いいんだ。
そう笑ってた。




