表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

432/652

帰り道 春馬 ③


柴原と黄原の苦笑いが少し気にはなったけど、俺にはリードないけど、そのまま神城についていく。


ラッシーは、前を行くか、後ろからついてくるか?


真横で散歩は、うちのラッシーにはむりだ。そもそもうちは、教えてないけど。


…教えても、俺がじっと我慢できないだろうけど。


ラッシーと俺のために教えようとした親父の手から、その俺がリード奪って走り出していた気もする。


ー俺のせいじゃね?


ラッシーなら、神城の前か後ろで歩くだろうけど、


ー俺、ラッシーになる必要ないよなあ?


首を傾げつつ、とりあえず神城の隣を歩くけど、奇妙な感じがする。


ー名犬になる必要なくね?


ただ後ろからついていったら、この場合、


ーナガレタコカエル。


いままでと変わらなくね⁈


先に歩いたら、神城になんかあっても、わからないだろうしなあ。


後ろかの方が確かにつけやすい気もするけど。真横に歩いてても、ラッシーはいきなり立ち止まるしなあ。


えっ?こんなとこで⁈


って思うけど、ラッシーの方が地面と近いし嗅覚がすぐれてるから、俺が見えない何かに反応してるらしい。


拾い食いは、めちゃくちゃ気を配るし、ダメ!とはいいきかせるけど。


どこまでダメで、どれからなら、いいのか?わからないから、ダメだってしてる系だ。


草食うしな?ラッシー。ただ草も、虫除けとか、除草剤とか、わかんないしなあ。


ーいちおう俺も手当たり次第に拾い食いは、いまは、しないぞ?


成長したぞ?


たぶん?


まあ、犬が田舎で食うって行ったら、雑草だと思うけど。神城は、福岡でもサラダばかり食ってたよなあ?


ラッシー?


って俺が思ったのと、神城がつぶやいて、俺を見てきたのが、同時で、


ー?


不思議に思ってたら、神城がなんか慌てたように口をひらいた。


「サ行は、もういらないよ?」


なんでサラダとラッシーをわかったんだ?すげーな神城。だから、そのまま疑問を俺は口にしていた。


「サラダばかり食ってんの?」


いちおうラッシーは、おやつあげるけど、メインはドッグフードで育ってるぞ?


「だから、あいうえお作文はもういいよ?って、いちおうサラダ以外も食べてるよ?お肉もお魚も食べるよ?」


もちろん、パンやご飯も。


って付け加えるけど、それにしては、


ーサラダばっか?


どうでもいいけど、シ?だよな?この流れなら、


「少食なのか?」


「他の子にもいるよ?」


なんか違うこたえきたけど、ス?


「少しだけなら食べていい系?」


「精一杯、食べようとはしてるよ?」


神城が言いながら、きれいな眉をひそめる。


「そう?」


「そうだよ?絶対にタ行はやらないからね⁈」


気づいたらしい。


えっ?タ行やらないの?もう会話しないって意味か?そりゃあ、俺は声にだす必要をあまり感じないけど、それは俺の声だけだから、


ー神城のはきいていたい。


つい、


「サラダばかりだからだ」


ってまたしょうこりもなく、サ行をリフレインして言うけど。


「俺の偏見だしなあ。草食獣がおとなしいなんか限らないしなあ?」


ゾウとかでかいしなあ。


ーそもそも蛇は草食じゃないか。


けど、細いよな?神城って。手に持つカバンが重そうだよなあ?


いや、体力なさすぎ?


「疲れてんのに、無理するなよ?もうすぐ、少しは視線なくなるからさ」


俺は気づいたら、神城のバックに手を伸ばしていた。


「だいじょうぶだよ?それくらい自分で持てるよ?」


神城が首をふる。だけど、なんかきつそうだしなあ?


「俺と帰るから、家族の車で帰れなかったんだろ?いろいろあったし、疲れてそうだ」


「それなら、あいうえお作文をやめてくれる?」


…ムダに疲れるから。


ってため息をつかれたけど。


「えー、じゃあ、なんの会話するの?」


「あれは、会話じゃないからね⁈」


でも、神城には通じるからいいだろ?柴原には無理だけどさ?神城には、通じただろ?


「声にだしたぞ?」


きちんと作文なるぞ?


「音にしただけでしょ?」


「えー?」


「絵はみるものだよ?」


「えっ?」


「映画は音声ガイドもたしかにあるけど」


「ええっ?」


「そりゃあ、映像には音声も映像もあるし、VRとかあるけど…。って、あそばないで?村上くん」


…なんでわかるんだ⁈


もしかして、俺がある言葉を思い出したら、


「エスパーじゃないからね?」


「エスパー⁈」


すごすぎないか?神城⁈


驚いてたら、神城がまたため息をついて、俺が手にしたカバンに、手をのばしてくる。


自分の荷物くらい自分でもつよ?って言うけど、あまりに細くて、白いから、つい身をひいた。


神城が少し戸惑って俺に言う。


「彼氏だからって、そんなことしなくていいよ?」


えっ?彼氏って荷物持ちなのか?


休日のスーパーの親父や俺か?


親父って彼氏か?いや、たしかに?


でもまてよ?俺は異世界人の彼氏じゃないぞ?


…異世界代表みたいな神城の期間限定には、なったな。


タイムセールの特売につられて買ったけど、いらなかった系?


…それともほんとうにラッキーだった系か?


俺は神城にとって、どっちになれるんだろ?いや、ちがうか。


ー俺はどっちになりたいんだろ?きっと、夏にはもう神城はいない。


でっかいバックをもつ神城を目にするのは、


ーこの場所じゃない。


俺は神城のバックを持ちながら、足をとめて、神城をみつめる。


俺や柴原や黄原、それにたぶん赤木がもらう卒業アルバムに、このバックは映るけど、


…その風景にきっともう神城はいない。


兄貴はぐんぐん背がのびて、もうすぐ親父に追いつきそうなくらい高いけど、俺の身長は高くない。


だから、目線は神城と同じくらいだった。神城のきれいな瞳は、苛立たそうに俺をみてる。


ーそして、ふいに、気弱な表情に一瞬だけなった。


ほらみろ?視線に疲れてるじゃないか?


「あれだけ視線にさらされたんだ。気疲れしただろ?旅行バックだけだよ?」


そう言って、俺は神城から視線をそらして歩き出した。


ー視界にはいらないでくれたら、いいのに。


たぶん野良猫を見つけた時に、ある程度の人間は、かわいいって感情より先にそう思うだろう。


そうすれば、幸せを願える。なんもしてないのに、なんにもできない罪悪感に、


一方的な理不尽な道徳に、自分たちは無視するくせに、ただ、押しつけてくる理不尽なルールに、罪悪感でいっぱいになりながら、


わからないよ?って思うんだ。幸せにって、願いすら、罪に思ったんだ。


じいちゃんの手を握りしめて探しにもどり、小さな命の儚さに、


…野良猫と飼い猫を一緒に考えたらダメなんだよ?春馬。カラスは悪くない。


…人間が悪いの?


…ちがう。おまえのまわりは、ちがうって、はっきりじいちゃんは言うよ?だけど…。その質問のしかたなら、じいちゃんもうん、としか言えないかもな。


むずかしいな?ってじいちゃんが言ってたな。


ーだけど、春馬、おまえのまわりに、それを喜んでいる大人はほんとうにいるか?ってじいちゃんはきいてきた。


そして、


「…ありがとう」


なんてあの後、じいちゃんは言ってたかなあ?


ありがとう、では、なかったな。


俺はビックリして神城をみつめる。


南九州の片田舎とは比較にならないくらい、たくさんの博多や天神の人混みでも、神城はめだってた。無数の視線にプラスαで、スマホまで追加して、追ってきて、


ーいったいどれだけ無数の視線だよ?


カメラ機能がなければいいのに、って思う反面で、べんりだよなあ。って思いはする。


神城は、ひとつ大きく息を吐き出して、肩の力を抜いてぬいた。なんだか表情がさっきより穏やかになった?


「ー家に帰ってから、大変だろうし?」


とたんに、また不機嫌になる。もはや神城=この表情かもしれない。


「誰のせいよ?」


誰だろ?柴原か?だけど、


ー?


「えっ?俺も柴原も関係なくない?」


「どうして、真央がでてくるの⁈」


「ー?柴原だから?」


ほかに、だれかいるのか?神城や俺が共通して話すやつ?


俺は首を傾げた。神城がまたため息をつく。


ー彼氏がいてもいいのなら?


あのセリフを言ったのは、神城だよな?


そりゃあ、スカウトにであう確率は仕組んだけど、あのセリフは、柴原にも予想しなかったはず?


ー俺には、もっとなかったし?


「東京行くまでは、俺と柴原がサポートするよ?」


それくらいはアフターするぞ?


「だから、なんで、真央⁈」


「柴原だから?」


ほかになんって言うんだよ?なんか黄原もいやだぞ?兄貴はなんかもっと嫌だぞ?神城にいうのも。


それに、さ?


ーだって、柴原はきっと卒業アルバムで同じバックで、映るだろう?


…神城とちがって、さ?


俺はつい、前歯で下唇を少しかんで、痛みに顔をちょっとだけしかめた。


痛いのなんか気のせいだ。そう笑う。


「だいじょうぶだよ?夏まで、俺と柴原は頑張るからさ?」


…守るなんか、軽々しく言えないけど。


約束なんかできないけど。


ーあの人に、たくすしか、ないけど。


私なら守れる。


あんなにはっきり言うんだな?


言えるんだな。


じゃあ、もう、しょうがないじゃないか?


ーあんな神城をみるのは、もう嫌なんだ。


神城を守れるなら、ほんとうに、俺じゃなくて、いいんだ。


そう笑ってた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ